生産性

人づくり革命とは?基本構想や概要をわかりやすく解説

日本が直面してる問題のひとつ、「少子高齢化」。総務省の調査(※1)によれば、2010年には23.0%であった65歳以上の人口が2060年には39.9%までに増加することが見込まれています。

その一方で、2013年には7,901万人だった15~64歳までの生産年齢人口は2060年に4,418万人まで落ち込む可能性があります。少子高齢化が進む状況で、国はいかに労働力人口を確保していくのかは重要なテーマです。

また、日本では健康寿命が世界一の長寿社会となり、100歳を迎えることも難しい時代ではなくなりつつあります。それは「2007年に日本で生まれた子供の半数が107歳まで生きる」と海外の研究で推計されている(※2)ことからも、十分窺えることでしょう。

2017年12月、政府はそんな「人生100年時代」に、すべての国民が元気に活躍し続けられる社会を実現しようと「人づくり革命」に乗り出しました。今回はそんな「人づくり革命」の概要や基本構想について解説します。

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人づくり革命とは?

端的に言うと、「人づくり革命」は“人材への投資”です。政府は国民が高い教育を受けられる環境を整え、誰もが生きがいを感じながら生活できる社会の実現を目指しています。

たとえば社会で自立し、活躍できる人材を育てるために大学進学を支援したり、出産や育児、病気などで離職せざるを得なかった人々に学び直し・やり直しができる社会を提供したりしようとしているのです。

さらに高齢者向けの社会保証制度を、誰もが利用できる全世代向けの社会保証に変えることで安心して暮らすことができる社会も目標としています。では、具体的に「人づくり革命」の施策について見ていきましょう。

幼児教育の無償化

政府が発表した「人づくり革命」の基本構想によれば、人々が子どもを持たない最大の理由は「子育てや教育にお金がかかり過ぎるから」というもの。現在の日本では子どもを産んだところで十分な教育を受けさせる費用の捻出が難しく、結果的に「子どもを生まない」という選択を迫られている状況です。

政府は子育て世代の金銭的な負担を減らし、子どもを持ってもらう狙いから幼児教育の無償化を「人づくり革命」の施策のひとつとしました。

これは生まれて0歳から2歳までは住民税非課税世帯のみ、3歳から5歳までのすべての子どもを対象に、幼稚園・保育所・認定こども園の費用を無償化するというもの。2020年4月からの実施予定が2019年10月に前倒しとなることが決定し、幼い子どもを持つ人々からは喜びの声も聞こえています。

その反面、「待機児童の解消」を優先すべきではないか、という意見も多くあります。匿名ブログやSNSを中心に「保育園に入れなかった」という悲鳴が増加しているように、幼稚園や保育園に入所申請をしているにも関わらず、入所できない状態にある「待機児童」は後を絶ちません。

また、労働人口が減少している背景には、女性が出産や育児により仕事から離れざるを得なくなったことも大きく関わっています。仕事と育児を両立させるためにも、保育園・幼稚園の入所は必要不可欠。政府は「女性就業率80%」の実現に向け、32万人分もの待機児童を解消する受け皿の整備を進めることを宣言しています。

働く女性を悩ませるのは、幼稚園の待機児童だけではありません。小学校入学後の子どもが放課後を過ごす場所、“学童保育”にも定員があり、ひとりで留守番を任せることに不安を感じた結果仕事を辞めてしまう女性も少なくないといわれています。

こうした課題を解決するために、政府は幼稚園、保育園の待機児童解消とともに、30万人分の学童保育の受け皿を拡大するプランも視野に入れているようです。幼児教育の無償化、そして待機児童の解消に取り組むことは、子育て世代への金銭面でのサポートとともに、女性の社会進出を実現することでもあるのです。

高等教育の無償化

現在、日本は低所得者層における大学進学率が低い状況にあります。生涯賃金も高校卒と大学・大学院卒では7,500万円ほどの差が生まれており、貧困から抜け出すことが容易ではありません。貧困の連鎖を断ち切る意味でも、社会で活躍できる人材を育てる意味でも、所得が低い家庭の子どもにこそより良い学びの場を提供することは重要です。

どれほど学力が高くとも、学費が払えずに進学を断念してしまう……そんな経済格差が教育格差を生んでいることを危惧したことから、政府は高等教育(大学、専門学校など)の無償化実施に向け動き始めました。

具体的な内容としては、住民税非課税世帯(年収270万円未満)の子どもたちに対し、国立大学であれば授業料を免除、私立大の授業料を一部免除、入学金に関しても一部減額を行うとしています。

さらに給付型奨学金の支援額を大幅に増やし、学生が学業に専念できるよう、十分な生活費を賄えるような措置を講じるとのこと。

ただし、支援を受けられるのは低所得世帯の学生全員ではありません。大学進学への意欲を十分に持っている学生を対象としており、進学後の学習状況が芳しくない場合は支給を打ち切られる可能性もあります。あくまでも無差別に支援をするのではなく、本人が自立し、社会に対して貢献できるかどうかを見極めることを重要視しているのです。

大学革命

人づくり革命の主軸であり、時代に合ったかたちに改革を進めることが重要視されている「大学」。その一端として、政府は生徒の学習成果の「見える化」、大学間の連携、統合を検討しています。

現在、日本全国には800校弱もの私立大学が存在します。しかしそのうちの定員充足率は6割にとどまり、赤字となっている大学は37%にも昇ります。そんな時代だからこそ、大学は魅力的なカリキュラムを用意し、なんとか生徒を集めようとしているのです。

無意味に進学するのではなく、大学で何を学ぶのか。最終的に社会に出た際のことも踏まえ、政府は大学が持つ意義を再構築し始めています。

リカレント教育

政府の調査によると、労働者の5割ほどがあらためて学び直しを実施したことが明らかになっています。学習への意欲を持つ一方で、多くの時間や費用が必要となることを課題に感じている労働者。政府はそんな人々に対し、生涯にわたり教育と労働を繰り返す「リカレント教育」を推奨しています。

リカレント教育は、趣味とは異なり、労働が前提にある学習のこと。もともとスウェーデンの経済学者レーンが提唱した考えであり、OECD(経済協力開発機構)で取り上げられたことで国際的に注目されるようになったといわれています。

海外ではオーソドックスなスタイルですが、日本ではなぜ今まで定着してこなかったのか。それは、新卒で入社した会社で定年まで働き続けることが一般的だったからに他なりません。「社会人になったら、特に新しいスキルや知識を身につけることなく、ただ働けばいい」……そんな考えも、現代の日本では古い時代のものになりつつあります。

そもそも、誰もが現在の仕事をいつまでも続けられる保証はどこにもありません。単純な間接業務を自動化するRPA(Robotic Process Automation)やAIをはじめとする技術革新が著しい昨今、多くの仕事が機械に取ってかわられる可能性が考えられます。

●RPAは働き方改革の切り札となるのか———いまさら聞けないRPAと、その実力について。

また、女性は出産や育児といったライフイベントで、男性も大きな怪我をすれば一時的に仕事から離れざるを得ない状況に陥るかもしれません。「このまま働き続けられれば大丈夫」と過信するのではなく、どんな場合でも働き続けられるよう、自身の能力やスキルを常にアップデートすることこそが今後の社会でも生き残る秘訣だといえるでしょう。

また、「働き方改革」として多様な働き方を企業が見つめ直す今だからこそ、キャリアアップを目的とした学び直しが注目されています。

政府はそんなリカレント教育をサポートするため、在職者であっても利用しやすい土日の教育訓練コースを設けること、講座の最低時間を緩和、仕事と両立しながら学べる環境を整えることを勧めています。

現時点でも一部の大学ではリカレント教育として夜間の講座を開講しており、最終的に診療心理士や学芸員といった資格を取得することも可能。給付金を受けられる対象の講座もあり、今後もさらにリカレント教育の場は広がっていくことでしょう。

そして学び終えた後、再び就労できるよう、企業に対して中途採用を拡大することも呼びかけています。年齢に関わらず、いつまでも能力を高めて働くことができる……政府はこうして経済を活発化させることを目指しているのです。

高齢者雇用の促進

政府は、65歳を過ぎてもなお、働く意思を持つ人が65%にも昇ることを調査によって明らかにしました。さらにそのうちの29%は「働けるうちはいつまでも」という強い就労の意思を示しています。

人生100年時代に向け、高齢者雇用の促進は避けては通れないもの。「働きたい」という希望を尊重することで人々の生活を充実したものにすることはもちろん、経済の成長力を引き上げる何よりの要因になります。

実際に高齢者の身体年齢や読解力はそれほど衰えていないとの調査結果もあり、働くことは決して難しいわけではありません。それどころか、60歳以上で起業を考えている人も増加しており、社会での活躍が期待できるほど。そんな高齢者たちを後押しする意味でも、政府は基礎的なIT・データスキルの習得のための訓練を拡充し、活躍の場を支援しようとしています。

事実、安倍首相は2018年10月22日、議長を務める未来投資会議で、高齢者が希望すればこれまでより長く働けるよう、企業の継続雇用年齢を65歳から70歳に引き上げる方針を示しました。

まとめ

健康寿命が長くなったことは、嬉しいことに他なりません。しかし、少子高齢化がこのまま進んでいけば、労働人口の減少に伴い日本は今よりも貧しい国になってしまう可能性もあります。長く生きられるようになったにも関わらず、経済力が衰えてしまった日本で生きるのはなんとも悲しいもの。その最悪のシナリオを回避すべく、日本は「人づくり革命」の実現に踏み切りました。

実現にはまだまだ多くの課題があり、単純にいかないことは誰の目にも明らかです。それでも、まずは行き届いた教育の環境を整え、充実した人生を送ることができるように政府は努力を続けていくのでしょう。

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<参考>
※…人づくり革命 基本構想 参考資料
※1…我が国の労働力人口における課題 | 総務省
※2…「人生100年時代」に向けて | 厚生労働省

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