生産性

働き方改革の事例集〜導入ステップから中小企業のユニークな事例までを紹介〜

執筆者:田尻 亨太

「一億総活躍社会」の実現に向けて日本政府が推進している働き方改革。少子高齢化による労働人口減少が進む日本では、多様な人材が活躍できる環境づくりが欠かせません。こうした背景から、生産性向上に向けて働き方改革を推進する企業が増えています。

そこで今回は、働き方改革に成功した企業や自治体の事例を株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役社長小室淑恵氏の著書『働き方改革 生産性とモチベーションが上がる事例20社』(毎日新聞出版)を参考にしながらご紹介します。

働き方改革に取組むまでの4つのステップ

働き方改革に正解はありません。100社あれば100通りの課題と解決方法があります。「他社がやっているから」「法で規制されるから」「労基署に入られては困るから」といったモチベーションで働き方改革を推進しても、一時的な改革で終わってしまうでしょう。

大切なことは、自社にあった施策の必要性を全員が理解し、経営陣も含め納得したうえで進めていくこと。継続的に生産性を高めていくためには、誰か一人が頑張っても意味がありません。働き方改革は、チームで協力しながら進める必要があるのです。では具体的に、どのようなステップで取り組んでいけばいいのでしょうか。

ステップ1:ゴールを決める

まず取り組むべきは、ゴールイメージのすり合わせです。自分たちが働き方改革を通じて何を実現したいのか、働き方改革を推進するメンバー全員で話し合う機会を設けます。最初のミーティングでは、まずホワイトボードなどにテーマ・ゴール・議題を明記してください。その内容に沿って議論を展開し、各メンバーの意見を議題ごとにA3用紙などに付箋で貼り付けていきます。

<ホワイトボードの記入例>

テーマ:なぜ働き方改革が必要なのか
ゴール:チームのゴールイメージを決める

議題

1.今のチームのいいところ(15分)
2.今のチームの課題(15分)
3.理想の状態、1年後のゴールイメージ(20分)

ゴールイメージを決める際は、議題1と議題2で出たものを参考にします。まず、議題1の「いいところ」「もったいないところ」のグルーピングを行い、各グループにキーワードをつけます。そして、議題2ででた課題についてはポジティブな言葉に変換し、議題1でグルーピングしたキーワードとつなぎ合わせてゴールイメージを考えていきます。

ゴールイメージは以下のような文章にするといいでしょう。

<ゴールイメージの例>

「○○という課題を克服しながら、△△という長所はさらに伸ばし、協力し合うチームに。それにより生産性を向上させ、●●を達成する」

キャッチコピーのような短いフレーズのものだとあまり効果がないので、できるだけ具体的な文章にすることをおすすめします。ゴールイメージが完成したら最後にみんなで読み返し、全員が共感できる内容になっているか確認しましょう。

ステップ2:朝・夜メールで現状の働き方を確認する

ゴールイメージが決まったら、現状の働き方を朝メール・夜メールで確認します。朝メールは、1日の予定を15〜30分単位で時間とセットで書き出し、全社員に共有するもの。夜メールは、1日の終わりにその日に行った仕事を振り返るものです。

朝・夜メールは慣れてしまえば1通あたり5分程度でつくることができます。慣れないうちは時間がかかるかもしれません。しかし、この作業を続けていくことで、時間の使い方や優先順位のつけ方を客観視できるようになります。

また、「誰がどこで何をしている、しようとしているのか」がわかり、後輩にアドバイスしたり先輩に相談したりするきっかけにもなります。結果、自分やチームの働き方の課題を抽出するだけでなく、コミュニケーションの増加や、チームワークの向上にもつながるのです。

さらに、朝・夜メールは「関係の質」を改善することにも役立ちます。Googleが「仕事がうまくいくチーム」に必要な条件を調査した結果、「心理的安全性が高いチームは生産性が高い」ということがわかりました。

<心理的安全性が高い状態>

・各メンバーの発言量がほぼ同じ
・お互いの人の感情や考えを察する力が高い
・叱られたり、バカにされたりすることを恐れずに発言できる

「心理的安全性の高い」チームをつくるには「関係の質」の改善が欠かせません。マサチューセッツ工科大学のダニエル・キム教授は、コミュニケーションが活発で継続的に結果を出す組織にするためには、「関係の質」の向上が重要と提唱しています。メンバー同士が尊重し合えるようになれば、「思考の質」が向上し、アイデアや気づきが生まれてきます。その結果、「行動の質」が変化し自発的に行動するメンバーが増え、「結果の質」が高まるのだそうです。

<画像提供:株式会社ワーク・ライフバランス>

朝・夜メールを習慣化したら、次に1ヶ月分の朝・夜メールの結果を集計してみましょう。検証してみると、いろんな課題が見えてくるはずです。

例えば、「先輩が1時間で終わらせている仕事に自分は2時間も使っている」「急ぐ必要はないのに特定の業務ばかり優先させている」など、様々な課題が浮き彫りになります。課題が明確になれば、対策を講じることができるので、定期的に朝・夜メールをまとめて振り返る機会を設けるといいでしょう。

また、振り返る際は、以下のポイントをチェックしてください。

<振り返りのチェックポイント>

・自分が本来時間を割きたい業務は何か
・より効率化したい業務は何か
・社内の誰に相談すると効率が上がりそうか

ステップ3:カエル会議で課題を話し合い、施策を決める

ゴールイメージの共有と朝・夜メールによる働き方の確認をした後は、カエル会議を行います。カエル会議とは理想と現実のギャップを埋めるための会議のこと。カエル会議のカエルという言葉には、「仕事のやり方を“変える”」「早く、“帰る”」「人生を“変える”」という意味が込められています。

このカエル会議を1〜2週間に1度開催し、1回あたり30~50分かけて「どうすれば現状から抜け出し、ゴールイメージに近づけるか」を話し合い、具体的な解決策を決めていきます。原則、役職や雇用形態に関わらず、働き方改革を推進するチームメンバー全員に参加してもらいましょう。「時間があればやる」のではなく、短い時間でも継続して行うことが大切です。初回のカエル会議の議題と時間配分に迷ったら、以下の例を参考にしてください。

<初回カエル会議の議題例>

1.朝・夜メールから見えてきた上手な時間の使い方(10分)
2.働き方の課題(10分)
3.良いところを伸ばし、課題を解決するためには(20分)
4.各自アクションシートに打ち手を記入(5分)
5.次回の開催日時と次回までの各自のアクションを確認(5分)

ステップ4:解決施策の実行

次に初回のカエル会議で決めた施策を実行していきます。ここで大切なポイントをいくつかご紹介します。

<解決策を実行する際のポイント>

・考えすぎずにまず実行。PDCAサイクルを回し、後から軌道修正する
・業務が増え担当が決まらなくなる恐れがあるので担当者と作業者はわける
・2回目以降のカエル会議ではアクションの達成度も毎回確認する
・カエル会議はディスカッションが目的。立派な資料をつくる必要はない
・欠席した人も議論を振り返れるようにホワイトボードの内容を写メに残しておく

こうしたポイントを押さえ、カエル会議を楽しみながらアクションを実行に移してください。会議に参加する人の意見を遮ったり、否定的なコメントをしたりしてはいけません。上述した「心理的安全性の高い」チームづくりができていれば、自ずと会議は楽しいものになり、生産性の向上につながるでしょう。

働き方改革の成功事例~6社の事例から成功のイメージを掴む~

ここからは実際に働き方改革に取り組み成果をあげた企業や自治体の事例をご紹介します。

事例1:ユニークな働き方改革の事例

株式会社エムワン

<課題>
管理職一人に店舗マネジメントのノウハウが集約され、業務が属人化していた。結果的に有給取得率が高まらず、管理職が休むと仕事が回らない恐れがあった。また、代表自身が普段の会話の中で否定的な発言をすることが多かった。

<アクション>
1.会議室もホワイトボードもイスもない店舗でもカエル会議を続けた
2.管理職が一人で行っていた店舗マネジメントのノウハウを集約したマニュアルを新入社員が中心となって作成した
3.誰がどんな業務を担当できるか一覧で可視化するスキルマップを作成した
4.代表自らが社員の発言を前向きに承認するように心がけた
5.人事担当者が働き方改革に関する講演に行き、インプットした内容を社内で共有した
6.採用活動で自社の働き方改革をPRした

<結果>
業務の属人化が排除され、誰もが業務の全体像を把握できるように。トライアル店舗では有給の取得率が前年比352%になり、店舗の一般用医薬品売上は前年比230%を達成。結婚する社員数は2倍、出産数は2.5倍、出産のための退職者はゼロに。新卒のエントリー数も前年比の5倍に。

事例2:建設業の働き方改革の事例

大東建託株式会社

<課題>
賃貸経営受託システムという独自のサービスを提供し、賃貸住宅管理戸数、賃貸仲介件数、賃貸住宅供給実績は業界トップであり、戸数や件数といった「数字」に強いこだわりを持つ同社にとって、「残業時間削減」の取り組みは「数字」を失うかもしれないという不安があった。

<アクション>
1.働き方改革の重要性を周知するため、役員参加型のワークショップを開催
2.初年度からメスをいれると全社的な反発を生む可能性が高い「営業」ではなく、「設計」と「業務」からトライアルチームを選んだ
3.傾聴力を鍛えるためのトレーニングを行い、意見を言いやすい環境づくりを実施
4.朝・夜メールを業務分析ツールだけでなく、コミュニケーションツールとしても活用
5.現場の声を取り入れ、PDCAサイクルを効率的に回して、無駄な業務を廃止

<結果>
月平均の残業時間を25%減少させながら、売上・利益ともに増加。一部のチームでは業務習熟度を計る個人カルテの達成率が入社2、3年目の若手スタッフで平均30%アップ。「月間残業10時間以内」「週2回の定時帰り」を実現。

事例3:自治体の働き方改革の事例

三重県

<課題>
人口減少の影響を受け、年々衰退していく地方都市。全国の市区町村の約半数が消滅可能性都市に該当している今の日本において、地方自治体の生き残りをかけた働き方改革の着手が不可欠である。

<アクション>
1.知事自身が育児休暇を取得
2.県下の企業経営者130人に「働き方改革セミナー」を実施
3.23社の企業人事部が「働き方改革ノウハウ講座」を県の費用で受講
4.8社に「働き方改革コンサルティング」を県の費用で導入
5.「働き方改革・生産性向上推進懇談会」を立ち上げ、県庁職員の取り組みを厳しくチェック
6. 地方創生交付金26億円の予算のうち16%を働き方改革に投入

<結果>
伊勢志摩サミットを無事成功させながら、超勤者は3割減、県の特殊出生率は過去20年間で最高に。男性育休取得率も全国の2.7倍、女性の管理職の比率や県民の幸福度も年々上昇。県民一人あたり所得はリーマンショック後で最も高い金額に。

事例4:中小企業の働き方改革の事例

信幸プロテック株式会社

<課題>
ベテラン世代と若手世代の仕事に対する価値観の違いや、結婚・出産などの人生の節目を迎える社員の増加で多様化する社員のニーズに対応するために、業務効率化や職場環境の改善を行いたいと考えていた。

<アクション>
1.スキルマップを作成し、業務を見える化。業務体制を見直した
2.ベテランが作業している様子を動画に撮って、チーム全体で共有
3.一定時間電話を取り次がず集中して仕事に専念できる「がんばるタイム(集中タイム)」を実施
4.個人が身につけたい分野を宣言。社長と個別面談を行い、会社の方針とずれないようにしたうえでシートにまとめる
5.余暇や就業後にやりたいことを「ライフビジョンシート」にまとめ、メンバーのプライベートやバックグラウンドを共有
6.働き方改革に取り組む他のモデル企業の見学を行う

<結果>
取り組みを開始した半年間で、昨年度よりも依頼受付件数が180件増えにもかかわらず、残業時間は全社で13.2%削減

事例5:ITを活用した働き方改革の事例

株式会社かんぽ生命保険

<課題>
長時間労働をよしとする文化が残っており、休日にも多くの社員が出社している部署があった。一部の社員に業務が集中し、月間の残業時間が80時間を超える社員もいた。さらに、今後介護を担う可能性がある社員が3割以上見込まれるなど、まさに働き方改革が必要な状況だった。

<アクション>
1.IBM社のコグニティブ・コンピューティング「Watson」に過去の支払い事例を学習させ、ベテラン社員しか対応できなかった事案を経験が浅い社員もできるようにした
2.コールセンター業務でお客様との会話を自動テキスト化しつつ、該当FAQなどをリアルタイムで表示。先輩社員に聞きに行くためにお客様を待たせる保留時間を短縮
3.曖昧で取引先に依存していたシステム開発を、取引先の各パートナーと一体になって明確にした
3.自社で基幹系システムの要件定義や仕様書作成を内製化するためにIT人材を採用・育成
4.削減した残業時間分の手当を活用し、e-ラーニングの有料コースを期間限定で社員に無料提供
5.自社内でワーク・ライフバランスコンサルタントを養成し、働き方改革を加速させた
6.水曜ノー残業デーに加え、毎日原則19時半退社を実施。朝メール・夜メールで社員同士の業務を可視化。業務の属人化度を算出してスコア化した。さらに、勤務間インターバル制度(インターバル11時間)を施行した

<結果>
ベテラン社員の負担が軽減され、スキルの浅い社員たちの人材育成の迅速化・即戦力化に貢献。システムの開発・運用コストが、これまでの4分の1程度削減。3年連続で全社平均残業時間の削減に成功。月80時間以上の超過勤務者の激減。36協定の特別条項の上限も年々削減。

事例6:ヘルスケア企業の働き方改革の事例

PHCホールディングス株式会社(旧パナソニック ヘルスケアホールディングス株式会社)

<課題>
エース人材を中心に「残業は苦ではない」「取り組み自体に時間を取られては、本末転倒ではないか」という消極的な意見があった。また、無尽蔵に増えた資料を探すのに手間取り、資料作りや資料探しに莫大な時間がかかっていた。

<アクション>
1.「関係の質」を高めるためにメンバーに対する感謝の気持ちを書いて渡す「ありがとうカード」を導入
2.共有フォルダ整理・ペーパーレス化で資料作り・資料探しの時間を大幅削減
3.業務フロー効率化で浮いた時間を使って勉強時間を作り、スキルアップを図った
4.システム開発部門ではソースコードの登録時にエラーを検出すると自動でテストを行う仕組みを構築

<結果>
手動テストの試算において、167時間を要していた工数が実質0時間に。突発業務による残業時間を60%削減。年休取得数が一人あたり2日増加。紙の使用量および工数を50%削減、年間18000にも上った会議資料を半分の9000枚にまで削減。

まとめ

働き方改革の導入ステップと事例についてご紹介してきましたがいかがでしたでしょうか。ここでご紹介した事例はほんの一例にすぎません。冒頭でお伝えした通り、働き方改革に正解はなく、100社あれば100通りの施策があります。働き方改革の意義を全メンバーが理解したうえで、自社の課題に最適な施策を実行しなければ、一時的な効果しか得られないでしょう。まずはゴールイメージを共有し、現状を分析したうえで、チームで決めた施策を実行してみてください。きっと理想の状態に近づけるはずです。

<参考>
働き方改革 生産性とモチベーションが上がる事例20社 | 小室淑恵(毎日新聞出版)

<働き方改革を推進するこちらの記事もチェック!>
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