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働き方改革によって、従業員の業務効率化やワークライフバランスの実現が期待されているなか、情シスの働き方はどうなっているのでしょうか。テレワークの推進にともなうセキュリティ対策をはじめ、SaaS・DaaSといったクラウドサービスの導入に伴うITシステムの刷新が求められます。デジタル技術の導入は従業員の業務効率化を支える一方で、情シスの管理範囲を広げ、本来の業務を超えた負担を発生させているのです。
この記事では、情シスを取り巻く環境から、情シスの業務効率化に向けた課題や解決策を紹介します。
情シスへの負担が拡大する背景とは
昨今のデジタル技術の進歩により、IT技術を利用した業務プロセスの自動化、状態の見える化やデータ活用が進んでいます。それに伴い、企業のIT基盤や各種インフラの整備など、情報システム部「情シス」が担当する業務や求められる役割は増加。企業によっては所属部門を超えた業務を兼任する情シスや、100人規模の企業での情シス担当者が1人という「ひとり情シス」が問題となっています。
Dell EMCが約800社の中堅企業を対象にした「IT投資動向調査」によれば、中堅企業の約38%が、情報システム担当者は1名以下という結果に。さらに18.8%が「ゼロ情シス」と呼ばれる、IT専任担当者がひとりもいない状態で経営をするなど、現代はIT人材不足が深刻な問題となっているのです。
では、なぜここまで情シスの人材不足が叫ばれ、負担が拡大しているのか。その背景を紹介します。
働き方改革の影響
2019年4月より随時施行されている働き方改革関連法。従業員の業務効率化やワークライフバランス実現のために、各種法案に基づいた制度や取り組みを導入している企業も多いのではないでしょうか。なかでもテレワークやフリーアドレスの促進は、情シスの業務に大きな負担を与えています。
社外での多様な働き方を前提としたテレワークやフリーアドレスの導入では、情シスに以下の業務が発生します。
【テレワークに伴う情シスの業務】
・ノートパソコン導入による認証番号の振り当てからキッティング、初期設定。
・従業員の労働状況を把握する勤怠管理システムの選定から運用
・多様な働き方を考慮したセキュリティーポリシーの策定
・社外でもストレスなく社内システムを利用できるリモートアクセス時の認証、情報漏えいやウイルス対策のための通信経路暗号化
【フリーアドレスに伴う情シスの業務】
フリーアドレスでは従業員が固有の席を持たないため、移動可能なノートパソコンへの移行が必要になりますし、オフィスのどこにいても安定的にインターネットへの接続を可能にする無線LAN環境の構築が求められます。
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クラウドサービスの拡大
現在DaaS(Desktop as a Service)やSaaS(Software as a Service)といったクラウドサービスを導入している企業は多いのではないでしょうか。総務省が発表した「令和元年版情報通信白書」によると、2018年にクラウドサービスを利用している企業の割合は58.7%であり、2014年の38.7%から年々増加。またクラウドサービスを利用している83.2%が「効果があった」と回答していることからも、クラウドサービスによる業務効率化がうかがえます。しかし、これらクラウドサービスの導入から運用までを管理するのもまた情シスの役割です。普段からインフラ整備等で煩雑な状態で、新しいクラウドサービス導入に向けた知識の習得が困難なのは課題でしょう。
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Windows10への移行
Windows7のサポートは、2020年1月14日に完全終了しました。サポート終了のアナウンスは以前よりされていましたが、多くのPCを所有する企業では、いまだにWindows10へのアップデートを済ませていないケースもあるでしょう。サポートが終了したOSは、セキュリティの脆弱性が高まるため、Windows10へのアップデートは、企業にとって即刻手を打つべき必須課題です。そこで情シスに求められるのがPCのリプレース作業。データのバックアップから周辺機器との互換性チェックまで、OSの移行には膨大な準備と負担がかかるのです。
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2025年の崖
2018年9月に経済産業省が発表した『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』。レポートではDX(デジタルトランスフォーメーション)を日本企業が今後の市場競争で生き残るための課題とし、DXが進まなければ最大で年間12兆円もの経済損失が生まれると試算しています。また日本は世界と比べデジタル化が遅れていると指摘されており、その要因のひとつに「既存の業務システム=レガシーシステム」があげられています。基幹系システムが2025年までに老朽化・肥大化・ブラックボックス化すると考えられているのです。上記で説明したWindows10への移行もそのひとつですが、日本でも大企業が導入している基幹業務システム「SAP ERP」のサポートが2025年に終了すると決まっているのが大きな一因です。そのため、現在レガシーシステムを利用している企業の情シスは、システムのリプレース作業に追われているのです。
◎“2025年の崖”を要約。経済産業省のDXレポートの対策とは?
情シスの業務効率化を妨げる課題
テレワークなどインフラ整備が必要な各種制度の導入や、既存システムの置き換えなどが急務であるため、情シスの業務負担は今後さらに増加すると予測できます。では、情シスの働き方改革が進まない背景には、どのような要因があるのでしょうか。情シスの業務効率化を妨げる企業の課題を確認します。
従業員のITリテラシーが低い
Eメールの設定やプリンター・プロジェクターの操作など、今やITインフラの活用なくして日々の業務は進まないでしょう。しかし従業員によってITへの知識に差がある場合、わからないことは誰に聞けばいいのか……「ITに詳しい情シスに聞こう」となります。専門知識が必要なPC設定やセキュリティ対策ならまだしも、基本的なPC操作まで情シスが頼られるとなると、業務の負担は増えるばかり。企業内で従業員のITリテラシーを育成、統一する必要があります。
人材不足と組織体制
ひとり情シスやゼロ情シスについてはすでに触れましたが、IT人材の不足は深刻な課題であり、限られた人材での対処から業務の属人化を招いています。多くの企業では情シスが請け負う業務のフローやマニュアルなどが明確に組織体制として決まっていません。結果的に情シスの業務をほかの従業員が代行できず、業務の属人化は加速します。こうした人材不足と組織体制の不明確さが悪循環を生んでいます。
経営層の認識の甘さ
情シスの業務効率化を進めるうえで、最も重要な課題は「経営層の認識の甘さ」だとの指摘も多くあります。とくに中小企業では、直接企業の利益につながらない情シス・非生産部門への人員拡充は消極的です。経営層が情シスの重要性を理解し、投資しない限り、組織体制の見直しや業務効率化にはつながらないでしょう。ただし経営層側からのアクションを待つだけでは現状打破は望めません。予算を加味した上で、情シス側が業務効率化につながる新規ツール導入を提案するなど、まずは経営層に現状を訴えかけることも重要なポイントになります。
情シスの働き方改革を進めるには?
業務の煩雑化が止まらない情シス。そんな情シスの業務効率化を進める「情シスの働き方改革」について、具体策を紹介します。
従業員のITリテラシー向上
従業員のITリテラシー向上は、これまで情シスが管理・面倒をみてきたPCトラブルへの対処や安定したネットワーク環境の維持といった業務の改善・減少につながります。また、これらはセキュリティの観点でも同様です。情報セキュリティの基本を社内で徹底することで、外部からの不正アクセスやハッキング、さらには情報漏えいの防止も期待できます。まずは、研修などを行って従業員のITリテラシーを深め、従業員同士の積極的なナレッジの共有を推進するコミュニケーションの活性化を進めましょう。
◎【人事・総務・情シス必見】ITリテラシーが低い若手社員を育成する3つの方法
業務フローの見直しと策定
情シス自身が働き方を見直すことも、業務効率化を促進させるうえで重要です。基本的なPC操作・管理、自社で導入しているシステムの保守運用といった業務フローを整理できれば、業務の属人化をまぬがれるだけでなく、今後入社予定の新しいIT人材の円滑な業務進行にもつながります。
アウトソーシングの活用
これまで社内で情シスがまかなっていたIT関連の業務を外部委託する、アウトソーシングも視野に入れましょう。ITアウトソーシングの種類は、主にフルアウトソーシング、運用アウトソーシング、ヘルプデスク業務のアウトソーシングが挙げられます。フルアウトソーシングには、システム導入に関する企画から保守運用までほぼすべての業務を委託する方法から、企画は社内で行い、そのあとの設計や保守運用のみを委託する方法もあります。
運用アウトソーシングの委託内容は、社内インフラの整備です。メンテナンスやセキュリティ管理など、安定したインフラを構築できます。ヘルプデスク業務のアウトソーシングは、従業員からの問い合わせに対応。PCトラブルやソフト・ツールの使用方法まで、これまで情シスが頭を悩ませていた突発的な依頼の処理を委託できます。
ITアウトソーシングは人件費を抑えながら情シスの業務を委託できるメリットがありますが、一方でIT関連の業務に対するノウハウやナレッジが社内に残らないデメリットがあります。まずは情シスが抱える業務負担を洗い出し、部分的な業務の委託を検討するといいでしょう。
経営層の意識改革
現在、情シスの役割はヘルプデスクやインフラ整備、セキュリティ対策など全社的に「守り」の業務がメインとなっています。しかし経営層が求める本来の情シス業務としては、IT技術を駆使した新規事業の企画や従業員の業務効率化など、企業全体を活性化させる「攻め」の姿勢・役割です。特にDXの推進が求められる現在は、人材確保が急務となるでしょう。
そのためには「攻め」の役割を実現できる人材・機材などのリソースを整え、組織体制を構築する必要があります。まずは情シスの役割を再定義し、リソースを確保するといった、経営層の意識改革を促すことが重要です。
まとめ
働き方改革を切り口に、情シスに課せられる業務や課題を紹介しました。デジタル技術の活用は、従業員の業務効率化はもちろん、新たなビジネスチャンスをつかむのに欠かせない要素のひとつです。今後、DXを取り巻くデジタル化の波はさらに高まり、業種業界に関係なく市場・事業環境を変化させるでしょう。ITリテラシーの高い情シスの業務効率化は、そういった時代の変化に先手で対応するための重要な課題です。まずは自社の情シス業務を見直し、その役割を明確にすることからはじめましょう。