多くの企業では、いまだに紙の書類が多く使われています。重要書類の保管や提案資料など持ち運びにも便利な紙ですが、印刷コストや保管の手間、情報の検索性など、さまざまな課題を抱えているのも事実です。
こうした課題を解決する取り組みとして、多くの企業が推進しているのが「ペーパーレス化」です。2016年に施行された税制改正により「電子帳簿保存法」の要件が大幅に緩和され、ペーパーレス化も進めやすくなっています。本記事では、ペーパーレス化によって得られるメリットやデメリット、成功させるための方法について紹介します。
ペーパーレス化とは?
ペーパーレス化とは、ビジネスで使用する文書を印刷することなく電子化・データ化させ、タブレットやスマートフォンといったデジタル端末のネットワーク上で活用する取り組みのこと。企画書や報告書、見積書、契約書、請求書、領収書……等々。ビジネスに書類は欠かせません。しかも、多くの企業では、いまだ紙の書類が大半を占めています。現代のビジネスパーソンは、最先端のデジタル機器を駆使する一方で、膨大な紙に囲まれて仕事をしているのです。
もちろん、紙の書類にも良いところがたくさんあります。すぐにメモがとれて視認性が高く、持ち運ぶのも簡単です。しかし、それ以上に課題が多いのも事実です。具体的には、印紙代や紙代のコスト、情報漏えいのリスクなどが挙げられます。こうした課題を解決する取り組みが「ペーパーレス化」です。
ペーパーレス化がもたらす5つのメリット
ペーパーレスを導入することで、どのようなメリットを享受できるのでしょうか。5つのメリットを紹介します。
メリット1:印刷代、紙代の削減
ペーパーレス化の最大の効果は、コスト削減です。印刷には紙はもちろん、インク代も必要です。オフィスのレーザープリンタの場合、A4のモノクロだと1枚2〜4円、カラーだと1枚7〜15円程度のコストがかかります。数枚なら問題ありませんが、数百人の社員が1日に何十枚も印刷するとしたら、そのコストはざっくりと計算しても1ヶ月50万円(1枚5円として1日10枚、500人の企業の場合)ほど、年間で600万円にもなります。ペーパーレス化を実現すると、こうした印刷にかかるコストを一気に削減できます。
メリット2:紙の保管コストの削減
紙を保管するコストもバカになりません。たとえば、領収書は法律で7年間保存することが義務づけられています。他にも法律で保存期間が義務づけられている書類は多くあります。業種によっては、紙の書類を保管するためだけに専用の倉庫を借りている企業もあるなど保管スペースを削減できるメリットがあります。
総務省が発表したノンペーパーへの野村総合研究所の取り組み事例*によると、不要な書類は廃棄・焼却処分し、紙で保存する必要の無いものは電子化することで、共用キャビネットを90本から28本(69%削減)へ、個人サイドキャビネットも340本から151本(56%削減)へと大幅に保管する場所を削減する成果を得られたといいます。
*出典元:総務省「10のワークプレイス改革」の取組
メリット3:災害時のBCP対策につながる
紙での文書管理は、予期せぬ火災や地震などの災害時に、保管場所の被害が重要な書類の損失に直結してしまいます。再出力への時間・コストがかかったり、取引先への文書の再取得依頼、最悪の場合、重要な情報が二度と元に戻らない事態も考えられます。ペーパーレスは電子データとして情報を保管するため、厳重なバックアップを事前にしておくことで、災害時の被害を最小限に抑えられます。
ペーパーレスによって、災害時の早急な業務復旧に向けたBCP対策が実現できるのです。
詳しいBCP対策についてはこちら:緊急時に事業を守る「BCP」の策定手順と「3-2-1ルール」
メリット4:セキュリティ対策になる
文書を紙で保管する場合、誰が・いつ鍵を開け閲覧するかは、カメラでも設置しない限り記録に残らないでしょう。盗難や紛失といった、ヒューマンエラーの危険性が伴ってしまいます。情報が電子化されたペーパーレスであれば、閲覧制限を設けられるほか、パスワード設定によるセキュリティ強化、さらにはログ管理によって、誰がいつ資料を閲覧したのかがすべて記録として残ります。意図的に消去しない限り、情報が紛失しないのが電子媒体の強みといえます。
ログ管理の重要性についてはこちら:ログ管理の必要性とは? 種類やソフト導入の注意点を解説
メリット5:会議の短縮化・効率化
従来の紙資料での会議は、事前に資料を人数分印刷し配布するなど、準備段階で多くの手間と時間を必要としていました。ペーパーレスによってデータ化した資料は、画面を共有することで、印刷の手間などを削減し、情報の差し替えも簡単にできます。インターネット環境さえあればどこにいてもクラウド上で接続可能。場所を選ばない会議は、在宅勤務やテレワークを進め、従業員の柔軟な働き方に貢献します。
テレワークの効果やセキュリティ、PCの要件についてはこちら
ペーパーレスが働き方改革の第一歩
現在、働き方改革の実現に向けた多くの制度や取り組みを導入している企業は多いかと思います。しかし、それら多くの施策を従業員に提示するだけでなく、実務レベルでの業務効率化を目指すには、業務のデジタル化やクラウド化は欠かせないポイント。そこで、近年注目されているのがSaaS系サービスとマルチデバイスの活用です。
ペーパーレスを進めるSaaS
SaaS(サース・サーズ)とは、サービスとしてのソフトウェアを指した、クラウド型サービスを意味します。インターネット環境さえあれば、利用するデバイスに関係なく遠隔での作業、複数人での同時作業も可能です。SaaSが担う業務は幅広く、テレビ会議・Web会議を効率化、文書の保管・管理への負担を軽減するサービスも増えています。ペーパーレスの推進には、こうしたSaaSを活用した事例も拡大中です。まずは社内でのペーパーレス化に向けた課題を洗い出し、適切なSaaSの導入を検討してみるのもいいでしょう。
マルチデバイスは欠かせない
近年、PCやスマートフォン、タブレット端末などさまざまな情報機器が登場しています。デジタル技術の進歩とともに、それぞれの情報機器も高度化。ペーパーレスやSaaSによる業務効率化には、それぞれのデバイスから等しくサービスを利用できるマルチデバイスの活用が欠かせません。異なる種類のデバイスが相互に連携し、社内外の従業員がストレスなく情報共有できる環境・設備の構築が、企業の働き方改革を進める第一歩になります。
クラウド環境とデバイスの連携についての詳しい説明はこちら:シンクライアントとは? VDIとの違いや実装方式、メリットを含め徹底解説!!
ペーパーレス化のデメリット
ここまでご紹介したように、ペーパーレス化にはたくさんのメリットがあります。これだけメリットが多いのですが、まだまだ企業の浸透率は高くありません。
ペーパーレス化にはどんなデメリットや導入のハードルがあるのでしょうか。
デメリット1:ネットワークの影響を受ける
ペーパーレスはインターネット回線やシステムに障害が起こったときに、データの閲覧が困難になるという恐れがあります。同時に、システムを復旧することができなかった場合、一度にすべての資料や情報を失ってしまうリスクが生じます。また、電子データはハッキング、クラッキングによって流出したり、消されてしまうことも。そのため、セキュリティの強化や定期的なバックアップが必要不可欠です。
緊急時への対応、バックアップ方法についてはこちら:緊急時に事業を守る「BCP」の策定手順と「3-2-1ルール」
デメリット2:ITリテラシーに左右される
近年、IT機器はあらゆる業界で使用されており、多くの方は使い慣れているでしょう。しかし、業態上ITリテラシーが備わっている従業員が多くない場合、利便性やセキュリティー面に不安が残ります。オンラインストレージサービスの利用方法や、資料の格納場所がわからない従業員が多ければ、せっかくペーパーレス化を導入しても、運用することができません。
また、従業員が外出先のカフェなどに設置されているフリーWi-Fiを不用意に使用し、他者からデータを盗まれてしまう可能性もあります。セキュリティー強化を見込んでペーパーレス化に踏み切ったにも関わらず、情報が漏えいしてしまっては元も子もありません。ペーパーレスを導入しようと考えているが、従業員のITリテラシーに不安がある場合、ITリテラシーに関する研修やセミナーなどを行う必要があるでしょう。
どんな制度にも多少のデメリットは存在します。しかし、ペーパーレスは一度うまく運用できるようになれば、デメリットは解消されるはずです。しっかりと対策を取ることでデメリットを回避しましょう。
ペーパーレス化が進まない理由と導入のステップ
最大の理由は、ペーパーレス化が業務改革、つまり業務の見直しと直結しているからです。
たとえば、会議をペーパーレス化するには、資料の配付方法やメモの取り方、会議の進め方や議事録の作成方法なども同時に変えなければなりません。稟議書をペーパーレス化するなら、入力用のファイルを用意して、承認のフローを再検討する必要があります。会社全体をペーパーレス化するとしたら、さらに大規模かつ抜本的な業務改革が必要になります。
誰でも、長年、慣れ親しんだ仕事の進め方を変えることには抵抗を感じるものです。少しくらいコストや手間がかかっても「今まで通りのやり方で業務ができれば、それでいい」と考えるのが、多くの人の本音ではないでしょうか。
しかし、会社を取り巻く環境の変化は、それを許してはくれません。多くの企業経営者は、業務を効率化し、コストを削減し、会社の競争力を強化したいと考えているはず。ペーパーレス化は、間違いなくその強力な手段になります。では、具体的にどうすればいいでしょうか? ここでは、3つの方法をご紹介します。
方法1:経営層がペーパーレス会議を導入する
ペーパーレス化が業務改革と直結している以上、その取り組みには経営層のコミットメントが不可欠です。ペーパーレス化を重要な経営課題として掲げ、全社で取り組む姿勢を鮮明にすることが求められます。
そこでおすすめしたいのが「経営会議のペーパーレス化」です。いくら経営者がペーパーレス化をうたっても、自ら実践しなければ従業員はついてきません。しかし、経営層がペーパーレス会議を行えば、その動きは社内に自然と広がるのではないでしょうか。
まずは、経営層全員がペン操作でメモ書きもできるタブレットで会議することからはじめ、成果が確認でき次第、本格的なペーパーレス会議システムの導入を検討してみてはいかがでしょうか。毎回、紙の資料作成に奔走している社員も、きっと大助かりだと思います。
タブレットやWeb会議システムなどの具体的な活用法を紹介
遠隔にいながらも、社内の人間と資料を共有しながらコミュニケーション・チャットができるWeb会議システム。1対1での会話から、場所を問わずに複数人で同時にリアルタイムな会議を可能にします。
SaaSなどのクラウドサービスの普及や、安定したインターネット環境が整った現在は、多くのWeb会議システムが登場しています。Web会議の導入には、初期費用をかけずに、使用量に応じた額を支払う「従量制プラン」と年間契約の「定額制プラン」があります。中には無料トライアルを実施しているサービスもあるため、まずは経営会議のペーパーレス化を目指すには最適な手段かと思われます。PCだけでなく、タブレットに対応したサービスも多いため、従業員の働き方に合わせたWeb会議システムの選定が重要になります。
Web会議システムの詳しい説明はこちら:Web会議と電話会議、テレビ会議を徹底比較。メリット・デメリットは?
方法2:できるところからはじめる
前述のように、ペーパーレス化は業務の見直しと直結しています。このため、いきなりすべてをペーパーレス化しようとすると、たいへんな労力が必要です。もちろん、トップが強力なリーダーシップを発揮して一気に改革するのもアリですが、それが難しければ、社内を見渡して紙を使っている業務を洗い出してみましょう。
会議資料以外にも、様々な申請書類、出退勤を記録するタイムカード、業務に必要な書類などから、ペーパーレス化できそうなところを見つけ、そこから着手するのが現実的です。
方法3:長期戦でのぞむ
社内書類のペーパーレス化の次に考えたいのは、企業間で取り交わす見積書や契約書などです。契約書類を電子化することは、郵送コストの削減にもなりますし、契約書のやりとりにかかっていた印紙代も削減できるという効果がありますが、取引先の事情や、電子化するためのシステム導入などを考慮すると、長期的に考える必要があるでしょう。
いずれにしても、ペーパーレス化は長期戦でのぞむことが不可欠です。長期的にペーパーレス化(=業務改革)に取り組むことは、普段の業務改善活動そのものです。ペーパーレス化できる業務を見つけ、ペーパーレス化を実施し、その効果を検証、再びペーパーレス化できる業務を見つけ……というPDCAサイクルを回すことが重要です。
法律改正もペーパーレス化を後押し
ペーパーレス化を進める上でぜひ知っておきたい法律の改正について紹介します。
企業で使用される文書の電子化は、「電子帳簿保存法」という法律によって定められています。この法律では、契約書や領収書の電子保存が認められています。
ただし、2015年12月までは、電子保存が許されるのは3万円未満の書類に限られていました。つまり「5000円の領収書は電子保存してもいいけれど、3万円の領収書は紙で保存しなさい」というわけです。企業からすれば「そんな面倒な処理をするくらいなら、全部紙で保存した方が楽だ」となるのは当然で、ペーパーレス化が進まないひとつの原因になっていました。
しかし、法律の改正によって、2016年1月から3万円という制限が撤廃され、すべての契約書・領収書は電子保存が可能になりました。さらに、2017年1月からは、領収書や請求書をスマートフォンで撮影して電子化することも認められています。改正内容をまとめた下記国税庁の資料を参考にしてください。
まとめ
ここまで、ペーパーレス化の効果と課題、推進の方法をご紹介しました。Web会議システムをはじめとするSaaSの台頭や、デジタル端末の普及など、ペーパーレス化を支援するサービスやツールは既に多く存在します。昨今、経産省も後押しするDX(デジタルトランスフォーメーション)の波に乗り遅れないためにも、デジタル技術の導入を前向きに検討し、限られた人数で最大限の生産性を発揮するための業務効率化を目指しましょう。
<参考>
デジタルトランスフォーメーション(DX)とは?事例とともに実現のポイントを紹介
“2025年の崖”を要約。経済産業省のDXレポートの対策とは?