新型コロナウイルスの影響で、テレワークなどの場所を選ばない働き方を採用する企業が増加しています。
従来の固定概念にとらわれない、より柔軟な働き方が求められる中、菅首相が「新しい旅行や働き方のスタイルとして、政府としても普及に取り組んでいきたい」という発言で注目を集めたのがワーケーションです。
ネットや各種メディアでは賛否の声が上がっていますが、その本質や実際に導入している企業はどのような成果を得ているのでしょうか。
今回は海外で普及し、日本でも注目されているワーケーションを紹介します。
ワーケーションとは? 定義と概要
ワーケーションとは、「ワーク(働く)」と「バケーション(休暇)」を組み合わせた造語・新語で、「リゾート地などで休暇を兼ねてリモートワークをする」ことを指します。似た概念にリゾートワークやふるさとテレワークがあります。
◎総務省が推進する「ふるさとテレワーク」とは?効果や補助金制度についても解説
長期休暇や有給休暇を取得して、3泊4日の旅行にいくケースを考えてみましょう。通常ならば、5日目にはオフィスに出社して仕事を始めなくてはいけません。しかし、ワーケーションの制度がある場合、休日取得日数は変わりませんが、5日目以降も旅行先に滞在し、現地でリモートワークが可能になります。
ワーケーションによって、従業員は旅行でのリフレッシュはもちろん、普段とは異なる環境による生産性の向上が望まれるでしょう。
ワーケーションのメリットは従業員だけではない
こではワーケーションのメリット、効果を紹介します。
ワーケーションのメリット① 導入企業のメリット
ワーケーションを導入するメリットのひとつが、年次有給休暇の取得推進です。年5日の取得義務が法律で定められたため、推進日・指定日の設定や取得日数の管理に尽力している企業もあるかと思います。ワーケーションの導入により、どうしても対応せざるを得ない案件・仕事にも対応できるため、罪悪感が薄れ、連続した日程での有給休暇取得を推進できるでしょう。
有給休暇を取得しやすい社内環境・雰囲気を会社から醸成することで、結果的に社員の自主性や自律性の向上につながり、受け身ではない自発的に仕事をする社員育成が望めます。
また、企業イメージの向上も期待できます。現在、ダイバーシティ経営や、場所・時間に捉われない多様な働き方が企業に求められているのはご存知の通り。労働人口減少に伴い、多くの企業は優秀な人材の確保が難しくなっている現状もあります。
従業員満足度の向上や多様な働き方の促進は、企業イメージの向上に直結するため、採用や定着率に良い影響が期待されるでしょう。
ワーケーションのメリット② 観光業の活性化と地方創生
都市への人口集中、地方の過疎化も日本が抱える社会構造の課題のひとつです。働き方の多様化は、これらの諸問題にも効果が期待されています。総務省が推進している「ふるさとテレワーク」や地方型のサテライトオフィスなどと同様に、ワーケーションの受け入れに力を入れている地方自治体も増えています(後述)。
オフィスなど会社から指定された場所でなければ仕事ができない、という常識が覆されつつあり、従業員の価値観も多様化している現在、ワーケーションの普及は地方創生など経済的な効果が期待されています。
ワーケーションのデメリットは?
さまざまなメリットがある一方、ワーケーションには課題があります。
ワーケーションを導入するうえで、検討しなければならない課題としてデメリットを確認しておきましょう。
ワーケーションのデメリット① 導入企業のデメリット
遠隔地から滞りなく仕事を行うために、インターネットが使える環境を整えなければなりません。これに加え、仕事を行うツールとして、WEB会議システムやチャットツールなどのソフトウェアの導入、実労働時間を把握するツールとして、勤怠管理システムの導入が求められます。導入・運用にどの程度のコストがかかるのか把握しましょう。
◎テレワークに必要なWEB会議システム! セキュリティや導入ポイントを紹介
また、セキュリティへの懸念も生じます。パソコンやデバイス機器を持ち運ぶことによる盗難・紛失のリスクが挙げられます。そのためデバイスのセキュリティ対策が必須です。2段階認証を取り入れる、通信環境を提供するなど会社の重要な情報が漏えいしないように、セキュリティを強化しましょう。
ワーケーションのデメリット②従業員側のデメリット
休暇の期間中に仕事を行うことになるので、仕事と休暇の線引きが曖昧になってしまう可能性があります。
またリラックスするためにワーケーションを活用しても、仕事が気になってしまい純粋に旅行が楽しめない場合もあります。それならば休暇は休暇で取得したほうが良いのではないかという反対意見もあります。
ワーケーションを導入する企業は、従業員の業務を見える化し、タスク管理や定性面への配慮も視野に入れた「ルール作り」が欠かせないでしょう。
ワーケーションの国内事例
実際にワーケーションを導入している国内企業のサービスや事例を紹介します。
サテライトオフィスを活用したワーケーション/あしたのチーム
人事評価サービスを提供する株式会社あしたのチームは、徳島県三好市のサテライトオフィスを利用したワーケーションの推進を目的に、リフレッシュ休暇制度を2020年度10月より一部変更しました。
サテライトオフィスでワーケーションを行う場合、旅行補助が20万円まで許容されます。長期休暇と掛け合わせてインセンティブを付与することで、戦力社員の長期離脱防止、有給休暇の取得率向上、健康経営、生産性アップなどが期待されています。
<参照:あしたのチーム、サテライトオフィスを利用したリフレッシュ休暇でワーケーションを促進>
国内外の場所を選ばずにテレワークが可能/JAL(日本航空株式会社)
国内でのワーケーションの先駆けがJALです。同社は、2017年7月に従業員が仕事の都合で休暇取得をためらったり、中断せざるを得ない状況を解消するため、制度を導入。従業員満足度の向上や有給休暇の取得の推進に効果があったと報告されています。
その後、さらに制度を拡大し、合宿型のワーケーションも実施するなど効果を確信した同社は、現在では企業向けのワーケーションサポートをおこなっています。
和歌山県南紀白浜でのワーケーションオフィス/三菱地所株式会社
三菱地所株式会社は、2019年5月に和歌山県にワーケーションオフィス「WORK×ation Site(ワーケーションサイト) 南紀白浜」をオープンしました。
レンタル型のコワーキングスペースオフィスで、どの企業でも利用できます。ICT環境やホワイトボード、プロジェクターや会議室なども用意されており、NTTコミュニケーションズ株式会社、株式会社三菱UFJ銀行などの利用がありました。
個人でのワーケーションではなく、企業の合宿などによる利用がメインとなりそうです。プロジェクトチームでワーケーションをすることで、アイデアやイノベーションの創出が期待されています。
<参考:「WORK×ation Site 南紀白浜」が本日開業>
サテライトオフィスを南紀白浜にオープン/セールスフォース・ドットコム
セールスフォース・ドットコムはリゾート地である南紀白浜にサテライトオフィスを開設することで、ワーケーションを可能にしました。三菱地所がオフィスをオープンした南紀白浜は、企業誘致に力を入れており、多くのベンチャー、スタートアップ企業がオフィスを開設しています。
都会ではなく自然に囲まれた環境で働きたい従業員が移住したり、東京オフィスの従業員が合宿で訪れたり、環境を変えて働きたい従業員が期間を決めて訪れるなど様々な活用がされています。
またサテライトオフィスとして機能しているため、地域との繋がりや共創も生まれるなど企業、従業員、地域の三方よし、の関係性を構築しています。
セールスフォース・ドットコムのように地方型のサテライトオフィスは、大きなメリットがあります。
◎サテライトオフィスとは?メリットとデメリット、事例を含め解説
ワーケーションの導入ポイント
次にワーケーションを導入する際のポイントを解説します。
ポイント① テレワークとフレックス制度が必要
ワーケーションの制度だけを取り入れるのは現実的ではありません。最低限必要なのは、テレワークとフレックスタイムの制度です。
場所にとらわれない働き方がテレワークだとしたら、時間にとらわれない働き方がフレックスタイムになります。フレックスタイムはなくても成立するかもしれませんが、せっかく環境の良い場所にいるのに時間の制約があるとリフレッシュの効果も薄まるでしょう。
フレックスタイム制度があると、午前中は労働して、午後は半休を取得して観光するなどより自由な働き方が実現できます。
ポイント②サテライトオフィスがあるとBCPにも効果
事例でも紹介しましたが、観光地やリゾート地にサテライトオフィスを開設するケースも効果的です。
地域との連携も生まれますし、移住希望者や期間限定で環境を変えたい従業員、また新人研修や新規事業などの合宿地といった利用方法があげられます。
さらにサテライトオフィスは、BCP観点でも有効です。予期せぬ自然災害などで本社の業務が停止してしまった場合にも、経営資源を一点に集中させないサテライトオフィスが活用できます。普段からテレワークやサテライトオフィスといった働き方を採用することでWeb会議や遠隔での勤務など、緊急時にも柔軟に対応できるでしょう。
◎緊急時に事業を守る「BCP」の策定手順と「3-2-1ルール」
ポイント③ 段階的に始めていく
メリットが多いワーケーションですが、いざ導入となると勤怠管理などの労務マネジメントや労災の観点など仕組みや制度を構築する必要があります。
また従業員のすべてがワーケーションを望んでいるわけでもありません。多様な働き方を実現するためのひとつの手法ではありますが、社内でのコンセンサスを得て、まずはワーケーションを気軽に体験できるモニターツアーに参加してみるなど段階的に進めていくのが良いでしょう。
地方自治体もワーケーションを誘致! ワークライフバランスの実現
総務省のふるさとテレワーク事業や一般社団法人 日本テレワーク協会など、サテライトオフィスやワーケーションの誘致をしている自治体をチェックすることができます。
地方創生の目的や地域間格差を少しでも埋めるために、各自治体も企業のオフィス開設時にICT環境を整備するなど、誘致に力を入れています。支店・支社の構想がある企業は、一度ロケーションを再検討してみてもいいかもしれません。
またワークスペースやオフィスの在り方も新型コロナウイルスの影響で考え直されてきています。このような時代だからこそ、ワーケーションもさまざまな制度を組み合わせることで予想外の効果を生むことが考えられます。
ワーケーションのメリットとデメリットの両方を把握し、企業・従業員・社会貢献など多角的な視野で検討しましょう。