2019年4月1日から「働き方改革関連法」が順次施行されています。その中でも「年5日の有給休暇取得義務」が施行前から大きな注目が集まっています。施行されて日が経っていますが、現在のところ大きなトラブルは起きていませんが、皆さんの所属企業ではどのような対応をされているでしょうか?
今回は、「有給休暇取得の義務化」の内容について改めて解説し、企業における取り組みのポイントや休み方改革の事例を紹介します。
有給休暇義務化とは?違反した場合の罰則は?
2018年6月29日に成立した「働き方改革関連法案」により、2019年4月1日から使用者は10日以上の年次有給休暇が付与される全ての労働者に対し、毎年5日間、時季を指定して年次有給休暇を取得させることが義務付けられました。具体的には労働基準法第39条に以下の内容が追加されました。
引用元:労働基準法第39条
使用者は、従業員を採用して6カ月を経過した日に10日、その後1年を経過するごとに、勤続年数に応じた日数の有給休暇を与えなければなりません。「基準日」とは、それぞれの付与日のことです。入社と同時に有給休暇を付与するなど、法律とは異なるタイミングで付与している場合の「基準日」の考え方については、今後省令で定められることとなっています。
有給休暇の付与日数のうち5日を除く残りの日数について、企業の側が全社一律、または部署ごと、個人ごとに休暇取得日を指定することのできる制度が「年次有給休暇の計画的付与制度」(計画年休)です。これを実施するには、労使協定を結び、就業規則に定める必要があります。また、付与日数のうちの5日は、個人が自由に取得できる日数として必ず残しておかなければなりません。
つまり、社員が自ら取得した休暇や、「計画的付与制度」による休暇を合計して5日に満たない場合は、その残りの日数について社員の意向を聞いた上で、事前に「◯月◯日に休暇を取得してください」と時季を指定して有給休暇を付与することが必要になります。また使用者は、「年次有給休暇管理簿」を労働者ごとに作成し、3年間保存する義務があります。
違反した場合の罰則
これまでは、有給休暇を使うかどうかは社員に任され、1日も休暇を取らなくても構わなかったわけですが、違反した場合に「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が課せられる可能性があります。処罰の対象となるのは、以下となります。
- 最低年5日の年次有給休暇を取得させなかった
- 使用者による時季指定を行う際に、就業規則に記載がない
- 労働者が希望する時季に所定の年次有給休暇を与えなかった場合
背景にあるのは日本人の有給休暇取得率の低さ
なぜ、従業員に強制的に休暇を取らせるようなルールが導入されるのでしょうか?理由は、諸外国に比べて日本の会社員は休まない傾向があり、有給取得率を高めていくことで、長時間労働やワークライフバランスの問題解消につながると考えられているからです。
各国の年間休日数を示した上の表からわかるように、制度の面から見ると、日本は決して休日の少ない国ではありません。2016年の日本の労働者の平均的な年間休日数は138.2日で、イタリア(139日)、イギリス(137日)、フランス(同)とほぼ同水準です(※1)。ただし、これは有給休暇を含む日数なので、実際に有給休暇を取得したかどうかによって実態は変わってきます。
厚生労働省の「労働条件総合調査」(※2)によれば、日本の有給休暇消化率は49.4%ですから、100%のフランスや75%のイタリアと、実際に休んでいる日数では差が開きます。
また、海外では普通の有給休暇とは別に「病気休暇」の制度がある国も多く、その場合、上のデータには病気で休んだ日数は含まれていないことも考えられます。その場合ますます休暇取得日数の差が開くことになりますし、病気で休んでいるのとバカンスやリフレッシュのために休んでいるのとでは、休暇の質にも差があるといえるでしょう。
強制的に休暇取得させることが本当に必要か?
企業が社員に強制的に休みを取らせることに違和感を感じる方もいるかもしれません。しかし、そうでもしなければ、日本に蔓延する「休まない文化」や「休めない事情」、「休ませない組織」は変わらないでしょう。
厚生労働省が行った調査によると、有給取得に「ためらいを感じる」「ややためらいを感じる」と回答した人は6割を超えています。その理由として一番多いのは「みんなに迷惑がかかると感じるから」とあります(※3)。
この結果を見ると、「有給休暇をとりましょう」といくら個人に働きかけても、状況が変わりにくいことが理解できます。ためらいなく有給休暇を取れるようにするには、休んだときにそのしわ寄せが周囲にも後の自分にも生じにくいような、職場の仕組みづくりが必要なのです。今回の法改正で、最低5日間であっても休みをとらせる義務を負った企業は、その仕組みづくりに乗り出すことが期待されているというわけです。
年次有給休暇取得に対応する就業規則や対応は?
では、企業はどのように対応をしていけばよいのでしょうか?
基本的には、労働者自らが時季を指定して有給休暇を5日以上取得していれば、法律に違反することはありません。そのため、まずは有給休暇を取りやすい雰囲気や風土づくりがもっとも大切になります。上述の計画的付与制度や使用者からの時季指定をうまく活用することで、労働者がためらいを感じることなく有給休暇を取得できるようになります。
年次有給休暇の計画的付与制度(計画年休)
計画年休は、労使協定が必要となります。しかし、労働者にもメリットがある制度となるため、具体例とともに解説します。
①企業、事業場全体の一斉休日
全労働者に対して、同日一斉に有給休暇を付与する方式です。もしくは製造業など操業を1日止めて全労働者を付与させることが可能な事業場などで有効です。
②グループごとの交代制付与
グループなどの小規模単位で有給休暇を付与する方式です。小規模単位のグループに交代で付与することで、事業に支障をきたさずに運用することができます。
③個人の記念日などに優先的に付与する/アニバーサリー休暇制度を設ける
個人の誕生日や結婚記念日などに有給休暇を付与する方式です。他にも家族の誕生日や参観日などプライベートでの特別日に休暇取得を推奨していくことで、満足のいく有給休暇取得が可能になります。
④飛び石を大型連休に変える
暦の関係で生じる飛び石の休日をつなげてるように有給休暇を付与して連休とする方式です。ゴールデンウィークなどに活用することで、大型連休を取得しやすくなります。
計画的付与制度(計画年休)を導入する就業規則の例
上記のような計画的付与制度を導入するには、労使協定の締結と就業規則の規定が必要となります。
就業規則の規定
下記のように就業規則に「有給休暇を計画的に取得させることとする」などを定める必要があります。
第○条
(前略)
前項の規定にかかわらず、労働者代表との書面による協定により、各労働者の有する年次有給休暇日数のうち5日を超える部分について、あらかじめ時季を指定して取得させることがある。
引用元:厚生労働省「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」
労使協定の締結
労働者の過半数を代表する者との間で、労使協定の締結をする必要があります。この労使協定は、労働基準監督署に届出する必要はありません。
企業における「休み方改革」のポイント
人手不足の中、従業員の休みが増えるのは困ると考える経営者や管理職の方も多いかもしれません。しかし、「誰かが休んでも業務がショートしない職場づくり」を実現すると、緊急事態に強い組織への成長や、社員の働きやすさ向上による採用力向上や離職率低下も期待できます。ここは前向きに「休み方改革」に取り組む機会だと捉えるべきでしょう。「休み方改革」に取り組む時のポイントとして、以下を抑えておくと良いでしょう。
「休むこと=良いこと」という雰囲気づくり
上司の立場にある人は、「有給休暇を取りたい」と言われた時に嫌な顔や困った顔をしない、自分から率先して休む、といったことを心がけましょう。また、連休の谷間にあたる日や、社員の誕生日や子どもの学校の行事がある日など、「せっかくだから休んだら?」という提案を積極的にし、休むきっかけづくりをするのも良いでしょう。
休んだことで弊害が出ない仕組みづくり
先に紹介した調査では、有給休暇取得をためらう理由として最も多いのが「みんなに迷惑がかかると感じるから」でした。その次に多いのは「後で多忙になるから」です。
休みたいという希望を持った人が、「周囲に負担をかけたり、後で大変なことになるくらいならあきらめる」という思考に陥らないように、「休む人がいる前提」で準備をすることが大事です。
具体的には、グループウェアを活用して普段から各自の仕事の状況を共有したり、主担当者がいなくてもある程度の対応ができるように業務のマニュアル化や資料の共有をする、といったことを徹底するのです。また、できればひとつのタスクにふたり以上の担当者がついて、お互いにカバーできるようにするのが理想でしょう。
休むことの意義と目標の共有
最初に「雰囲気づくり」を挙げましたが、それとともに「なぜ休むことが必要なのか」、その意義を論理的に説明し、皆の納得を得ることも重要です。雰囲気づくりは、「休みづらい」という抵抗感を和らげたり、休む習慣をつけるのには有効ですが、急に忙しくなったりすると、「今は休んでいる場合ではない」という考えが優勢になってしまったりする可能性があるからです。
休むことと個人の生産性やワークライフバランスの関係、上に挙げたような組織力向上の効果など、自社や自部門の状況において納得できる説明を、まずは考えてみましょう。
論理的に説明できると、実際にどのくらい休むべきかや、連休が良いのか時間単位でもよいのかなど、休み方の指針も見えてくるはずです。それに基づいて具体的な数値目標を立て、メンバーに進捗率を共有しながらみんなで目標達成に向かっていくのも良いでしょう。
「休み方改革」の先進事例
最後に、すでに「休み方改革」を行っている企業の事例を紹介します。
本田技研工業株式会社(以降、ホンダ)
ホンダは、創業者の本田宗一郎氏の「よく働き、よく遊べ」の精神をもとに、1963年には週休5日制の施行やノー残業デーの導入をするなど、50年以上にわたって労働時間短縮への取り組みを続けてきています。
有給休暇については1970年に「有休取得カットゼロ運動」を始めました。これは、使いきれなかった有給休暇を次年度へ繰り越せる限度が20日であり、それ以上残った日数については消滅する(カットされる)ことから、カットされる年次有給休暇をゼロにしようという運動です。
具体的には、部門ごとに年間の有給休暇取得計画を立て、休む人が出ることによる要員不足を予め算出して要員補充を行ったり、有給休暇取得目標に対する進捗管理を徹底したことで、効果を上げてきました。また、1971年からは年に1度の連続した休暇取得も推進しています。
結果として、過去3年平均の取得率は99.6%に達し、東洋経済オンラインが『会社四季報』のデータを元に集計、発表する「有給取得率の高い会社ランキング」では7年連続首位を獲得しています(※4)。
株式会社ロックオン
インターネット関連のマーケティングソリューションを提供するロックオンは、2011年から、全社員に対して1年に1度、必ず9日間の連続休暇を義務づける『山ごもり休暇制度』を導入しました。5日間の有給休暇と前後の土日をつなげて9日間の休暇中は、会社との連絡を一切断つのがルールになっています。
同社はこの制度の目的を以下のふたつにおいています。
(1)普段の仕事による疲れを解消し、社員の心身のリフレッシュをはかること。
(2)休暇のために引き継ぎを発生させること。
9日間不在でメールや電話での連絡もできないとなると、業務の引き継ぎは不可欠です。この引き継ぎは、業務内容を改めて整理することや、引き継がれた側からの視点によって新たな改善点に結びつくことにもつながるといいます。
この制度により、有給休暇の平均取得日数(年間)が約3.5倍になったそうです、また、休みの直前にまとめて引き継ぎをするのは大変なので、普段から仕事の状況の共有や助け合いが行われるようになるという効果もあがっているようです(※5)。
Cook Japan 株式会社
アメリカのCook Medicalの日本法人であるCook Japanでは、年末に全社員が集まる会合の中で、人事部が表彰する「一番有休を取ったで賞」という賞を設け、有給休暇の取得を推進しています。
それでも海外の法人に比べて日本での有給休暇取得率が低いことに課題を感じた経営陣は、その理由のひとつとして「インフルエンザなどの病気にかかったときのために有給休暇をとっておく」という習慣にあることに気づき、従来の有給休暇とは別に年に10日間の有給の疾病休暇を設けました。
このように、なぜ有給休暇取得が進まないのか、その原因を探り、休みづらい壁を壊していくことも有効な方法でしょう。
自社に合った「休み方改革」を
ご紹介した事例はあくまで一例であり、法改正により、今後はますますいろいろな取り組みがなされていくでしょう。
業種や業態、職種、働く人の家族構成や生活環境によっても、休みを取りづらい理由や、休暇に対するニーズは異なるはずです。ぜひ、これを機に当事者である皆さんで話し合い、自社に合った「休み方改革」に取り組んでみてください。
<働き方改革を推進するこちらの記事もチェック!>
◎内閣府が推進する「休み方改革」とは? 事例や働き方改革との違い、キッズウィークなどの施策について
◎有給休暇の取得義務化へ。付与日数とその背景
<参考>
※1 独立行政法人労働政策研究・研修機構「データブック国際労働比較 2018」
※2 厚生労働省「就労条件総合調査」
※3 厚生労働省 「仕事休もっ化計画 事業者主の方へ」
※4 東洋経済オンライン記事
※5 日経ウーマン記事