組織

ワークシェアリングは日本の働き方改革にフィットするのか?

テレワークやフレックス制度、サテライトオフィス、ホラクラシー、ワーケーション、パラレルワークに副業……働き方改革のもとに多種多様なワークスタイルが目まぐるしくスポットライトを浴びている日本。

実に多くの手法があるため、やや食傷気味……という方もいるかと思いますが、目的はひとつ。企業が働き手にメリットを与え、「働きがい」を創出。その結果として、企業の業績向上、生産性向上を目指すものです。それと同時に時代の変化に合った組織を生み出し、競争に勝ち抜くことと言えるでしょう。

そんな働き方の中には、まだまだ確立されておらず実際に効果があるかわからないものもあるため、経営者やマネジメント層が思い切った舵切りをできない要因になっているかと思われます。そこで、今回は新しい手法ではなく、40年近く前に大きな実績をあげた「ワークシェアリング」を紹介します。
リーマンショック時に日本でも注目を集めた「ワークシェアリング」ですが、いま再びスポットライトが浴びています。今回は「ワークシェアリング」が現在の働き方改革にフィットするのか、を解説していきたいと思います。

ワークシェアリングとは? 生まれた背景について

ワークシェアリングは、端的に説明すると「一人あたりの労働量・労働時間をみんなで分け合うこと」です。1970〜80年代にヨーロッパ圏で、失業者の増加したことにより、雇用機会の創出を目的として導入され、大きな効果をあげました。

特に1980年代のオランダの事例が有名です。天然ガスの産出国であったオランダは、石油ショックにより多額の貿易黒字をあげました。労働賃金が上昇した分、生産コストも増大。その結果、輸出製品が国際的な競争力を失い、エネルギーブームも去ったことで、景気が悪化(こういった一連の流れを「オランダ病」と称されます)。企業が人件費を削減するために大量の解雇を行ったため失業率が14%まで増加しました。

起きた事態は想像を越えます。前途を悲観した失業者が自殺する一方で、人的リソースが枯渇した現場の労働者にも大きな負荷がかかり、過労死も増加……。こういった一連の事態を解決するために、雇用者側と労働者側で、労働時間短縮と賃下げの合意(ワッセナー合意)がなされ、ワークシェアリングが導入されたのです。

そうした動きに政府も連動し、1996年には労働法を改正します。フルタイム労働者とパートタイム労働者の間で、労働条件の格差をつけることが禁止(同一労働同一賃金)。またパートタイムとフルタイムの移行も認められました。これは育児や介護などのライフステージに変化が起きた場合などに有効で、ワークライフバランスも確保できます。結果として、オランダの失業率は2001年までに2.4%まで減少。経済成長率もプラスを実現しました。

ワークシェアリングの目的と種類

ワークシェアリングが生まれた背景とオランダによる成功事例を紹介しました。当時のオランダの社会情勢にフィットしたため大きな成果を上げました。そのため、ワークシェアリングは、オランダの事例がフォーカスされることが多いのですが、フランスやドイツでもオランダで同時期に導入され、各国でも研究が進みました。その結果、現在はワークシェアリングはいくつかの目的によって分類されています。

例えば、アメリカでは下記のように6つに分類しています。

【アメリカにおけるワークシェアリングの6類型】

①週当たり労働時間の短縮による雇用創出
②ジョブシェアリング
③早期退職措置としてのパートタイム化
④自発的パートタイム化
⑤連続有給休暇時の代替要員
⑥キャリア・ブレークキャリアブレーク時代の代替要員

①⑤に関しては、2018年6月に成立した「働き方改革関連法」に、「有給休暇の取得義務」や「時間外労働の上限設定」が盛り込まれているため、長時間労働が慢性化している企業においては有効ではないでしょうか。

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一方で、現在の日本は労働人口減少による人材不足も深刻化しています。しかし、育児や介護などが理由で、働く意思はあるものの働けない方が一定層存在するのも事実。そういった方々の離職を防ぐ意味でのテレワーク、フレックスタイムなど「多様な働き方」が推奨する一方で、雇用をすることで人材確保をするといった両軸での考え方も重要になるでしょう。

ちなみにキャリアブレークとは離職期間のことを指します。出産や育児、介護が代表的ですが、それ以外の離職期間もネガティブではなく、様々なことを吸収する期間というポジティブな捉え方が浸透しています。日本でも、最長6年間まで会社に復帰が可能な株式会社サイボウズの「育自分制度」が有名です。

③④⑥は、経営戦略として人件費削減の観点が含まれています。しかし、「働き方改革関連法」では、「同一労働同一賃金」が義務付けられています(大企業は2020年、中小企業は2021年)。日本でもよりオランダ式のワークシェアリングは浸透する土壌が整ってきていると言えそうです。

ジョブシェアリングとワークシェアリングの違い

②にあるジョブシェアリングはワークシェアリングと字面も意味合いも非常に似ていますが、厳密には概念が異なるので、ここで説明します。ジョブシェアリングはワークシェアリングの一形態で、本来はフルタイム労働者が1人でやるべき業務を、2人以上の労働者で担当し、評価や待遇もセットで受けるという働き方です。ワークシェアリングは社会全体、もしくは企業全体で労働時間を短縮することに対して、業務をシェアする考えと言えるでしょう。

日本でのワークシェアリングの分類

また日本では、厚生労働省がワークシェアリングの類型を発表していますので、簡単に説明します。下記の図をご覧ください。

現在の日本の状況を鑑みると、「多様就業対応型」のワークシェアリングが注目されていると言っていいでしょう。目的や背景として、「女性・高齢者の働きやすい環境づくり」「育児・介護と仕事の両立」「労働者の自己実現意識」「企業にとっての有能人材確保」が挙げられています。

では、次に具体的に現在の働き方改革におけるワークシェアリング導入のメリットを詳しく見ていきましょう。

働き方改革においてワークシェアリングを導入するメリットと先進事例

これまで見てきたようにワークシェアリングに期待できるメリットは、以下が考えられます。

●雇用の維持・創出
●労働時間の短縮
●生産性の向上
●ワークライフバランスの確保
●従業員満足度の向上
など

もちろん導入したからといって、すべての項目を解決できるわけではありません。例えば、2017年度の日本の完全失業率は、2.88%。雇用の創出というより、人材獲得競争が激化してどの企業も人手不足に悩まされている状況です。

では、労働時間が長いかと言うと、実は世界主要35カ国の中で21位(2017年度OECDの調査)。その一方で、労働生産性は、35カ国中20位。先進7カ国の順位をみると1970年以降、50年近くも最下位なのです。

働き方改革とは? わかりやすく背景や目的を解説!

その一方で、実質賃金は上がっていません。ワークシェアリングを導入することで、賃金がさらに下がることは従業員の抵抗が予想されます。いまの日本に必要なのは「生産性の向上」「ワークライフバランスの確保」であり、それらを実現しながら賃金を維持・上昇をするにはどうしたらいいのか? というジレンマを抱えています。

あくまで青写真ではありますが、ここで鍵をにぎるのが近年増加している「副業・兼業」や「シェアリング・エコノミーシェアリングエコノミー」というキーワードでしょう。

副業・兼業とシェアリングエコノミーが鍵をにぎる!?

徐々に日本でも副業・兼業解禁をする企業が増えています。

従業員のメリットは、本業以外の時間で収入を得ることの他、キャリアの幅の広がり、新たなスキルの習得などが挙げられます。

一方で企業側のメリットとしては、「イノベーションの創出」「従業員の成長・能力の向上」「従業員満足度の向上」「企業ブランドの向上」などが期待できます。

加えて、社会全体にも恩恵があります。それは「優秀な人材の共有」と「労働力不足の解消」です。必要に応じて、短時間でも成果を出せる優秀な人材を助っ人として力を借りることができるのは、大きなメリットになるでしょう。またこれまで自社にはなかった技術や知識を共有することで、新たな価値を生み出すこともできるかもしれません。

また別の視点では、日本でも浸透してきた「シェアリングエコノミー(共有経済)」が、今後さらに加速していくでしょう。シェアリングエコノミーとは、労働力や技術、モノ、スペースなど個人が保有する遊休資産をシェアする概念です。

例えば、車の代行サービスである「Uber」や民泊のマッチングサービス「Airbnb」などに代表されるサービスが世界を席巻していることは皆さんも御存知でしょう。ICT技術の発展によるデジタル革命により、「誰かが必要な人・モノ・コト」と「提供できる側」を即座に結びつけることが可能になっています。このようなマッチングサービス、シェアリングエコノミーが、副業・兼業の可能性を押し広げてくれるでしょう。

デジタルトランスフォーメーションとは? 〜その定義と事例〜

仕事を分け合う「ワークシェアリング」と個人の労働力を分け合う「シェアリングエコノミー」。この2つの概念が働き方を大きく変えていくかもしれません。

ワークシェアリングのデメリットと問題点

これまで見てきたように、ワークシェアリングも万能ではありません。今後、同一労働同一賃金が義務付けられるとはいえ、安易に導入することで賃金格差や待遇格差を生み出しかねません。パートタイムとフルタイムの格差を是正することはワークシェアリングを導入する際の必須条件と言えます。

またワークシェアリングを導入したからといって、一人当たりの生産性が下がるようではまったく意味がありません。各企業にフィットする多様な働き方を推進しながらも、誰もが納得のできるルールの整備が不可欠でしょう。

人を仕事に当てるのではなく、仕事に人を当てる

各企業が抱えている課題はそれぞれですが、旧来型の組織ではすでに時代の変革には耐えられなくなってきています。昨今フラットな組織として話題となっている「ティール組織」や「ホラクラシー」は、ピマネジメントは存在せずに従業員それぞれの役割と裁量権のもと仕事をすすめていきます。その是非はともかく、いま時代の大きな境目にいることは間違いありません。

今回はワークシェアリングをテーマに「仕事をシェアし」「労働力もシェア」という2つの発想も交え、日本の働き方改革にフォーカスしました。何かしらのヒントとなれば幸いです。

<参考URL>
ワークシェアリングに関する調査研究報告書
30年前を下回った実質賃金。節約ムードでも国内で最高益を叩き出す小売業のなぜ?

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