生産性

ワークライフバランスの実現に必要な視点とは−−企業が推進すべき5つのポイント

執筆者:やつづかえり

今、企業が働き方改革に取り組む目的は何でしょうか?究極の目的は、企業競争力の強化、もう一段分解すると、生産性とワークライフバランスの向上という会社が多いのではないでしょうか。

生産性の向上とは、限られた資源(人、モノ、金、時間)でより多くの価値を生み出すことですが、これとワークライフバランスとは密接な関係があります。例えば、長時間労働の是正や、テレワークの推進は、コスト削減につながると同時に、従業員の自由な時間を増やすための施策にもなります。また、ワークライフバランスの向上は、従業員の健康や気力の充実、視野を広げることに役立ち、人材力や採用力の強化にもつながります。

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ワークライフバランスは、労働時間とスケジュールの自由度による

業界によってはこれまで、「この仕事をするなら、私生活が犠牲になるのも仕方ない」、「ワークライフバランスなんて言っている余裕はない」と、働き方を変えることを諦めてきたところもあります。

しかし、昨今の環境変化を受け、そんなことは言えなくなりました。それが「建設業界の働き方改革」、「医師の働き方改革」、「学校の働き方改革」といった話題が急に増えてきた理由でしょう。とは言え、仕事の内容によってワークライフバランスの取りやすさが異なることはたしかです。

独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)の研究によれば、“労働時間の柔軟性”が高いとワークライフバランスを取りやすくなるとのこと(※)。そして、この“労働時間の柔軟性”は以下の2つに分解されます。

  • Duration:労働時間を短くすることに対する裁量権
  • Timing:スケジュールの変更に対する裁量権

これまで日本では、長時間働いている社員ほど「頑張っている」と評価され、残業代も稼げるというのが一般的でした。
労働時間を短くするのは、評価や収入の面でも不利になるため、労働者にとってDurationの裁量権が低い状況でした。さらに、休日ゴルフや夜の接待が重視される営業職、月末に業務が集中する経理職など、特定の時期・時間帯に働けるかどうかが仕事の成果を左右するような仕事は多くあります。これらの仕事は、Timingの裁量権が少なく、ワークライフバランスが取りづらいと言えるでしょう。

逆に、ある期日までに期待される成果を出せば、仕事の進め方は本人の自由、労働時間が8時間に満たない日があってもお咎めなし、という仕事も存在します。このような仕事では、ワークライフバランスが取りやすいというわけです。

 

ワークライフバランスを左右する7つの要因

ワークライフバランスを左右する7つの要因

それでは、どんな仕事が労働時間(Duration)とスケジュール(Timing)の自由度が高いのでしょうか。独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)では、米国における研究結果とJILPTが過去に行った大規模なアンケート調査の結果から、答えを導き出しました(※)。

米国では「O*NET Online (Occupational Information Network/Online)」という、職業に関する総合的なデータベースがインターネットで公開されています。ハーバード大学のクラウディア・ゴールディン教授は、O*NET Onlineに登録されている標準職業情報から、労働時間およびスケジュールの自由度と関連性の高い7つの項目を選んでスコア化。どのような職業が柔軟性の高い働き方ができるかを検証しています。JILPTではこれを参考に、以下の“7つの指標”を定め、日本の正社員1万人を対象としたアンケート結果を検証したのです。

 

労働時間の柔軟性に影響を及ぼす可能性のある7つの職業特性

1. 時間的プレッシャー
Q:仕事が次から次へと出てきたり、一度に多くの業務を処理しなければならないか?
→当てはまるほど、長時間労働や深夜残業等の必要性が高い。

2. 他人と頻繁に連絡を取る
Q:取引先や顧客の対応が多いか?
→当てはまるほど、ワーク・スケジュールを柔軟に変えることが難しい。

3. Face-to-Faceの会合
Q:会議や打ち合せが多いか?
→当てはまるほど、ワーク・スケジュールの変更が難しい。

4. 企画・判断の頻度
Q:企画・判断を求められる仕事が多いか?
→当てはまるほど、部下等に指示できるよう待機が求められる。

5. 対人関係の樹立と維持
Q:社内の他部門との連携・調整が多いか?
→当てはまるほど、同僚や顧客の周りに拘束される時間が長い。

6. 仕事内容の明確度(※)
Q:仕事の範囲や目標がはっきりしているか?
→当てはまるほど、労働時間が予測しやすく、急な残業が少ない。

7. 意思決定の自由(※)
Q:自分で仕事のペースや手順を変えられるか?
→当てはまるほど、労働時間の柔軟性が高くなる。

※1〜5は当てはまるほど時間の柔軟性が低くなる。6,7は逆に高くなる。

アンケートでは、上に「Q」として挙げられた質問がなされており、JILPTではその回答をスコア化したものと本人のワークライフバランスの相関関係を見ました。すると、「残業時間が少ないほど、スコアが高い」、「睡眠時間、家族や友人と過ごす時間、趣味や学習時間を十分取っていると思う人ほど、スコアが高い」という傾向が確認できたのです。

 

日本でワークライフバランスの取りやすい職業ベスト3

では実際に、“7つの指標”スコアが高い人の職業はどんなものだったか、JILPTは男女別にベスト3を紹介しています。

男性ベスト3:運輸業・郵便業の輸送・運転職、製造業の作業職、建設業の作業職
女性ベスト3:建設業の総務、製造業の作業職、サービス業の総務

今年は宅配業界の過酷な労働実態や、建設業における過労自殺のニュースなども取り沙汰され、男性のベスト3に入っている運輸業や建設業でワークライフバランスが取れているとはとても言い難い状況があります。しかし、男女のベスト3に挙がっているのは、比較的定型的で責任範囲の明確な仕事、頻繁な打合せなどを要しないようなタイプの仕事で、本来ならばワークライフバランスが取りやすい部類に入るのでしょう。ただ、人手不足にも関わらず過剰なサービスレベル、無理な納期などが要求され、実態としては、長時間労働を強いられる自由度のない働き方になってしまっていると思われます。

また、「裁量労働制」かどうかなど、勤務時間と報酬に関する制度の違いでスコアに差が出るか、という観点でも検証がされています。直感的には、勤務時間が決まっている通常の時間管理よりも「裁量労働制」の方が、労働時間の長さもスケジュールも自分で決められるはずなので、スコアが高くなりそうです。しかし、大企業ではそのような傾向が見られたものの、全体的には逆で、「裁量労働制」の人の方が低いスコアとなっていました。

ここからは筆者の推測になりますが、中小企業においては「裁量労働性」の「裁量」は名ばかりで、実際には自分で労働時間やスケジュールを決める余地が少なく、「残業」という概念がない分、むしろ長時間労働になりやすい状況があるのかもしれません。今、働き方改革のための労働法改正が進められようとされており、その中で「裁量労働制」の適用範囲拡大も見込まれています。ますます「名ばかり裁量労働制」が増えないか、懸念されます。

 

社員のワークライフバランスを実現させる5つのポイント

社員のワークライフバランスを実現させる 5 つのポイント

先のゴールディン教授の研究では、アメリカでは研究開発・設計・SE などの技術系専門職もワークライフバランスが高い傾向にありました。しかし、JILPTによる日本での調査では、そうではなかったようです。これを前向きに捉えると、日本の技術系専門職は、アメリカのやり方に学べば、もっとワークライフバランスを高める働き方ができる余地があると言えそうです。

それ以外の職種でも、先に挙げた“7つの職業特性”に注目すると、社員のワークライフバランスを向上させるヒントが見えてきます。具体的には、次の5つの観点で仕事の進め方を見直すと良いでしょう。

1.不要なルールの削減

「規則だから」、「昔からそうやってきたから」と、本当は必要のないルールに従うことを社員に強い、自由度を奪っていないでしょうか?

例えば9時から5時にオフィスに出社する、ということにこだわらなければ、社員は個々の事情や仕事の内容に応じて、働く時間と場所を選ぶことができます。ユニリーバは、2016年7月に「WAA(Work from Anywhere & Anytime)」という制度を導入し、平日の6時〜21時ならいつどこで働いても良いことになりました。これにより、「自身の生産性が高まった」と実感する社員が非常に多いそうです。

2.権限委譲

これは、いちいち上司に確認を取る必要があって仕事に時間がかかっている部下にも、指示や判断を求められることが多くて忙殺されている上司にも、有効な対策です。組織の価値観や判断基準を明確にした上で、現場の担当者レベルで判断できる範囲を増やすと、会議や指示待ちの時間が短縮できる上、自分でスケジュールをコントロールできるようになるからです。

例えばアメリカの靴の通販会社ザッポスは、明確な企業理念を共有した上で、社員に大幅な権限委譲をしていることで有名です。電話で相談やクレームを受けるカスタマーサービスの社員は、自分の判断で顧客が喜ばせるための対応をします。「社内で検討してから折り返しご連絡します」ということを繰り返すような会社とは、効率の面はもちろん、顧客満足と社員のやりがいの面でも、圧倒的な差がつくことは明白でしょう。

3.「ホウレンソウ(報連相)」の効率化

権限委譲を進めても、仕事を進める上で上司・部下間やチーム内でのコミュニケーションは不可欠です。ただ、議題があってもなくても開催される定例会議や、なにかあるたびに招集される臨時の会議のようなものは、メンバーの時間的自由を奪うものです。さらに、会議の開催時にしか相談ができないという状況だと、ムダな待ち時間が生じ、スケジュールの自由度をさらに下げます。

こういった状況を防ぐには、チームのメンバー間で利用できるチャットツールなどを導入するのがおすすめです。必要な時にすぐ相談や報告ができ、相談された方は手が空いた時に対応できるため、コミュニケーション量を保ちながらも、ホウレンソウのために拘束される時間を減らせるのです。

4.チーム力の強化

“7つの職業特性”の最初の項目「時間的プレッシャー(Q:仕事が次から次へと出てきたり、一度に多くの業務を処理しなければならないか?)」を見ると、ひとりの人がたくさんの仕事を抱えていっぱいいっぱいな状況が目に浮かびます。スタートアップ企業や新規事業の立ち上げ部署など、少ない人員で新しい事業を立ち上げていく時や、優秀であるがゆえにたくさんの仕事を依頼されてしまう人などにありがちな状況でしょう。

「そういう仕事だと、ワークライフバランスだなんて言ってられないよね……」と諦めてしまいがちですが、少しでも状況を良くしたいなら、限られた人に仕事を集中させず、みんなでカバーし合えるチーム作りが役に立つでしょう。そのためには、メンバーのスキルを鍛えるとともに、個人が抱え込んでいる業務を見える化し、他の人にもできるように標準化するなど、チームで仕事を進めるスタイルを確立していきましょう。

5.計画的な休暇取得の推進

「仕事が次から次に発生する」というタイプの社員のワークライフバランスを向上させるには、チーム力の向上の他に、有給休暇を計画的に取らせることも有効です。次から次に発生する仕事を第一優先にしている限り、休める日はいつまでたってもやってきません。でも、あらかじめ休む日を決めておけば、それを見越して仕事を進め、チームのメンバーも協力することができるはずです。

政府が「働き方改革」に次いで「休み方改革」を提唱する中、厚生労働省は、「年次有給休暇の計画的付与制度」の活用を推進しています。これは、社員に付与する年次有給休暇のうち5日を除いた残りの日数について、休暇取得日を会社側から指示することのできる制度です。社員が自分で休む日を決める自由度が減りますので、スケジュールの裁量度を高めるという点では逆行する制度です。しかし、社員の「休みづらさ」を払拭し、有給休暇の取得率向上に効果があるため、社員が休むことに罪悪感を感じているような組織では、こういうやり方を取り入れるのも良いでしょう。もう少し自律的に休みが取れる雰囲気の組織であれば、半期に1回、チームメンバーの有給取得の予定を共有し合うといった形でも効果があるはずです。

以上、ワークライフバランスの取りやすい職業の特徴を挙げつつ、一般的にはワークライフバランスの低下しがちな職業であってもその状況を打開するためのポイントをお伝えしました。今よりももっと時間の柔軟性を高めるにはどうしたら良いか? 当の社員にアイデアを募ってみるのも良いでしょう。「ここがムダだと思っていた」という声が出てくるかもしれませんよ。

 

◆出典

独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)「労働時間の柔軟性とその便益―O*Net 職業特性スコアによる検討―」

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