生産性

ワークライフバランスを実現するための取り組みを企業の事例とともに紹介

ワークライフバランスを実現するための取り組みを企業の事例とともに紹介

今、企業がワークライフバランスに取り組む目的は何でしょうか? 2019年4月から働き方改革関連法が順次、適用されるており、生産性とワークライフバランスの向上を余儀なくされている企業は多いことでしょう。

生産性の向上には、限られた資源(人、モノ、金、時間)でより多くの価値を生み出すことが考えられますが、これとワークライフバランスには密接な関係があります。

今回は、そんなワークライフバランスをより深く理解するために、企業の施策事例を含め実現に向けたポイントを紹介します。

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ワークライフバランスとは? メリットとともに簡単に解説

その名の通り、「ワーク(仕事)とライフ(人生)のバランス(調和)」のことを言います。仕事がうまくいけば生活が豊かになり、生活が充実すれば仕事へのやる気にもつながる。ワークライフバランスとは、仕事とプライベートが相互に作用し、相乗効果が生まれることを意味します。まさに、個人の多様な働き方を尊重する「働き方改革」を考える上では欠かせないキーワードになってきます。施策としては、コスト削減や従業員の自由な時間を増やすための、テレワーク推進や長時間労働の是正などがあげられます。

ワークライフバランスを実現するメリット

ワークライフバランスを実現した際に、企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか。

従業員満足度の向上と人材の確保・流出防止

ワークライフバランスが確保されていると、出産・育児や介護などのライフステージ変化に直面している人材の流出を抑えることが可能です。またライフステージに関係なく、仕事以外の時間が充実することで、趣味や家族と過ごす時間が増えるため従業員満足度も向上し、離職率の改善にも期待できます。従業員のワークライフバランスを重視している企業というイメージが浸透することで、新しい人材の確保にもいい影響を与えてくれます。

生産性の向上

業務の無駄を削減し、効率化を意識することで生産性の向上にも直結します。ノー残業デーなどの制度とも連動しますが、従業員のタスク管理やタイムマネジメントの意識が向上するに連れて、大きな成果が期待できます。

ワークライフバランスを左右する7つの要因

ワークライフバランスを左右する7つの要因

しかし、業界によってはこれまで「この仕事をするなら、私生活が犠牲になるのも仕方ない」、「ワークライフバランスなんて言っている余裕はない」と、働き方の見直しを諦めてきた従業員もいたのではないでしょうか。事実、仕事の内容によってワークライフバランスの取りやすさが異なることはたしかです。

独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)の研究によれば、“労働時間の柔軟性”が高いとワークライフバランスを取りやすくなるとのこと。そして、この“労働時間の柔軟性”は以下の2つに分解されます。

Duration:労働時間を短くすることに対する裁量権
Timing:スケジュールの変更に対する裁量権

これまで日本では、長時間働いている社員ほど「頑張っている」と評価され、残業代も稼げるというのが一般的でした。

労働時間を短くするのは評価や収入の面でも不利になるため、労働者にとってDurationの裁量権が低い状況でした。さらに、休日ゴルフや夜の接待が重視される営業職、月末に業務が集中する経理職など、特定の時期・時間帯に働けるかどうかが仕事の成果を左右するような仕事は多くります。これらの仕事はTimingの裁量権が少なく、ワークライフバランスが取りづらいと言えるでしょう。

逆に、ある期日までに期待される成果を出せば、仕事の進め方は本人の自由、労働時間が8時間に満たない日があってもお咎めなし、という仕事も存在します。このような仕事ではワークライフバランスが取りやすいというわけです。

ワークライフバランスを確保しやすい職業

それでは、どんな仕事が労働時間(Duration)とスケジュール(Timing)の自由度が高いのでしょうか。独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)では、米国における研究結果とJILPTが過去に行った大規模なアンケート調査の結果から、答えを導き出しました。
米国では「O*NET Online (Occupational Information Network/Online)」という、職業に関する総合的なデータベースがインターネットで公開されています。ハーバード大学のクラウディア・ゴールディン教授は、O*NET Onlineに登録されている標準職業情報から、労働時間およびスケジュールの自由度と関連性の高い7つの項目を選んでスコア化。どのような職業が柔軟性の高い働き方ができるかを検証しています。JILPTではこれを参考に、以下の“7つの指標”を定め、日本の正社員1万人を対象としたアンケート結果を検証したのです。

労働時間の柔軟性に影響を及ぼす可能性のある7つの職業特性

1. 時間的プレッシャー
Q:仕事が次から次へと出てきたり、一度に多くの業務を処理しなければならないか?
→当てはまるほど、長時間労働や深夜残業等の必要性が高い。

2. 他人と頻繁に連絡を取る
Q:取引先や顧客の対応が多いか?
→当てはまるほど、ワーク・スケジュールを柔軟に変えることが難しい。

3. Face-to-Faceの会合
Q:会議や打ち合せが多いか?
→当てはまるほど、ワーク・スケジュールの変更が難しい。

4. 企画・判断の頻度
Q:企画・判断を求められる仕事が多いか?
→当てはまるほど、部下等に指示できるよう待機が求められる。

5. 対人関係の樹立と維持
Q:社内の他部門との連携・調整が多いか?
→当てはまるほど、同僚や顧客の周りに拘束される時間が長い。

6. 仕事内容の明確度(※)
Q:仕事の範囲や目標がはっきりしているか?
→当てはまるほど、労働時間が予測しやすく、急な残業が少ない。

7. 意思決定の自由(※)
Q:自分で仕事のペースや手順を変えられるか?
→当てはまるほど、労働時間の柔軟性が高くなる。
※1〜5は当てはまるほど時間の柔軟性が低くなる。6,7は逆に高くなる。

アンケートでは、上に「Q」として挙げられた質問がなされており、JILPTではその回答をスコア化したものと本人のワークライフバランスの相関関係を見ました。すると、「残業時間が少ないほど、スコアが高い」、「睡眠時間、家族や友人と過ごす時間、趣味や学習時間を十分取っていると思う人ほど、スコアが高い」という傾向が確認できたのです。

社員のワークライフバランスを実現させる5つのポイント

社員のワークライフバランスを実現させる 5 つのポイント

先に挙げた“7つの職業特性”に注目すると、社員のワークライフバランスを向上させるヒントが見えてきます。具体的には、次の5つの観点で仕事の進め方を見直すと良いでしょう。

1.不要なルール・無駄の削減

「規則だから」、「昔からそうやってきたから」と、本当は必要のないルールに従うことを社員に強い、自由度を奪っていないでしょうか?例えば9時から5時にオフィスに出社する、ということにこだわらなければ、社員は個々の事情や仕事の内容に応じて、働く時間と場所を選ぶことができます。フレックスやテレワーク、リモートワークなどの制度がここに該当します。

2.権限委譲・マネジメントの改善

いちいち上司に確認を取る必要があって仕事に時間がかかっている部下にも、指示や判断を求められることが多くて忙殺されている上司にも有効な対策です。組織の価値観や判断基準を明確にした上で、現場の担当者レベルで判断できる範囲を増やすと、会議や指示待ちの時間が短縮できる上、自分でスケジュールをコントロールできるようになります。マネジメントの改善と権限委譲は大きなポイントとなります。

3.「ホウレンソウ(報連相)」の効率化

権限委譲を進めても、仕事を進める上で上司・部下間やチーム内でのコミュニケーションは不可欠です。ただ、議題があってもなくても開催される定例会議や、なにかあるたびに招集される臨時の会議のようなものは、メンバーの時間的自由を奪うものです。さらに、会議でしか相談ができないという状況だと、ムダな待ち時間が生じ、スケジュールの自由度をさらに下げます。こういった状況を防ぐには、チームのメンバー間で利用できるチャットツールなどを導入するのがおすすめです。必要な時にすぐ相談や報告ができ、相談された方は手が空いた時に対応できるため、コミュニケーション量を保ちながらも、ホウレンソウのために拘束される時間を減らせるのです。

4.チーム力の強化

スタートアップ企業や新規事業の立ち上げ部署など、少ない人員で新しい事業を立ち上げる時や、優秀であるがゆえにたくさんの仕事を依頼されてしまう人など、従業員一人ひとりの業務量に気を配ることも重要です。「そういう仕事だと、ワークライフバランスだなんて言っていられないよね……」と諦めてしまいがちですが、少しでも状況を良くするためにも、限られた人に仕事を集中させず、みんなでカバーし合えるチーム作りが必要です。そのためにはメンバーのスキルを鍛えるとともに、個人が抱え込んでいる業務を見える化し、他の人にもできるように標準化するなど、チームで仕事を進めるスタイルを確立していきましょう。

5.多様な働き方の選択

チームとしての取り組みも重要ですが、やはり個人に目を向けた取り組みは「働き方改革」の観点からも外ないでしょう。育児や介護など、社員の私生活における状況と仕事の両立を企業は支援しなければなりません。場所や時間、休暇取得など柔軟な働き方を可能にするような環境の整備が必要です

ワークライフバランス実現に成功した企業の事例5選

ワークライフバランス実現に成功した企業の事例5選

従業員の生産性向上につながるワークライフバランスについて理解はできたが、具体的にどのような取り組みを行えばいいのかは企業や業界によって異なるでしょう。ここでは先進的に取り組みを行っている企業事例を参考に紹介します。

コアタイムなしのフレックスタイム制〜株式会社アシックス〜

アシックスでは、社員がビジネスニーズに合わせ、自律的に働くことができ、計画的・効率的に業務遂行することを目標に、労働時間削減に向けたフレックスタイム制を導入しています。フレックスタイム制とは「始業時間と終業時間を社員が自由に決められる制度」であり、育児や介護などの私生活と仕事を両立しなければならない環境の社員に対し、柔軟な働き方を可能にするものです。アシックスでは従来設けていたコアタイム(出勤義務のある時間帯)についても撤廃しており、1日単位で休暇を取得できるフレックスオフデイや、前日の勤務終了から翌日の勤務開始まで11時間を確保する勤務間インターバル制度を設けています。

働く“〇〇”の多様化〜カゴメ株式会社〜

カゴメでは、従業員がより能力を発揮できるよう「働く“〇〇”の多様化」を掲げています。「〇〇」には「場所」と「時間」が当てはまり、働きやすさの向上につながっています。具体的には、週2回・月8回まで在宅勤務を行うことができる在宅勤務制度と、始業時刻を7時30分から10時までの30分刻みで変更できる選択制時差勤務制度の導入です。この2つの制度を組み合わせることで、働き方の柔軟性は一気に高まりました。

もっと金曜日を楽しく!「たのきん」制度〜株式会社サニーサイドアップ〜

2017年2月24日より、経済産業省と経団連が推進する「プレミアムフライデー」を独自にアレンジした制度が「たのきん」制度です。非正規雇用社員も含めた全社員を対象に、既存の概念はもちろん、初回は終業後の時間を楽しんでもらうために費用3200円の支給や、15時以降の会議・社内行事の撤廃など、「たの」しい「金」曜日を目標に企業スローガンである「たのしいさわぎをおこしたい」の創造に結びつけています。

最新テクノロジーで業務効率化!「シミズ・スマート・サイト」〜清水建設株式会社〜

シミズ・スマート・サイトとは、BIMとAIを搭載した自律型ロボットが連携することで、人とロボットが一緒に作業することを可能にしました。「現場でBuddy(仲間)のように働けるロボット」を開発コンセプトに、省人化による作業の効率化と生産性の向上で、長時間労働の是正を進めています。建設業は就労者の高齢化と人手不足が深刻ですが、シミズ・スマート・サイトの導入により、30階建て、基準床面積3,000㎡のビルだと計6,000人近い省人化が可能という試算が出ています。現在でも、4週4休が多い建設業ですが、最新テクノロジーで業務効率化を図る大きな事例です。

サテライトオフィス〜株式会社三井住友銀行〜

三井住友銀行では、育児と仕事を両立している社員が多いリテール部門において、サテライトオフィスを設けています。サテライトオフィスとは企業の本社・本拠地から離れた場所に設置されたオフィスのことです。時間制約のある社員が移動時間などを効率化するために、所属部門とは異なる自宅や保育園の近隣店舗での勤務を認めています。

その他、企業が取り組めるワークライフバランスの取り組みについては以下を参照してみてください。

テレワーク導入で業務効率化につなげる
年5日の有給休暇義務化はいつから?罰則は?
サテライトオフィスとは?そのメリットとデメリットを解説

まとめ

働き方改革関連法の適用が決定し、企業が従来のあり方について検討せざるを得ない今、ワークライフバランスの推進は重要な課題となることでしょう。一見、環境に合わせ企業が取り組みを変えているようにも思えますが、従業員一人ひとりの働き方の改善は、結果的に企業の生産性向上につながります。今回は事例を含め解説してきましたが、自社の色に合った取り組みを検討しましょう。

◆出典

独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)「労働時間の柔軟性とその便益―O*Net 職業特性スコアによる検討―」
経団連「働き方改革事例集」

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  • いよいよ働き方改革は”法律”
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  • 2025年までに迎える代表的なDX
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