少子高齢化が進み労働人口が減少していく日本で、働き方改革を推進する企業が増えてきています。人々の価値観が多様化するなかで、働く人の様々なニーズに対応することは、もはや企業にとっては急務の課題と言えるでしょう。こうした課題を解決する手段として、多くの企業が導入し、注目集めている制度のひとつにテレワークがあります。
そこで今回は、『在宅勤務(テレワーク)が会社を救う~社員が元気に働く企業の新戦略』の著者であり、株式会社ワイズスタッフと株式会社テレワークマネジメントの代表取締役を務める田澤由利氏に、テレワークのメリット・デメリットや導入するにあたっての課題をお聞きしました。
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そもそもテレワークとは?
近頃、よく耳にするようになったテレワーク。なんとなく意味を理解していても、その詳細を説明できる方は少ないのではないでしょうか。
テレワークについて田澤氏は以下のように説明します。
「テレワークの語源は『離れて働く』。もともとは『ICT(情報通信技術)を活用し、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方』がテレワークの定義でしたが、『とらわれない』と言われてしまうと、人によっては自由奔放に働けると思われてしまう。経営者からすれば、社員全員が好きな時に好きな場所で働かられても困りますよね。社員にとっては、在宅で仕事ができてしまうゆえに、『休みの日や夜中まで働かないといけないのでは?』と誤解が生まれがちです。そこで最近は、『ICTを活用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方』というのが、国でのテレワークの定義になっています」(田澤氏、以下敬称略)
では、なぜいまテレワークを導入する企業が増えているのでしょうか?
単なる労働時間の削減では「働き方改革」は成功しない
冒頭でも触れた通り、テレワークが注目されている背景には、国が進めている「働き方改革」があります。その「働き方改革」もテレワーク同様に、本来の目的を説明できる人は多くはないのでしょうか? 単なる長時間労働の削減を指していると思っている方もいらっしゃるのではないでしょうか?
厚生労働省は以下のように説明しています。
・我が国は、「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」「育児や介護との両立など、働く方のニーズの多様化」などの状況に直面しています。 ・こうした中、投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ることが重要な課題になっています。 「働き方改革」は、この課題の解決のため、働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指しています。 |
つまり多様な働き方を選択できる環境を実現しつつ、いかにして生産性を高めるかが、多くの経営者が抱える課題であり、日本全体の問題でもあります。一歩進んで言うと、「働き方改革」を進めていかなくては、日本経済が停滞していってしまうということです。
これらを解決するために「働き方改革」を推進しているわけですが単なる労働時間の削減ではなく、次の3つを同時に進めることが重要と田澤氏は指摘します。
「働き方改革を成功させるためには、時間あたりの生産性の向上、制約社員の労働参加率の向上、繁閑対応体制の3つを同時に進めていくことが重要です。それらを実現する手段として、テレワークは大きな効果を生み出します」(田澤)
では、テレワークが生み出す効果について、触れていきたいと思います。
テレワークを導入する6つのメリット
テレワークの重要性を理解していても、
「見えないところで社員がサボるようになってしまうのではないか?」
「生産性向上に本当につながるのだろうか?」
と、テレワーク導入に慎重になる経営者の方も多いことでしょう。田澤氏は、テレワークを導入するメリットに以下の6つを挙げています。
1.通勤や往訪などの移動時間を有効活用できる。結果的に、社員の生産性が向上する。
2.子育てや介護で働けなかった人も働けるようになる。結果的に、企業はより多くの人材を確保することができる。
3.交通機関に支障が出たり、オフィスが使用不可になっても、リスクが分散される。結果的に、災害対策になる。
4.障害を抱えている方が出社しなくても働くことができる。結果的に、障害者雇用に繋がる。
5.従業員がプライベートの時間を確保しやすくなる。結果的に、ワークライフバランスが向上する。
6.「働きやすい会社」というイメージができる。結果的に、企業イメージの向上に繋がる。
田澤氏自身、現在は大好きな北海道の北見市に住みながら、東京オフィスのメンバーとビデオ会議やクラウドサービスを駆使して一緒に仕事をしています。
テレワークを導入すれば、親の介護をしながら遠隔地で働くこともできますし、理想のワークライフバランスを実現するために自然が豊かな土地や、海が近い土地など好きなところに住むこともできます。もし病気や怪我で入院したとしても、働くことが可能になるかもしれません。
「必ずオフィスで働かなければいけない」という制約をなくすことで、多様的な働き方が実現し、様々なメリットが生まれるのです。
テレワークを導入するにあたっての課題
こうしてみるとテレワークを導入しない手はないと感じる方も多いでしょう。しかし、テレワークの導入は決して簡単ではないと田澤氏は指摘します。
「テレワークを導入した企業でも、『テレワークでできる仕事が無い』『離れていると仕事をしているかどうか不安』『子育て中の人だけ不公平』『自分にはテレワークが必要ない』とまわりの社員や上司が考えていると、子育てや親の介護で必要にせまられてテレワークをする社員は、『肩身がせまい』思いをしたり、『目に見えるアウトプットを出す』ために夜中まで仕事をしたりするケースもありません。結局、『こんなに大変なら、会社に行ったほうがまし』と考えてしまう……。また、成果を出せても、在宅勤務をしているという理由で評価が下がることを恐れてできない人も……。テレワークを導入したとしても、このような状態では、企業はメリットを享受することができません。しかし、このような状態に陥っている企業は意外にも多いんです」(田澤)
テレワークを導入しても、制度を利用しやすい企業風土がなければ、効果的に活用することができません。これらの課題を解決するには、どうすればいいのでしょうか。
「テレワークのために『仕事を切り分ける』のではなく『いつもの仕事をテレワークでできるようにする』ことです。これまでは物理的に会社にあったファイルキャビネットやスケジュール表、会議室、パソコン、電話などの仕事道具をクラウド上に置くことで、会社にいるときも、在宅勤務のときも、同じように仕事ができるようになります。もちろん、そのクラウド上の仕事道具に、セキュリティをしっかりかけることは、重要なポイントです」(田澤)
クラウドを日常的に使えば天災が起きても昨日の仕事の続きができるし、テレワークをしていても上司や同僚に負担がかかることはありません。
テレワークの導入で、離職率が下がったサイボウズ
では、実際にテレワークを導入して成果を挙げている企業の事例にはどのようなものがあるのでしょうか。田澤氏は株式会社サイボウズを例に説明します。
「例えば、サイボウズさんが有名ですよね。同社はかつて離職率が25%超でしたが、テレワークの導入をはじめとした働き方改革を実施して、今や有名なホワイト企業になりました」(田澤)
離職率の高さに悩んでいたサイボウズは、選択人事制度の導入やテレワークを導入。子育てや介護など個別の事情によりオフィスで勤務できない人が働ける機会の提供や、オフィス以外で働くことによる業務効率の向上を目指し、今や「働き方改革」の代表的な企業になっています。
【企業の働き方改革成功事例】
●日本マイクロソフトが推進する働き方改革の最前線
●自律的な働き方で順調に成長。スカイライト コンサルティングが、創業時から守り続けているカルチャーとは
●ECサイト構築のecbieingに聞いた!情報の共有が働き方改革推進のカギ
まずは、最初の一歩を踏み出すことで、テレワーク導入における課題も浮き彫りになり、PDCAを回せるようになります。また、上司自らがテレワークをすることによって、自身のマネジメントにおける課題も見えてくるでしょう。
テレワークは福利厚生ではなく企業戦略
これまで多くの経営者がテレワークを福利厚生として考えてきました。例えば、子育て中の働く女性のために在宅勤務を認める、などがその例でしょう。しかし、テレワークは福利厚生ではないと田澤氏は言います。
「労働人口が減っていくことが確実な日本では、真剣に働き方改革の推進を考えないといけません。親の介護で仕事を辞める人が増える、一人っ子が増える、働く女性が増える、生涯未婚率も増える、働く人が親の介護をするのが当たり前になる。こうした時代が訪れることがわかりきっているわけです。それなのに、『朝から晩まで会社に来られない人しか雇わない』という会社はどうなっていくでしょう。女性活躍も含め、多様な人材が活躍できる環境を整備しなければ、企業はこれからの時代を生き抜くことができません。『テレワークという働き方を適切に導入して、企業戦略にしていかないと大変なことになる』ということを私は一番言いたいです」(田澤)
テレワークを導入して成功している企業は、日本全体でみるとまだまだ多くはありません。しかし、田澤氏の話から、テレワークの導入がこれからの日本企業にとって必要不可欠であることは明らかです。
いきなり全員がテレワークする会社にすることは難しいかもしれません。しかし、テレワークを必要とする人たちが、経営トップを巻き込みながらテレワークの導入を議論し、最初の一歩を踏み出すことが大切。テレワーク導入を検討している方は、ぜひ田澤氏のアドバイスを参考にしてください。
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