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働き方改革の最大の目的である業務効率化。その成果をあげるために、多くの企業で様々な施策が実施され、成功事例も生まれています。
株式会社NTTデータ経営研究所が発表した2017年度の調査結果によると、働き方改革に取り組んでいると答えた企業は、36.4%。2015年度の22.2%から14.2%増加しており、1/3以上の企業が働き方改革に取り組んでいる結果となっています。
多くの企業が、長時間労働・残業時間の削減、有給取得の推進などは取り組んでいるようですが、仕事量やフローに見直しがなければまったく意味がありません。
現在、ノートPCやスマートフォンの普及や技術革新、クラウドサービスの発達から、技術的に社外でも仕事が可能になってきています。仕事の場所を選ばずにどこでも仕事ができる働き方のスタイルとして、モバイルワークがあります。
今回は、実際にモバイルワークを導入すると、どれほどのメリット、業務効率化を図れるのか?を紹介していきます。
モバイルワークで実現できるメリットと業務効率化とは?
まずモバイルワークの説明をしていきましょう。
働く場所をオフィスに限定しない働き方にテレワーク、リモートワークなどがありますが、その違いは下記になります。
●モバイルワーク…施設に依存せず、いつでも、どこでも仕事が可能な状態なもの。
●リモートワーク…会社以外の場所で遠隔で勤務すること。テレワークと同義に使うことも
(※テレワークとモバイルワークは総務省より引用)
3つの勤務スタイルは、まだ明確に使い分けられてはいないようですが、モバイルワークとは、例えば、自宅やサテライトオフィス、コワーキングスペース、カフェなどで仕事をするスタイルと言えます。
モバイルワークを導入するメリットとは?
では、モバイルワークの導入で、具体的にどのような業務効率化を実現できるのでしょうか?
それは、各種ICTツールを導入することで、社外から社内リソースに安全にアクセスすることができます。例えば、チャットツールを使えば社外にいても、タイムリーに筆談によるコミュニケーションが取れますし、web会議を活用することで、たとえ遠隔地でもリアルタイムに、共通の資料や相手の表情を確認しながら、ミーティングを行えます。もはや、その都度帰社する必要もなくなります。その結果、下記のようなメリットが生まれます。
◎移動時間の短縮
セールスなど社外での商談や訪問が多い職種ですと、1日に2〜3度のアポイントメントが入ることも少なくありません。さらに社内の会議等も重なると、帰社する必要も生まれ、就業時間の多くが移動時間に割かれることになります。しかし、モバイルワークが可能ですと、移動時間を短縮することができ、業務効率化を実現できます。
◎コストの削減
移動時間を短縮できることは、結果的に残業代削減につながります。移動時間を作業時間に充てることで、その分だけ生産性、業務効率が向上します。すると、残業代やオフィスの光熱費などの削減にもつなげることができます。またノー残業デーや有給休暇取得推進などもモバイルワーク制度の導入をすることで、より理想的な取得が可能になり、効率的なライフサイクルを生み出すことができます。
◎理想的なワークライフバランスの実現
長時間労働がなくなると、プライベートに時間を割くことができるようになります。飲みに行ったり、映画に行ったり、ワークライフバランスが整うことで従業員満足度の向上も臨めます。もっとも期待できるのは、従業員の自発的なインプットから生まれるイノベーションです。プライベートに余裕が生まれてくると、仕事につながるインプットをすることが期待できます。
では、実際にどのくらいの時間短縮を臨めるのか、検証していきたいと思います。
社外活動が多いセールスの1週間を比較してみると……
今回は、東京のIT企業で外勤セールスを担当している30代の男性Aさんにモデルをお願いしました。
出社:10:00/定時退社:19:00(休憩1時間)【勤務スタイル】
モバイルワーク制度なし/web会議等のツールなし
外勤のセールスは、モバイルワークの導入にもっともメリットがあると考えられます。実際にAさんの1週間のスケジュールを抽出し、モバイルワーク制度の有無によって実際にどれくらい、生産性が向上するのかを検証していきたいと思います。特に、今回は、「移動時間」について、フォーカスにしていき定量的な比較を行います。
特定の1週間のスケジュールを抽出し、グラフ化。赤は移動時間、青は社外への訪問、黄色は社内での会議やミーティング。黒は残業。15分単位でスケジュールをまとめているため、記事中の時間単位も15分ごとで記載しています。
まずは月曜日と火曜日のスケジュールですが、社外への訪問が4度あり、社内での会議・ミーティングが2回となっています。
【月曜日】
顧客訪問や定例会議などの約束は、できるだけ同日に時間をずらしてアポイントメントをいれたいものですが、先方の都合もあるためこちらの都合だけで決めることはできません。
特に月曜日は、2度の社外訪問があったにもかかわらず、時間が空いてしまったため1時間作業するために45分もかけて帰社しています。さらにもうひとつのアポイントメントのために45分をかけて再び移動します。一方、Aさんの会社にモバイルワークが導入されてていれば、この合計90分間(45分+45分)は確実に業務にかけることができます。残業時間を大幅に削減することができるのです。
モバイルワークあり……残業時間30分/移動時間90分
【火曜日】
月曜日と同じ2度のアポイントメントが入っていますが、連続してスケジューリングができたため、移動時間があまりかかっていません。
しかし、Aさんは、18:30から社内ミーティングがあったため、社内に移動しています。もし、ここでモバイルワークと併せてweb会議の制度があれば移動時間を短縮できました。
モバイルワークあり……残業時間0分/移動時間75分
※ただし、web会議制度が合った場合
【水曜日】
12時からクライアントD社への訪問があったが、一度10時に出社。片道30分間、計1時間のD社への移動時間がかかりました。グラフにはないですが直行でクライアントD社へ移動していると、移動時間を削減することができます。
また19時の訪問の後、帰社しているのは翌日の社内ミーティング用の資料を作成するために、会社の共有データにアクセスする必要があったためです。結果として、75分の残業をすることになりました。モバイルワークの制度が整っていると、45分の移動時間は削減することができます。
モバイルワークあり……残業時間0分/移動時間75分
【木曜日】
この日は終日社内での作業でした。残業することなく、定時で帰ることができました。
【金曜日】
1件、訪問がありましたら、日中の予定でしたので、この日はモバイルワークの利点を活かすことができませんでした。
1週間で3時間の残業を削減!
Aさんのクライアントへの訪問は1週間で7回。社内での会議やミーティングは、計6回。分単位で見ていくと、もしモバイルワークの環境が整っていた場合、下記のように業務効率化・生産性向上を期待できます。
モバイルワークあり……残業時間90分/移動時間300分
単純計算ではありますが、1週間で195分(約3時間)の残業を削減できます。またこれを1カ月ですると(1カ月=4週で計算)、780分(約13時間)。1年で(1年=12ヶ月で計算)、9460分(約156時間)の残業時間の削減という計算になります。
これは決して、小さな数字ではありません。突き詰めていけば、出社せずにモバイルワークやテレワークをするだけで、出退社の時間を削除することができます。そうなると、上記の移動時間はもっと大きな数字になるでしょう。
では、モバイルワークの環境を整備するためには、どのようなことが必要なのでしょうか?
モバイルワークの課題とは?
モバイルワークを導入するにあたって様々な課題が存在します。その最たるものが、セキュリティー対策とIT投資コストではないでしょうか?情報漏洩はもちろん、ノートPCやタブレットの紛失や盗難のリスクから、最適なICTツールの導入を考慮する必要があります。
紛失、盗難、ウイルスのリスクについて
世の中で働き方改革が急速に進むなか、多様なワークスタイルに適応したサービスが付随したノートPCが標準化してきています。
経営陣がもっとも恐れるのは、ノートPCの盗難・紛失による情報漏洩でしょう。現在はハードディスク暗号化(HDD暗号化)、MDM(モバイルデバイス管理)といったサービスがあり、情報漏洩のリスクは格段に下がっています。
例え、ノートPCが盗難されても不正アクセスを防止できますし、遠隔でデータを消去することも可能です。詳しくは下記の記事をご確認ください。
●HDD暗号化で情報漏洩を防ぐ!–ノートパソコン紛失・盗難時のリスクと対策
●MDM(モバイルデバイス管理)とは?–ITライター柳谷智宣氏がわかりやすく解説
ITコストをできるだけ押さえたい
セキュリティー対策を万全に整えたうえで、モバイルワークを実現したい。というのが当たり前の欲求でしょう。
例えば、必要な社員分の最新デバイスを用意するのは難しい……。そういった場合に、従業員が所有しているモバイル端末を業務で利用するのを認める「BYOD」という考え方があります。
●BYODとは? 企業が知っておくべきメリットとセキュリティーリスクを解説
またビジネスPC購入時に、必要なソフトだけを導入するなど、様々なコスト削減の方法が存在します。
また当然、社内でもモバイルワークが有効な部署と有効じゃない部署が存在します。外勤がメインとなりやすいセールス部門など、社内の一部のみ導入することでコストは削減することができます。
勤怠管理や制度について
勤怠管理や運用ルールを決める必要があります。勤怠管理に関しては、クラウドによる勤怠管理システムが主流になってきていますので、導入することで一元管理が可能です。
またモバイルワークを行う際には、”誰に””いつまでに”申請をし、許可を得る必要があるのか?を徹底的に周知する必要があります。
企業の経営方針やワークスタイルによっては、モバイルワークがフィットしないこと当然ありますし、不公平を感じさせるルールは働き方改革とはかけ離れた制度になりますので、十二分に注意してください。
働き方改革は長期的視点が重要
モバイルワークを始めとする様々な働き方改革の取り組みですが、その取り組みだけに焦点を当てていては、本来の目的を忘れてしまいます。
なぜいま働き方改革なのか?それは日本社会の構造とも深く関わっています。今後、労働人口が減少していく中で、限られたリソースで成果をあげることが求められています。
また多様なワークスタイルを認める必要があるのも同様です。今後、人手不足が深刻化していくなか、女性は産休制度や在宅勤務が認められている企業とそうでない企業だと、どちらに就職をしたいと思うでしょうか?
10〜20年後に持続可能な企業であり続けるには、いまからそのような制度を整えておくのが急務と言えます。
いま働き方改革に取り組むことは将来への投資となります。
どうしても初期導入コストはかかりますが、短期的な視点ではなく、長期的なビジョンを持って、どういう働き方を実現していくのか?を見つめていきましょう。