2015年、2016年、2018年の3回で「働きがいのある会社ランキング(小規模部門)」(株式会社働きがいのある会社研究所(Great Place to Work® Institute Japan)調べ)で1位に選ばれたアクロクエストテクノロジー。
2015年度第5回「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」審査委員会特別賞、「よこはまグッドバランス賞」(2016年〜2018年)、「横浜健康経営認証AAA」、「はばたく中小企業・小規模事業者300社」も受賞し、働きがいのある会社として知られています。
そんな同社で活躍する社員の半数以上は、東京大学・京都大学・東工大学の卒業生で、優秀な人材を採用することにも成功しています。
中小企業にも関わらず、なぜ同社にはエリートが集まるのでしょうか。同社で取締役副社長を務める新免玲子(しんめん れいこ)氏にお話を伺いました。
男女差別、突然の解雇…ほろ苦い経験から芽生えた想い
——本日はよろしくお願いいたします。まず、夫婦で起業されたきっかけを伺いたいなと思いまして。著書に「勤めていた会社に疑問を感じた」と書かれていたのですが、どんなところに疑問を感じたのでしょうか。
ひとつは、男女平等でなかったことです。夫とアクロクエストテクノロジーを共同で経営する前は、大手外資系企業に勤めていました。
ある日、産休が終わり仕事に復帰しようとしたら、「支店長秘書として子どもがいると仕事に支障があるので会社を辞めてくれ」と言われたんです。
いまだったら完全に労働基準法違反で問題になりますよね。30年以上前の話なのでいまは違うかもしれません。でも、当時は「女性をなんだと思っているんだろう」と思いました。
——それはひどい……。他にも、疑問に感じたことはありましたか。
ありました。私が勤めていた企業は外資系だったのですが、給与の透明性がなかったので、「なぜ今回の昇給額がこの金額なのか」ということもわかりませんでした。「説明もなく給与を下げられた人は納得しないだろうな」と思っていたら、やっぱり給与が下がった人たちはいい顔をしていなかった。
意見が言えるような職場ではなかったので、不満がある人は辞める以外の選択肢がなかったのです。
——ご主人である社長さんも勤めていた会社に疑問を感じて起業されたのでしょうか。
主人は、若いときに勤めていた会社をクビになっています。
「最新の技術を使いましょう」「出向派遣のビジネスモデルでは社員を教育できないからやめませんか」ということを社長に直訴したら、「お前みたいな若造に何がわかる」ということで即解雇されたんです。
——恐ろしい時代ですね……。
いまでは考えらないことかもしれませんが、昔はそんなことがよくあったんですよ。
そういった背景があって、「社員が思いっきり気持ちよく働ける会社をつくろう」と思ったんです。創業してからは、主人や私の苦い経験をもとに、強い理念を掲げて社員と一緒にここまでやってきました。
給与も制度も、社員が自分たちで決める
——東大・京大・東工大卒の社員が半数以上を占めていると伺ったのですが、なぜそんなに高学歴の社員が多いのでしょうか。
ユニークなシステムがあるからだと思います。
例えば、社員の給与を社員全員で決める「Happy査定360」や、全社員で社内制度や方針を決める会議「MA(Meeting of All staff)」などの制度はなかなかないと思います。
もちろん、仕事の進め方を部署単位で社員が決める会社は多いかもしれません。ですが、新人から社長まで、みんなが集まって会社の方針を決めているところは少ないのではないでしょうか。
納得して働きたいからこそ、「自分たちが働く会社の制度は自分たちで決めたい」という人が集まるのだと思います。
——なるほど。しかし、なんでも社員が決めることによって苦労されたことはないのでしょうか。
ありません。全員で話し合って決めたことに対して、社長や私は「本当にそれでいいの?」と確認を取るだけなので。
自分たちで決めたことで失敗したとしても、うちの社員は絶対に人のせいにはしません。失敗を、「次はもっといい判断をしよう」というモチベーションにつなげてくれています。
——具体的に社員の声から生まれた制度にはどのようなものがあるのでしょうか。
17年前から実施している「全社禁煙」は社員の声がきっかけです。
「全社禁煙」を実施する以前、社長はヘビースモーカーでした。それでも、「みんなのためにも、社長のためにもなるので、ぜひ禁煙してください」という意見を受け入れ、「全社禁煙」を導入したんです。
社長は禁煙するためにニコチンパッチをお腹に貼って、2〜3ヶ月かけて禁煙に成功しました(笑)。
——それはすごいですね。
以来、当社では喫煙者を採用しないことに決めました。最初は知り合いの人事からも「小さい会社がそんなことしたら応募がこなくなるのでは?」とか心配されましたが、蓋を開けてみたらかえって優秀な人材からの応募が増えましたね。
会社のポリシーを明確に打ち出さない会社が多い中で、うちのように「喫煙者を採用しないと」言い切る企業は魅力的なのだそうです。
技術力よりも、人間力を重視する
——「全社禁煙」の他に、会社が大切にしているバリューに反するミスをしたときに100円の罰金が課せられる「バリ金」や、一人暮らし社員の住まいの“ゴミ屋敷化”を防ぐ「部屋監査」など、物議を醸しそうな制度もあると思います。そのあたりも全社員の会議で決まったのでしょうか。
はい、MA(全社員会議)で決めました。当社では、一人でも反対している社員がいたら、全員が納得するまで徹底的に議論します。多数決はとりません。
「そのやり方だと全員の賛同を得られるまで大変じゃないですか」とよく聞かれますが、じつはそんなことないんですね。
なにか制度を決める際、うちの社員は「会社はなんのためにあるのか」という根本的なことを踏まえた上で議論をします。
「みんなで会社のプロフィットを出す。その過程が自分たちにとって働きやすい。あるいは働きがいがある、世の中に貢献できている」という一つのベクトルの上で物事を決めていくので、最終的に帰結するところは一緒になるんですね。
そこに私情を入れたり、公私混同したりしてしまうと必ず揉める。本質がなにかということをゼロベースで考えれば決めごともスムーズに進みます。
だから、その制度を導入することで「自分の仕事が増えるんじゃないか」「自分の利益が減るんじゃないか」という考えは、社員からはほとんどでてきません。
——どうやって本質を考えて議論する文化を醸成したのでしょうか。
教育ですね。新卒の場合、入社するまでに内定者研修を行います。中には入社するまでに1年半以上かけて研修を受ける学生もいるんですよ。
アクロクエストテクノロジーは技術の会社ですが、技術力よりも人間力を重視しています。一番大切なのは、人間力で、その次に仕事力。技術力はさらにその次です。
当然ですが、技術力だけあっても仕事はできませんし、仕事ができても人からは好かれません。人はどうしても感情で動くので、好きか嫌いかで判断されてしまう。だから人間力を大切にしないと仕事ができないというのが、私たちの考えです。
「うちには無理」という固定概念をなくす
——「働きがいのある会社」ランキング1位に3度輝いていますが、次の目標があれば教えてください。
Peace of mind(心の平和)を充足していくような会社をつくりたいと考えています。
会社はお金を稼ぐだけの場所ではありません。1日8時間睡眠をとるとしたら、起きている時間は残り16時間ありますよね。そのうち8時間働くとすると、人生の2分の1以上は会社にいる時間になります。
つまり、人生の大半は会社にいることになる。その時間が楽しくなかったら、人生は楽しくないと思うんです。だから、仕事をして心が満たされるような環境をつくりたいと思っています。
——今、「働きがいのある会社」をつくりたいと考えている中小企業の経営者はたくさんいると思うんです。最後に、そんな経営者にアドバイスをいただけますでしょうか。
一言でまとめるのは難しいのですが、諦めずに社員を信じることだと思います。良い会社をつくるということは、良い社員を育てるということだと思いますので。
採用もそうですよね。例えば、新卒採用。採用エージェントから「御社の規模だとこのスペックの人材を採用するのは難しいんじゃないですか」と言われたとしても、そんなことは気にしなくていいと思います。
じつは、私たちも最初の頃は「うちみたいな中小企業に大学生は応募しない」という固定概念があって、ターゲットを狭めて募集をしていたのです。
でも2005年頃から採用方針を変えました。思い切って、技術の会社として、一番ほしかった理系学生を採用することに注力しました。その結果、いまでは新卒入社の38%が東工大出身です。
昨日も私たちが主催する「組織いきいき実践勉強会」(※)である社長さんから、「アクロさんだからできることで、うちのような会社には無理だ」と言われました。
でも、そうじゃありません。私たちも最初はその社長さんと同じように固定概念を持っていました。でも、いまでは優秀な人材が集まるようになって、「働きがいのある会社」ランキングで1位に選ばれるようになりました。
諦めずに模索していれば、必ず道は拓けます。なぜなら、私たちがそうやってきたのですから。
——貴重なお話、ありがとうございました!
※組織いきいき実践勉強会…アクロクエストテクノロジーが主催する勉強会。各社の経営者が集まり、翌日から実践で役立つノウハウ/考え方を中心とした勉強会を開催している。
<こちらの記事もチェック!>
・「働きがい」の要素とは?アンケート調査を実施してみた
・離職率の高い企業、低い企業の特徴は?多様化社会を生き抜くために必要なコト
・健康経営とは?導入メリットと企業の取り組み事例について