働き方

高度プロフェショナル制度の対象職種や年収は? 裁量労働制との違いを解説!

「年5日の有給休暇取得義務」・「同一労働同一賃金」・「残業時間上限規制」など働き方改革に関連した、政府によるさまざまな法律のなかでも、特に注目を浴びているのが「高度プロフェッショナル制度」です。

働き方改革の推進は、各企業による取り組みや施策に委ねられています。ひとえに「働き方を変える」といっても、性別や職種、社内風土、私生活の状況によって従業員への対応は企業ごとに異なるのです。高度プロフェッショナル制度が注目されている理由は、政府が法的に従業員の「働き方」を支援する、その制度内容にあります。

今回はそんな高度プロフェッショナル制度について、制度の対象基準やメリット、裁量労働制との違いを含め紹介します。

高度プロフェッショナル制度の仕組みと背景


高度プロフェッショナル制度とは、労働時間に関係なく、従業員の業務成果に応じて報酬を与える制度です。そのため企業は制度適用者に対し、「時間外・休日労働・深夜残業」で発生する賃金の支払い義務がなくなります。

高度プロフェッショナル制度の起案背景には、少子高齢化による生産年齢人口の減少が挙げられます。限られた従業員で高い生産性を実現するには、従業員の職種や業務内容、私生活に合わせた柔軟な働き方が求められます。そのためテレワークやモバイルワークなど「働く場所」に加えて、フレックスタイム制度や年次有給休暇の時間単位での取得など従業員の「労働時間」は重要な要素となります。

職種や業務内容によって労働時間に差が生まれ、年次有給休暇の取得率が低い現状からも、労働時間で従業員を縛るのではなく、成果に応じた賃金の支払いが重視されるようになったのです。

高度プロフェッショナル制度は「残業代ゼロ法案」「脱時間給制度」とも呼ばれ、過労死を促進させる、長時間労働の合法化などと反対意見も叫ばれました。多くの議論がなされた結果、対象となる業務や年収、条件等が規定され、2019年4月よりスタートしました。

高度プロフェッショナル制度の対象職種と条件

それでは、高度プロフェッショナル制度の対象となる職種や条件について具体的に見ていきましょう。

対象職種 年収 条件
・金融商品の開発
・ディーリング
・アナリスト
・コンサルタント
・研究開発
1075万以上 ・本人の同意
・労使委員会の決議

対象職種

高度プロフェッショナル制度の対象は「特定高度専門業務」に該当する者となっています。特定高度専門業務とは、高度な専門知識と能力を必要とし、従事した時間と従事して得られた成果との関連性が薄い業務を指します。具体的な職種内容は上図の通りです。ここでは、2018年10月31日に行われた労働政策審議会労働条件分科会の会合で発表された、対象業務の素案を参考に、詳しく説明いたします。
※参考資料は厚生労働省が修正した改訂版の素案となります。

金融商品の開発

金融工学や統計学、経済学などの専門知識を用いて、シミュレーションや検証を行い、金融取引のリスクを減らしながら行う金融商品の開発業務を指します。

<対象にならないと考えられる業務>

・金融商品の販売、提供、運用に関する企画立案又は構築の業務
・保険商品又は共済の開発に際してアクチュアリーが通常行う業務
・商品名の変更のみをもって行う金融商品の開発の業務
・専らデータの入力・整理を行う業務

厚生労働省“第148回(平成30年10月31日)労働条件分科会配付資料No.2”より引用

ディーリング

投資判断が必要な資産運用業務や、有価証券の売買、証券会社におけるディーラー業務を指します。

<対象にならないと考えられる業務>

・有価証券の売買その他の取引の業務のうち、投資判断を伴わない顧客からの注文の取次の業務
・ファンドマネージャー、トレーダー、ディーラーの業務の補助の業務
・金融機関の窓口業務
・個人顧客に対する預金、保険、投資信託等の販売・勧誘の業務

厚生労働省“第148回(平成30年10月31日)労働条件分科会配付資料No.2”より引用

アナリスト

企業や市場における高度な分析業務を指します。具体的には有価証券に関する分析結果を評価し、運用担当者に助言するなどの業務が挙げられます。

<対象にならないと考えられる業務>

・一定の時間を設定して行う相談業務
・専ら分析のためのデータ入力・整理を行う業務

厚生労働省“第148回(平成30年10月31日)労働条件分科会配付資料No.2”より引用

コンサルタント

事業や業務の企画立案・運営に関する高度な考察や分析、助言などの業務を指します。分析内容としては、経営状態や環境、財務状態、生産効率や市場動向の調査などが挙げられます。

<対象にならないと考えられる業務>

・調査、分析のみを行う業務
・調査、分析を行わず、助言のみを行う業務
・専ら時間配分を顧客の都合に合わせざるを得ない相談業務
・個人顧客を対象とする助言の業務
・商品・サービスの営業・販売として行う業務

厚生労働省“第148回(平成30年10月31日)労働条件分科会配付資料No.2”より引用

研究開発

新しい技術・商品、役務の研究開発、それら新しい技術を用いて行う管理方法の構築、サービス研究開発などを指します。

<対象にならないと考えられる業務>

・作業工程、作業手順等の日々のスケジュールが使用者からの指示により定められ、そのスケジュールに従わなければならない業務
・既存の商品やサービスにとどまり、技術的改善を伴わない業務
・他社システムの単なる導入にとどまり、導入に当たり自らの研究開発による技術的改善を伴わない業務

厚生労働省“第148回(平成30年10月31日)労働条件分科会配付資料No.2”より引用

医師や公認会計士は高プロ対象にならない

現時点で、高度な専門知識と能力を持つと考えられる医師や公認会計士は、高度プロフェッショナル制度の対象外となっています。高度プロフェッショナル制度は、時間に縛られない働き方の制度ですが、医師は通常、診療時間などを自分で決められないため制度の対象外となっています。ただし、研究開発業務を担っている研究医などは対象になるようです。

公認会計士も、医師同様に労働時間を自由に設定できる業務ではないため、対象ではありません。しかし中にはコンサルティング業務を行う会計士も存在するため、対象業務になる可能性もあります。このように、高度プロフェッショナル制度の対象業務は、現段階では曖昧。今後の議論や制度の利用率から、対象業務が明確になっていくでしょう。

年収

当初の法律案では、「民間企業労働者の平均給与額の3倍を相当程度上回る(1075万円)」水準とされており、最終的にも対象者の年収が1075万円以上と決まりました。しかし、平均給与額はその年によって変動するため、対象年収も今後は上下することが予想されます。

制度適用条件

制度の適用条件には、本人の同意と労使委員会の決議が欠かせません。労使委員会とは、企画業務型裁量労働制を導入する際に設置が義務付けられるものであり、経営陣と従業員で構成されます。ただし委員の半数以上は過半数の労働組合、または従業員の過半数を代表するものに任期を定めて指名する必要があります。また本人の同意が得られなかったからといって、本人への不利益な扱いは禁止されています。

企業に求められるのは健康確保処置

高度プロフェッショナル制度を適用された労働者は、労働時間が制限されていないため、企業には対象者の健康を維持するための「健康確保措置」が義務付けられています。以下、健康確保措置の要件となります。

・年間104日の休日確保措置を義務化
・インターバル措置(終業時刻から始業時刻までの間に一定時間以上を確保する措置)
・1月又は3月の健康管理時間の上限措置
・2週間連続の休日
・臨時の健康診断のいずれかの措置の実施を義務化。

厚生労働省“「高度プロフェッショナル制度」の創設について”より引用

◎健康経営とは?メリットや企業の取り組み事例、実現までのステップ
◎新たな従業員満足度の概念「ウェルビーイング」とは?

高度プロフェッショナル制度と裁量労働制の違いは?


高度プロフェッショナル制度と似た制度に、「裁量労働制」があります。裁量労働制とは、労働時間に関係なく、働いた成果や質によって報酬を受ける制度です。「時間ではなく成果」で評価される点が、高度プロフェッショナル制度と共通しています。

しかし、裁量労働制では、対象となる職種や年収、残業代の有無などの点で違いがあります。
両者の違いを比較しながら見てみましょう。

  高度プロフェッショナル制度 裁量労働背制
対象職種 ・金融商品の開発
・ディーリング
・アナリスト
・コンサルタント
・研究開発
専門業務型(19業務)と企画業務型の2種類があり、対象範囲が広い
対象年収 1075万円以上 条件なし
労働時間 規定なし 労働基準法の範囲でみなし労働時間を定める
時間外手当・休日・深夜手当 支払われない 支払われる

高度プロフェッショナル制度の対象が5業務なのに対し、裁量労働制は専門業務型(19業務)・企画業務型と対象業務が広く、年収の制限もありません。また大きな違いとして、裁量労働制はみなし労働時間を超えた場合、休日・深夜労働が発生した場合に、割り増し賃金が支給されます。つまり、裁量労働制は労働基準法に守られた制度と言えます。「自由な働き方」という点では、高度プロフェッショナル制度にメリットがあるでしょう。

高度プロフェショナル制度のメリットと注意点

では具体的に、高度プロフェッショナル制度にはどのようなメリットがあるのでしょうか。制度導入時の注意点を含め紹介します。

自由な働き方の促進

労働時間が定められていないため、出勤や退社を制度対象者が自由に決められ、休暇の取得も可能です。自身の体調や私生活に合わせた働き方ができるため、ワークライフバランスの実現が期待されます。また、制度対象者への報酬は業務上の成果によって評価されるため、これまでのように時間で縛られていた働き方に比べ労働意欲が向上し、生産性も上がるでしょう。

「自由な働き方」には注意が必要

高度プロフェッショナル制度による自由な働き方も、人によってはデメリットになるでしょう。労働時間が決められていない分「だらだらと仕事をしてしまう」「働く時間が増えた」という結果になってしまっては元も子もありません。また企業は、制度対象者の賃金を業務成果によって評価し支給するため、以前よりも明確な評価指標の設定が求められます。

高度プロフェッショナル制度の活用は、メリットとデメリットが混在しています。制度対象者の同意はもちろん、労使委員会による厳重な決議を行い、制度対象者の働き方と報酬が充実するように、企業からの支援や管理は欠かせません。「自由」と「放任」を履き違えずに、制度の活用目的を明確にしましょう。

高度プロフェッショナル制度の利用状況

制度の成立までに、多くの議論や内容の改善が行われてきた高度プロフェッショナル制度。2019年4月より働き方改革関連法案が順次施行され、高度プロフェッショナル制度もスタートしましたが、実際にどの程度利用されているのでしょうか。

件数 労働者数
4件 321人
金商品の開発
ディーリング 11人
アナリスト
コンサルタント 309人
研究開発 1人

厚生労働省“高度プロフェッショナル制度に関する届出状況(令和元年度)”を参考に作図
※すでにリンクはきれています。

厚生労働省が発表した「高度プロフェッショナル制度に関する届出状況(令和元年度)」によると、6月末時点での制度に関する決議届件数は4件、労働者数は321人となっています。制度の対象条件が厳しく、長時間労働を促進してしまうといった懸念が、制度の利用が進まない要因といえます。今後の利用率にも注目ですが、制度利用率の拡大には、現状の制度内容の改善が求められそうです。

まとめ

働き方改革関連法案の中では焦点となっていた高度プロフェッショナル制度ですが、現在は普及しているといえない状態にあります。しかし、今後さらに少子高齢化が進み生産年齢人口の減少が進んだ場合、企業は従業員の多様な働き方を積極的に進めていく必要があります。そのためにも、高度プロフェッショナル制度のような施策をうまく活用し、生産性や従業員満足度の向上を目指しましょう。

働き方改革最新事情

いよいよ働き方改革は”法律”

2019年4月より「働き方改革関連法」が順次施行されています。
ここ数年、世間では「業務効率化」「生産性向上」「デジタル化」などと叫ばれてきた一方で6割以上の企業が働き方改革に対して、未対応となっています。
なぜ働き方改革が必要なのか?またどのように進めていけばいいのか?
改めて今後の「働き方改革」に迫っていきます。

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