法人用パソコン(以下、PC)の選定、購入そして導入は、情報システム部門(以下、情シス)の大仕事のひとつ。何しろ、1台20万円としても1000台を導入すれば2億円もの大金。それゆえに、情シスにかかるプレッシャーも大きなものとなります。
しかし、一体どのような基準でPCを選べばいいのか途方に暮れている人も多いことでしょう。
そこで本稿では法人用PCを選定する際の基準をご紹介します。
PC選定基準その1:持ち運びに優れた携帯性
働き方改革が進む昨今。生産性を高める方法を模索している企業も多いのではないでしょうか。IT資源調達の観点から、柔軟な働き方を実現するには、情シスが適切にPCを選定する必要があります。そのためには、まず、「リモートワークなど場所や時間の制限が柔軟な働き方を推奨したい」「会議室にノートPCを持ち運び、ペーパーレス会議を実現したい」など、現場のITリテラシーを考慮して、実現したい具体的なゴールを描くことが重要です。次に、「携帯性」を意識したPCを選定すると良いでしょう。以下、詳しく解説していきます。
1. 重量・形状
まず、PCを持ち運ぶことを想定すると、軽く、薄く、フラットな形状であることが必須要件となります。そのため、重量やサイズとのバランスに注目するといいでしょう。
2. 省電力
会議室にスマートにPCを持ち寄った際、コンセントの取り合いになったり、電源アダプタが常に必要となったりする事態は望ましくありません。そのため、できる限りバッテリーの駆動時間が長いものを選ぶと良いでしょう。「国際エネルギースターロゴ」がついているなどの省電力のPCには電気代を削減できるというメリットもあります。PCを大量に導入するほど、そのランニングコストの差は大きく開いていきます。
3. インターフェース
さらに、インターフェースも忘れてはいけないポイント。ネット接続は無線LANが全盛になっているとはいえ、企業内では有線LANが主流。また、外部出力としてHDMIやRGBコネクタなどに対応していることも要チェックです。どんなモバイル環境でも情報収集・共有・プレゼンテーションのビジネスパフォーマンスを発揮できるものがおすすめです。
PC選定基準その2:セキュリティ
PCを携帯する際に情報が漏えいするリスクが増えるため、セキュリティも重視しましょう。実際、日本ネットワークセキュリティ協会の「2016年 情報セキュリティインシデントに関する調査報告書」によると、情報漏えいの原因として「紛失・置き忘れ」が13%、「盗難」が5.3%となっています。約2割の情報漏えいが、PCを持ち運ぶことで起こっているのです。そのため、セキュア認証、セキュアなアクセス、頑丈さなどを基準にPCを選ぶといいでしょう。
ID・パスワードの組み合わせをPIN(Personal Identification Numbe)やデバイスによるトークンで代替できれば、セキュリティが高まります。また、本人認証にも指紋など生体情報を組み合わせられれば、さらに安全な環境が保障されます。
近年はSIMスロット搭載のPCもでています。その場合に、エンドポイントの管理として、コストパフォーマンスの高いSaaS型で提供するMDM(Mobile Device Management)サービスの利用からエンドポイントの総合管理をスタートするのもよいでしょう。
また、何よりも物理的な頑丈さは非常に大切です。持ち運ぶ中で、揺れ・圧力・落下などさまざまな衝撃にさらされるノートPC。耐久性が低く数年もしないうちに壊れてしまうようであれば、購入費用が多少安くても意味がありません。ノートPCは持ち運ぶ頻度も高く、持ち運びによる衝撃で故障する可能性もあり、結果HDDにアクセスできずにデータが損失するのは、企業にとって非常にリスクが高いといえます。
特に、働き方改革を受けてリモートワークを推奨するような場合は、携帯性とセキュリティに着目してPCを選定しましょう。
PC選定基準その3:スペック
業務を効率化し、従業員に快適な労働環境を提供するためには、パフォーマンスも重視してPCを選定する必要があります。PCの購入サイクルは4〜5年が一般的ですが、その間にPCは凄まじいスピードで進化しています。そのため、買い替えの際は性能が落ちないことはあたりまえですが、買い替え前と同じ価格帯のPCでもパフォーマンスが大きく上がるはずです。
パフォーマンスは処理速度、入力性、消費電力で左右されるので、これらのスペックも注視してPCを選びましょう。とくに処理速度はパフォーマンスや業務効率に直結する部分。サイズが大きい表計算のワークシートを処理したり、プレゼンの文書作成において、ストレスフリーな作業ができるようにすることが大切です。
具体的なスペックを決定するときには、利用部署から業務におけるPC活用の目的やスペックの要望をヒアリングします。部署によっては複数のスペックのPCを用意する必要があります。たとえば、簡単な文書作成にしか利用しない営業業務用のPCと、高度なグラフィック処理を必要とするデザイン業務用のPCでは、スペックに差があるからです。
もし、利用部署からオーバースペックを要求された場合、それが本当にオーバースペックなのか情シスには判断できないことがあるかもしれません。情シスの経験則から判断しようとしても、業務の実態は現場の従業員が一番詳しいためです。その際は、できる限り利用部署のニーズに沿えるようにヒアリングを十分にした方がいいでしょう。予算が限られている場合は、ベンダーから検証機を借りるなどして、実際に検証するのもおすすめ。
検証機でのテストが重要!
検証機ではタイピングテストをして、入力のしやすさも確かめましょう。キーの配列と、打ち心地の良さ。もちろん、人によって感覚は異なるので一概には言えませんが、しっかりとした打鍵感は仕事の生産性に良い影響をもたらします。その他、社内で利用しているアプリケーションの起動テストや、社内外からのネットワークテストなども重要な検証機でのテスト項目となります。検証機でのテスト項目はあらかじめ、情報システム部門などで整理しておくと便利です。
さらに、起動の速さも大きな差を生むポイントです。セキュリティのためやバッテリー維持のため、離席時や携帯時にはPCの電源を毎回落とすケースも多いです。仮に起動時間に20秒の差があり1日3回電源を入れ直すとしたら、年間(240日勤務)4時間もの差になります。従業員が多いほど、このコストを削減できるので、注意しなければならないポイントです。
そして、最後に消費電力です。すでに携帯性の項で説明したように、省電力のものを選ぶことで、TCO(Total Cost of Ownership:総保有コスト)の削減につながるだけでなく、もうひとつメリットがあります。それは、低発熱であること。熱もまた、人を不快にさせる要因です。その熱を抑えられれば、従業員のストレスフリー環境がすすみ、業務効率を上げることができるでしょう。
PC選定基準その4:サポート体制
さて、最後にPCのメーカー選びです。サポート体制が充実しているメーカーをできる限り選択しましょう。個人で購入する場合は、スペックや使用用途などを検討するだけでもいいかもしれませんが、法人の場合は、導入時や故障時の対応などのサポート体制も重要になります。
といいますのも、情シスにとってPCの導入・保守・運用は、大変な業務負担があるためです。もし、メーカーのサポート体制がない場合、情シスだけで導入機器を決定し、マスターPCでマスターイメージを作成し、それをクローニング(複製)。そして、導入したPCの1台1台について、企業のIT導入ポリシーに沿ったBIOS設定の変更やネットワーク機器やサーバー、PCのネットワークの設定をするセットアップ作業からPCサポートをはじめなければなりません。
メーカーのサポート体制には、このような「キッティング(PCのセットアップ作業の総称)」から運用・保守・リサイクルまでを支援する「PCライフサイクルマネジメント」サービスを提供しているメーカーもあります。サポート体制を活用することは、情シスの限られたリソースを有効に使い、リソース不足などで起こる作業上のヒューマンエラーも防ぐことができるのです。
各種PCメーカーが窓口で受け付けているサポートは、故障したハードの修理からネットワークやソフトの整備まで幅広く様々なものがあります。故障や整備不良が起こり、情シスの質によっては即対応できない場合があったら、経営に大きな影響を与える恐れもあります。リスクを減らす意味でも、可能な限り手厚いサポート体制やサービスを提供しているPCメーカーを選ぶのがおすすめです。
妥協せず、最適なPCを選定しよう
このように、法人用PCを選定する場合は、個人用PCを選定するときよりも、さらに検討することが多くなります。そのため、選定時は情シスにかかる負担も大きいものです。しかし、各部署の利害を調整し、現場を満足させられるPCを選定できれば、あなたの評価も上がるはず。妥協せずに、時間をかけて選んでみてください。
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(文章改修 2018年3月19日)