昨今、多くの企業が働き方改革やデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めるなかで、注目を集めているのが「BPR」です。BPRとは「ビジネスプロセス・リエンジニアリング」(Business Process Re-engineering)の略で、業務内容やフロー、組織や管理体制などの抜本的な見直しを意味しています。
今回は、具体的にBPRをどう進めるべきなのか、実現することでどのようなメリットがあるのか等について説明していきます。
BPRとは抜本的な業務改革を進めること
BPRとは「ビジネスプロセス・リエンジニアリング=業務改革」を指す言葉です。業務に関係するあらゆる要素をリエンジニアリング(見直す)することで企業本来の目的の達成を目指します。
BPRは最近生まれた概念というではありません。初めて提唱したのは元マサチューセッツ工科大学教授のマイケル・ハマー博士と、経営コンサルタントのジェイムス・チャンピー氏。1993年に発表された彼らの共著『リエンジニアリング革命』により世界中に知られるようになりました。背景にあったのは米国での長期に渡る不況と、ビジネスプロセスの高度な専門化・分業化がもたらした非効率やコスト増への反省です。
一方、日本でBPRが広まったのはバブル崩壊後のことでした。不況に陥った日本では多くの企業がそれまでのビジネスの進め方を見直す必要に迫られ、その処方箋のひとつとしてBPRが歓迎されたのです。しかし、結果的に日本でのBPRは、リストラを助長してしまったこともあり、その試みは決してうまくいったとはいえませんでした。
BPRと業務改善の違い
BPRが意味する「業務改革」はよく「業務改善」と混同されがちですが、両者はまったくの別物です。業務改善は現状の業務プロセスをベースに、無駄を省いたり手法の見直しを行ったりして業務の効率化を目指すものです。あくまで現状の延長線上で方法や手段を変えることであり、業務を大きく変革するものではありません。
一方でBPR――業務改革は、もっと抜本的に業務プロセスを見直すものです。企業が目指す目的を達成するために、現状を否定した観点から業務・組織体制そのものの変革をし、新しい価値や付加価値の創出を追求します。
働き方改革とDXでBPRに再びスポットが
BPRがいま再び注目を集めている理由は日本の現状にあります。超高齢化社会が到来し、労働人口が減少する一方の日本では、これまでと同じビジネスプロセスで進めることが困難になってきています。働き方改革により業務を効率化する必要があり、並行してBPRに取り組む企業が増えているというわけです。
また、90年代とは異なり、ITが発展した現代ではBPRに関する様々なツールやサービスも登場しています。そのため、IT技術を活用し、既存ビジネスを見直した新たな価値を顧客に届けるデジタルトランスフォーメーション(DX)を進める上でも注目されている概念なのです。
BPRで得られるメリット
BPRは進め方や対象となる業務によって、得られる結果が異なります。そのためBPRのメリットは一概に言えませんが、ここでは以下の3つに絞って紹介します。
・迅速な意思決定
・従業員満足度、顧客満足度の向上
日本の企業では業務が分業制になっていたり、縦割の組織が多く存在します。会社の規模によっては従業員数も増え、業務フローも複雑化しており、全体像を把握するだけでも非常に困難です。BPRの実施過程では、全体の業務フローを可視化するため、各プロセスで発生している細かい業務の無駄や属人化する業務を洗い出せます。業務改善では部分的な業務の効率化しか達成できませんが、BPRは組織全体の業務効率を高め、生産性の向上が期待できます。
さらに組織体制も見直され、不要な部署やチーム・ポジションも取り除かれた結果、ボトルネックを把握・解消した迅速な意思決定にもつながります。業務フロー・組織体制の最適化は、従業員の効率的な業務やコミュニケーションの活性化を支援し、働き方改革を促進。快適な働き方とライフワークバランスの実現が従業員満足度を高めます。
ここまで紹介したメリットは、BPRを進める過程で生まれるものです。冒頭で説明したように、BPR最大の効果は、業務・組織体制の見直しによる新たな価値・付加価値の創出にあります。それはつまり顧客へ提供する既存サービス・製品の質を高めることを意味し、顧客満足度の向上につながります。現状の延長線上ではなく、企業の目指す目的の達成や顧客満足度の向上といった、将来志向でもたらされる変革が、BPR最大のメリットと言えます。
BPRを実施するための流れ
BPRはどのような流れで進めていくべきなのでしょうか。一般的には「検討」「分析」「設計」「実施」「モニタリングと評価」という5ステップで行われます。
検討 ~全体像の把握~
まずはBPRを実施する目的や、どこまでの業務を対象とするのかなどプロジェクトの全体像を検討します。前述したようにBPRは単なる業務改善とは違う大規模な変革であり、安易な実施はむしろ現場の混乱を招く可能性があります。BPRプロジェクトについて、関わる全員がしっかりとビジョンを共有することが重要です。
分析 ~課題の洗い出し~
続いて現在の業務フローや業務内容、組織体制を可視化し、何が課題になっているのかを把握します。現場の人間にしかわからないこともありますし、逆に外から見ているからこそわかることもあります。各部署やキーパーソンへのヒアリング等を進め、業務の分析を行います。
設計 ~戦略や方針の策定~
自社の業務プロセスを可視化したら、それをどう改革するべきかという設計を行います。全体的な戦略や方針を策定し、具体的にどのような手法をどのプロセスに適用するのかを考えます。
実施 ~リスクを想定した改革~
業務改革の方法をしっかりと設計したら、いよいよ実施です。大きな改革には混乱や反発がつきものですが、ここまでにしっかりとコミュニケーションをとり、準備を進めていたならリスクは最小限で抑えることができるはずです。
モニタリングと評価 ~結果と改善~
改革を進めても終わりではありません。計画段階で期待した効果が出ているのか、変革によるマイナスの影響は出ていないかなどを継続的にモニタリングし、BPRの評価を行います。もし新たに生まれた課題があれば、再び検討や分析を行ってひとつずつ改善していくことが重要です。
BPRに用いられるツール・サービス
一般的にBPRでは「分析」と「実施」段階で用いられるツールやサービスが分かれます。当然すべてを導入する必要はなく、自社に適した手法を検討し導入してみましょう。
分析ツール
・ABC/BSC
ABCやBSC(バランススコアカード)といった手法はBPRにおける分析に有効です。ABC分析は売上やコストなどをデータに基づいてクラス分けし、分析します。BSCは財務、顧客、業務プロセス、学習と成長という4つの視点から企業の戦略やビジョンを分析していきます。
実施のためのツール・サービス
・アウトソーシング/BPO
業務プロセスの一部、あるいはすべてを外部に委託する方法です。特定の業務を完全に切り離して外部委託することを「BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)」といいます。プロセスのすべてを社内で行う必要はなく、むしろ外部のプロフェッショナルに任せる方が効率面やコスト面で良い結果になることも多いです。
・シェアード・サービス
シェアード・サービスとは、人事や総務、法務部門といった企業の間接部門の業務を一箇所に集約し標準化することです。社内やグループ企業内で同じ業務を行っているのであれば、その業務に特化した専門の部署や子会社をつくり集約した方が効率化できるケースもあります。BPRの実施過程において、特定の業務プロセスを効率化するのに役立ちます。
・ナレッジ・マネジメント
個々の従業員が持つノウハウを社内全体で共有することで、新たなビジネスアイデアの創出につなげたり、生産性を向上させる取り組みです。情報伝達の促進や、顧客対応の強化にも期待できる手法のひとつです。
・ERP(統合基幹業務システム)
ERP(Enterprise Resources Planning)とは統合基幹業務システムのこと。会計や人事といった基幹系業務をひとつのシステムに統合することで、効率化を進めることができます。このERPを実現するための様々なソフトウェアも登場しています。
BPRはDXを進めるか
ここまで述べてきたように、現代におけるBPRの実現にはITツールの活用が欠かせません。そして、ITを駆使した業務プロセスの改革、組織体制の見直し、ビジネスの再検討をBPRと呼ぶのであれば、BPRはデジタルトランスフォーメーション(DX)と非常に近い概念であるといえます。
今回ご紹介したBPRの実施ステップやツールの活用を機に、既存ビジネスをマッシュアップしたサービスの提供ができれば、それはデジタルトランスフォーメーション(DX)の実現とも言えます。
◎:デジタルトランスフォーメーション(DX)とは?事例とともに実現のポイントを紹介
まとめ
いま、企業はかつてない変化の波にさらされています。政府が2018年9月に発表した「DXレポート」によれば、企業のDXが進まないと、最大で年間12兆円もの経済損失が生まれると試算しています。今後も成長を続けデジタル時代を勝ち抜くためには、これまでの業務プロセスの見直しが急務。目の前の課題を改善した現状維持を続けるのではなく、BPRの実施といった新たな価値を創出し続けることが、変化の大きいデジタル時代の企業命題となるでしょう。