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「情システム部門(以下情シス)」という言葉を検索してみると、ネガティブな情報が散見されます。一方で、「経営者の近くでコミュニケーションできる」、「現場の意見をIT利活用で反映できる」、「全社的なIT利活用の支援ができる」など、幅広く期待され厚遇されている事例も見られ、二極化が進んでいるようです。
そこで今回は、第四次産業革命を乗り越えるようなIT人材として、これからも必要とされる情シスになる方法、情シス不要論を覆す方法を、ITコーディネーターとして現場で求められるIT人材育成に携わった経験からご紹介します。
「情シス不要論」が生まれた背景について
攻めの情シスになる方法をご紹介する前に、まず「情シス不要論」という言葉が生まれた背景についてご説明します。従来の業務システム保守だけにITを活用するのではなく、イノベーションや経営改善のためにITを活用するという動きが2014年頃から製造業を中心に活発になりました。そのような背景から、主に「保守・運用」を担っているだけの「情シス」は必要ないという風潮が生まれ、ここ最近は、さらに企業規模にかかわらず「情シス不要論」が加速しています。
そもそも「情シス」は企業において「IT部門」として、インターネットが普及しパソコンの価格が格段に安くなった1997年頃から、リーマンショックがおきる2008年頃まで、戦略的投資部門として活躍してきました。この時期は、IT機器やソフトウェアのベンダーと蜜月の時期でもあり、スタンドアローンタイプの業務システムがEDIなど他社と電子的に取引ができる業界横断取引システムになるまで、言い値感覚の経費が投入されて、新しい機器やシステムの導入が続いたのです。この間「情シス」は、ネットワークやセキュリティ、データのバックアップを遠隔でベンダーに対応させ、さらなる業務効率の改善のための「新規システム案件の企画・開発」に集中できる状況でした。
「2000年問題(2000年になるとコンピュータが誤作動する可能性があるとされた年問題)」を過ぎてからは、「情シス」が関わる新規案件は減り、「ヘルプ・保守」の役割に落ち着くかにみえました。しかし、政府CIO法が立法された流れで、民間企業にも情報担当取締役が生まれ、「情シス」に、新しく「セキュリティ」という保守の役割ができ、全社的に「データや情報の運用・保守」に責任を持つ立場を獲得したのです。
やがて、2008年に「リーマンショック」が起き、世界的な経済の落ち込みにひきずられるように、企業のIT投資はひかえられて、「情シス」部門は単なる「保守・管理」中心のコストセンターと見なされるようになってきたのでした。
2013年10月の(一社)電子情報技術産業協会「ITを活用した経営に対する日米企業の相違分析」によれば、IT予算を増額する企業における増額予算の用途の日米比較において、米国は「攻めのIT投資」をしているが、日本は「守りのIT投資」をしているというデータが公表されました。米国では、「ITによる製品、サービス開発強化」、「新たな技術、製品、サービス利用」、「ITを活用したビジネスモデル変革」、「ITによる顧客行動、市場の分析強化」などの攻めの項目が多い一方、日本では、ダントツに「ITによる業務効率化、コスト削減」の守りの項目に経費を使っているという内容でした。この投資の違いが、2014年以降叫ばれるようになった「情シス不要論」へとつながっていると考えられます。
参考:独立行政法人経済産業研究所「IT投資で世界の潮流に遅れ、グローバル化で遅れた日本企業;国際競争力低下の大きな要因」
攻めの情シスになる方法(マインド編)
ここからは本題である「攻めの情シス」になる方法をご紹介します。「攻めのマインド?むりむり。攻めるってよけいなことして、営業にうとまれたり、上司ににらまれたり、失敗して査定低くなったり…ろくな事無いよね~」、「うちの上司やんなっちゃうよ。これからは攻めのITだ。なんか考えろ!って…いやいや、あなたが営業やマーケティング役員を説得してからでしょ」など、いろいろな感情が脳裏を横切りますよね。「攻めるマインドを持つ」というのは、行動や習慣をいろいろ変えることになるので、慎重になりがちです。たしかに、0を1にするのは大変ですが、今持っているところを強化して、「失敗しても、またチャレンジすればいいよ」なんて言ってくれる仲間ができれば、変化を恐れず挑戦できるのではないでしょうか。
思い出して下さい。受験や資格試験や就活で、自己分析をしたり成功体験を読んだり、勉強法を研究したりしていませんでしたか?モチベーションアップのために、名言やスローガンを紙で書いたり、それを壁にはったりしていませんでしたか?「えっと…仕事人間じゃないんで、そんなの恥ずかしいです。そこまでしなくても…」なんて、声もきこえそうですが、一流のスポーツ選手や経営者が書いた書籍を読んだことがある方はおわかりでしょう。
時代に合わせて、自分のスタイルを変化させて、準備を怠らずめげずにいろいろな提案をしていくためには、まず、「ゴールを持つこと」、「モチベーションを維持すること」が大事なマインドとなります。「マインドは行動を伴うことでつくられる」ということも忘れてはなりません。以下では「攻めの情シス」になるためのマインドを醸成する方法をご紹介します。
1.ゴールを設定する
まず、ゴールを考えるための時間をつくります。次に、そのゴールを達成することが自分のスタイルに沿っているものかを感覚的に判断します。最後に、そのゴールを達成するまでのプロセスをカレンダーに書き込んでみます。たとえば、「尊敬する歴史上の人物の本を1ヶ月に1冊よむために、●月●日に本屋に行く」とか、「自分の思考パターンを分析するために、思考術セミナーに●月●日に行く」など、できそうなことを積み上げて、信念のような「お気に入りの言葉」を見つけます。または「心の中で繰り返せる歌」でもいいかもしれません。会社で言えば、「企業理念」に相当します。きっと、対立的な関係でのコミュニケーションをとるときや、いざというときに、迫力と説得力が増すことでしょう。
2.人と関わり、活躍の場を見つける
モチベーションを保つ上で大切なことは、「孤立」しないことと「活躍の場」を見つけること。たとえば、友人と会ったり、趣味に没頭するなどもいい方法でしょう。こうした心が喜ぶことを行うことで、自分の言動が、否定されても非難されても持ちこたえることができ、相手を思いやる余裕ができます。
攻めの情シスになる方法(スキル編)
「攻めの情シス」になるためには、「CIOになったつもりで社会視点、戦略視点、実現視点で、経営戦略を考えられるスキル」と「上から目線でない顧客視点、成熟度視点でプレゼンやコミュニケーション術を使えるスキル」、「利害関係者をプロセス視点、客観視点でファシリテーションできるスキル」が最低限必要になります。つまり、「従来の情シスのスキル」は使いません。
具体的には、特定非営利活動法人ITコーディネーター協会編「ITコーディネーター実践力ガイドライン」の中のITコーディネーター実践力体系に記載されている「実践知(IT経営実現能力)」、「知識(IT経営実現に必要な知識)」を身につけることをお勧めします。「ITコーディネーター実践力ガイドライン」には、その能力の育成内容とその評価まで記載があるので、参考にしてみてください。
ただし、いきなり実践すると痛い目を見ますので、まずは、手近なところから練習をはじめます。この練習で何をつかむかというと、「スピードで結果を出す」ことです。
最近、ソーシャルビジネスという言葉を聞いたことがあると思います。ソーシャルビジネスでは、社会的課題を解決したことを価値として収益を上げるビジネスです。この事例として、「一般社団法人 コード・フォー・ジャパン」という団体が「市民が主体となって自分たちの街の課題を技術で解決するコミュニティ作り支援や、自治体への民間人材派遣などの事業に取り組む」ことで、社会的価値を産みだしています。
自治体のオープンデータを活用して、Webアプリ「5374(ごみなし)」をオープンソースでつくったり、税金の使われ方をグラフで表した「税金はどこへいった」のコードを共有化したりしています。このようなアプリは、「アイデアソン」という多様な人があつまったワークショップで課題抽出を行い、翌日に「ハッカソン」というワークショップで技術者が集まってアプリ制作を共同で行うような形式でつくられているのです。
要は、「普段会ったことのない人達、しかも技術者でない人も含めて集まって、技術者がその場の四方山話やわいがやの中からプログラムで解決できる課題を見つけ、翌日にはプロトタイプレベルのアプリをつくる」という「スピードで結果を出せる活動」なのです。このような活動は全国に広がっているようなので、まずは「面白い。こうやればできるんじゃない?やってしまおう!」のサイクルの成功体験を積んでみて下さい。この体験が自信となって、自社内でも「攻めの情シス」になれるスキルを実践していけるでしょう。
まとめ
昨今、変われない「情シス」はいらないのではないか?なんて風潮もあり、「攻めの情シス」が求められています。結局、「攻め」でも「守り」でもスタイルにかかわらず、時代の流れに沿って変わっていかざるを得ない企業や現場の求めに完璧でなくても即応していけることがポイントです。そのために、柔軟に対応できるマインドやスキルを常に備えていくという本質は変わらないでしょう。今回ご紹介して方法を実践すれば、「情シス」としてばかりでなく社内コンサルタントとして、これからも活躍できるでしょう。