働き方改革

フリーアドレスオフィスのメリット、デメリット。バッグや書類などの私物は?

フリーアドレスオフィスのメリット、デメリット。バッグや書類などの私物は?

社員が固定席を持たず、オフィスの空いているデスクを使えるフリーアドレスを採用する企業が増えています。

1987年にこのオフィス改善方法を考案したのは清水建設技術研究所。当時の目的は、米国などと比べオフィスの広さが限られている日本において、スペースの利用効率を高めコスト削減を図ることでした。

しかし近年では、政府が成長戦略として働き方改革に力を入れる中、社員の勤務形態を変える施策としても脚光を浴び、2015年には総務省行政管理局も固定席を設けないオフィス改善を行い、話題になりました。IT環境整備が進んだことで導入が容易となり、企業の関心も年々高まっています。

本稿では、フリーアドレスを導入するメリットと課題を整理したうえで、成功させるためのポイントをまとめ、テレワークやフレックスタイム制などさらに多様な働き方へとつながる可能性について解説します。

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フリーアドレスオフィスとは?メリットとともに解説

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では、まずフリーアドレスオフィスの概念や定義から説明します。

フリーアドレスオフィスとは?

フリーアドレスのオフィスとは、社員それぞれが固定の席を持たずに、出社のタイミングで空いている好きな席を選択するオフィススタイルです。従来は、“島型”と呼ばれるオフィス、つまり部署や課などチームごとにデスクを連結させて、社員一人ひとりにひとつのデスクを与えるスタイルが普通でした。

では、フリーアドレスにはどのようなメリットがあるのか、解説します。

フリーアドレスのメリット①組織や立場を超えたコミュニケーションが生まれる

フリーアドレスに期待される効果として、セクションやチームのみならず、組織や立場の壁を越えたコミュニケーションの活性化が挙げられます。総務省行政管理局行政情報システム企画課では、柔軟な座席配置やチーム型机の導入により、職場内のコミュニケーションが活性化。7割以上の職員は業務がやりやすくなったと回答しています(※1)。
また平成27年からオフィス改革に取り組んでいる愛媛県西予市では、企画財務部の袖机を取り払い、課を仕切るロッカーを移設して業務スペースのコンパクト化を図りました。また各課・係の島を扇形にレイアウト変更し、課内のコミュニケーションの活性化とともに部内の横のつながりを強化。レイアウト変更前と比較して、8割以上の職員が「職員同士のコミュニケーションが増えた」と回答しました(※2)。

フリーアドレスのメリット②社員の行動様式の変革

フリーアドレスを導入している職場では、その日の仕事内容やスケジュール、一緒に作業する相手を考えて働く場所を選択します。日々の状況に応じた最適な行動様式を意識することで、生産性への意識が高まります。これにより、打ち合わせのスピードが早まり、自律的な働き方が進むなど業務の効率化が進みます。
たとえば総務省行政情報システム企画課では、フリーアドレスの導入によって約7割の職員が導入前と比較し「業務がやりやすくなった」とコミュニケーションの活性化を感じています。また席周辺の文書量が8割削減、カラープリント・コピー数が約半分になりました。(※3)。

フリーアドレスのメリット③社員の満足度の向上

フリーアドレスの導入により、従業員満足度向上の効果も期待されます。“島型”のように整然とした執務スペースは、オフィスでの変化が乏しく集中力やモチベーションの維持が困難になります。日々変化する業務内容に合わせて、適切なスペースを選択できる労働環境は、従業員満足度の向上に期待できます。

例えば、株式会社イトーキは、ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)という最新の手法をオフィスに採用しています。1人作業の集中スペース、対話やティーチングなど2人での作業が効率化できるスペース、ミーティングやブレインストーミングなど3人以上での作業スペースに加え、リチャージスペースなど、作業の変化に合わせてもっとも効率の良いスペースを社員が選べるようになっています。

◎フリーアドレスのその先へ! ABWとWELL認証を組み合わせた未来のオフィス

フリーアドレスのメリット④オフィスコストダウン

スペースコストの削減は、企業にとってフリーアドレスの大きな魅力の1つです。総務省行政管理局行政情報システム企画課オフィスでは職員1人当たりの床面積を17%縮減、統計局統計情報システム課オフィスでも各自の机の15%コンパクト化という効果が検証されています。

個々の机の面積を削減した代わりに2割増加したフリースペースを活用して打合せスペースを設け、液晶ディスプレイを設置。ペーパーレス会議をしやすい環境を整えた総務省の試みなども好例といえます(※5)。

フリーアドレスのメリット⑤オフィスのクリーン化

「フリーアドレスだとバッグなどの私物の置き場は?」という質問があります。フリーアドレスを導入しているオフィスでは、デスクは個人専用のものではないため、使用しないものは個人用のロッカーに収納することが基本となります。

次に使用する人が気持ちよく使えるようにするのが大前提のため(セキュリティの観点からも重要)、机周辺に資料が散乱することはなくなり、オフィス内は常に整然と片付いた状態になります。

フリーアドレスのメリット⑥ペーパーレス、テレワークとの高い親和性

フリーアドレスになると、共有書類のファイリングが徹底され、なるべく紙の資料自体を持たず電子化するよう心がけるようになります。そのためオフィスのペーパーレス化も推進できます。総務省行政管理局では、レイアウト変更前と比較して、個人席周辺の文書量が約8割減少、コピー・プリント枚数も半分に減少したとの効果が報告されています。

また、愛媛県西予市企画財務部ではコピー機を1台に削減し、印刷を最低限化する意識を植えつけました。袖机やロッカーを減らし、書類をデータで保存することにより、紙媒体での保存を最小限に抑制。プロジェクタやノートパソコン等を会議や予算査定、各種打合せに積極的に活用し、紙資料を削減することにも努めました。これらの努力が功を奏し、ペーパーレス化による経費削減に成功。平成23~26年にかけては平均 379,194 円だったコピー使用料が、平成27年には186,542 円(約50%減)という成果を上げています(※2)。

またテレワークともフリーアドレスは非常に相性が良いです。例えば、100人規模の会社で、テレワーク・モバイルワークも認められている場合を考えてみましょう。育児や介護で在宅勤務を使用しているケースやカフェやコワーキングスペース、サテライトオフィスを利用する営業系の社員がいます。ある特定の期間で席の占有率を調査することで、必要な席数を把握することができます。

席の平均占有率が70%だった場合、余裕を持って席数は85席程度用意することで、空いたスペースにリラックススペースやオープンミーティングスペースなどを設置することが可能になります。

フリーアドレスオフィス導入にあたっての課題

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さまざまなメリットがあるフリーアドレスですが、簡単に導入できるわけではありません。導入するにあたってのポイントや課題をみていきましょう。

席が固定席化してしまう

誰でも、上司との距離や人間づきあいなどを考えると、つい定位置や仲の良い人で集まってしまいがちです。これを防ぐには、座席の選び方にある程度のルールを適用することも重要です。座席抽選サービス、座席割り当てサービスといった商品開発も行われています。

例えば、カルビー株式会社は、出社時にダーツで席を選ぶシステムになっています。その日の業務内容に応じて、「ソロ席」「集中席」「コミュニケーション席」の3種類を選択。その後は、ダーツでランダムに席が決まります。取締役も例外ではないため、社内間のコミュニケーションの醸成、他部署間での業務理解などの効果が生まれています。(※6)

勤怠管理が困難になる

座席を固定しないことで、部署や課のメンバーがどこでどの作業をしているのか、を把握しにくくなる可能性があります。島型ですと、チームで席が固まっているため、必要に応じてコミュニケーションをすぐに取れるメリットがあります。しかし、フリーアドレスでは、社員それぞれが離れて仕事をすることが常態になります。ビジネスチャットなど即座に情報の共有、報告、相談ができるツールは必須となります。

業務内容によっては向き、不向きがある

たとえば、日中は外回りが多い営業職や、他部署との柔軟な交流が必要な企画部門では、座席を固定しないほうが有効です。一方で、経理・法務部や管理部門など、落ち着いた環境で作業すべきセクションや、個人情報や重要書類を扱う部署などでは、移動しながらの業務は不向きと言えるでしょう。

また、部署や業務によって切り分け、部分的に固定席を残す工夫も必要です。

フリーアドレスを全社で行っている企業も多いですが、特定の部署だけは席を固定化しないチームアドレスにするなど、会社のカルチャーや文化、業態に合わせて採用するとより効率的になるでしょう。

フリーアドレスオフィス導入の成功要件

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フリーアドレスを導入するにあたってのポイントや成功のためのステップを紹介します。

導入の目的を明らかにし、社員の理解を得る

目的があいまいなまま、「他社も導入しているから」と追従する形でフリーアドレスを導入しても、社員の賛同や協力は得られません。当然だった自席がなくなることは、頭では理解できても心情的に納得できないもの。特に役職者が、席にステータスを感じていることは往々にしてありえます。「なぜ座席を固定しないのか」理由を明確にして同意を求めることが大事です。その際、企業としてのメリットだけではなく、個々の社員にとってどのような利点やチャンスがあるのかを理解してもらうメッセージングが大切です。

理解を得られても、すぐに導入するのではなく、チームアドレスなど一部だけ導入して実証実験をするのも良いでしょう。「抵抗感を上回る期待感」を持ってもらえるような、説得力ある理由づけが求められます。

社員の目線でのオフィス改善

フリーアドレスでは持ち運びに便利なノートパソコンが「肌身離せぬ存在」となります。またセキュリティの堅牢性は最重視すべき条件となります。打ち合わせや会議時にバッテリーの残量を意識せずにすむよう、バッテリーライフの確認も怠らないようにしたいものです。

フレキシブルなコミュニケーション環境(インフラ・グループウェア・クラウドの活用など)と固定電話からの解放も条件となります。仲間の状況を簡単に把握するためのチャットツールやスケジューラーなど、社員のニーズに合った環境を整えましょう。オフィスのレイアウト作業についても、専門家に頼りきるのではなく、社内でプロジェクトチームを編成し、社員の目線でアイディアを出し、オフィス改善に取り組むことが重要です。

オフィス改善での業務効率化を目指す

フリーアドレスの導入には、上記で説明したように、社員の理解だけでなくノートパソコンなどの周辺機器が欠かせません。制度をただ導入することは簡単ですが、事前の環境整備を徹底し、最適なフリーアドレスを目指しましょう。その結果オフィスが整然として美しくなるなど、効果が文字通り「目に見える」制度として期待できるのです。さらに、フリーアドレスは多くの場合、社員全員を巻き込んで実施されるため、組織として一体感が醸し出されるメリットもあります。

加えて、資料・処理の電子化が達成され、各自が、縛られない自由な移動を当然と感じるようになっているため、まだ日本企業が抵抗を覚えがちなテレワーク実現への大きなステップともなります。なぜなら、フリーアドレスとテレワークは、場所の違いこそあれ、「これまで当然だったオフィスの固定席にいない」という点では共通した働き方だからです。フリーアドレスは社内のテレワークとも言い換えられるでしょう。

従来の、「縦割りの組織で」「決められた場所で」「無制限に」働くという従来のやり方は、フリーアドレスの方向性と対極に位置づけられます。だからこそ、フリーアドレスの導入でオフィス改善に成功すれば、社内環境のフレキシブル化に成功したも同然です。多様性を尊重して働くための人事制度や社内規定作りに踏み込むことも難しくはないでしょう。テレワークのみならず、フレックス制の導入や裁量労働制の拡充も視野に入ってくるはずです。オフィス改善を通じて、仕事のスタイルに柔軟性が生まれれば、働き方に対する社員の意識も変容し、社内の理解に基づいた真のワークスタイル変革が可能となるでしょう。

参考

※1総務省〜みなさんと総務省を結ぶ情報誌
※2「行革甲子園2016」応募事例(主催:愛知県)
※3業務効率化・生産性向上のための霞が関オフィス改革〜「働き方」の変革のための「働く場の改革」〜平成28年総務省
※4総務省ホームページ「実証実験」
※5総務省ホームページ「事例」
※6カルビーの環境について | カルビー株式会社 採用サイト 2020

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