働き方改革が進む昨今、職場をシェアしてそれぞれが作業をおこなう「コワーキングスペース」が増えています。JR秋葉原駅から徒歩2分の富士ビルの3フロアを占拠する、DMM.make AKIBAもそのひとつ。ここにはリーンスタートアップによって新たなプロダクトを生み出そうとする、ハードエンジニアたちが集結しています。
今回は、そんな技術者たちの聖地であるこの場所に潜入。その成り立ちから利用状況、今後の展望までをDMM.make AKIBAのエヴァンジェリストである岡島康憲氏(以下、岡島氏)に伺いました。
3Dプリンタサービスから始まりOpen3周年。DMM.make AKIBAとは
DMM.makeとは、動画配信やビデオ通販で有名な株式会社DMM.comが運営する、モノづくりのためのプラットフォームです。3Dデータの代行サービスやクリエイター同士のフリーマーケット、各種ワークショップやクリエイター向けのメディア運営までおこなう中で、「場」に着目したのがDMM.make AKIBA。フロアはコミュニティスペースとなっている「Base」と各種最新機材が取り揃えられた「Studio」に分割。“「モノ」を作りたい人が必要とする全てを”という指針通り、ハードウェアエンジニア同士が交流し、実際にプロトタイピングし、そしてビジネスとして世に出せる機会を提供しています。
そんな「モノづくりエンジニアのメッカ」ともいえるDMM.make AKIBAが生まれたきっかけは、もともとDMM.makeでおこなっていた3Dプリントサービスでした。立ち上げ当時を岡島氏はこう振り返ります。
「3Dプリントサービスを提供し、多くのハードウェアスタートアップの方と話す中で、彼ら・彼女らが集まる場を作ることで、将来の大企業や有力なプロダクトが生まれるのでは、という期待が持てたのです」(岡島氏)
ハードウェアスタートアップのさらなる加速を求め、総額10億円もの巨額を投資してDMM.make AKIBAは2014年11月11日にオープン。ハードウェアスタートアップが出会い、作り、羽ばたくための場として機能してきたのです。
まさに、無駄のないリーンスタートアップに最適なコワーキングスペースと言えるでしょう。
プロトタイピングに適した設備と機材
総額5億円もの機材が揃っているDMM.make AKIBA。Studioでは毎日、エンジニアたちが最新の設備を利用してプロトタイピングを行っています。無駄な設備や機材を持たずに、新たなプロダクトを生み出したいリーンスタートアップを実践する企業にとって、この場はまさにうってつけ。また、物質的だけでなく、もっと感覚的なものを求めているスタートアップも多いと岡島氏は語ります。
「しのぎを削るライバルや革新的なプロダクトを生み出しているプレーヤーと近くで仕事をして、刺激を受けようとする方もいらっしゃいます。そうやって、自らを追い詰めようとされているのですね」(岡島氏)
そんな刺激の中、生まれたプロダクトのひとつがスマートシューズ「Orphe(オルフェ)」。両足合わせて約100ものLEDが搭載されたこのシューズは、暗闇の中で七色に発光し使用者の動きを追います。グラデーション&アニメーションで自由自在なダンスパフォーマンスを可能にしたほか、アプリケーションと対応して音楽やVR/ARの世界への可能性も見せています。
さらに、DMM.make AKIBAを利用するのは、リーンスタートアップを実践する企業だけではありません。自社でオフィスを持っている中小企業や大企業の関係者も積極的に足を運んでいるとのこと。その目的は大きく3つに分けられます。
■開放感のあるフリースペースで作業することでイノベーションの追い風とする。
■自社内で部署をまたいだコミュニティスペースを作るための視察・体験
■ハードウェアスタートアップのエンジニアとコミュニケーションで生まれるシナジーへの期待
「エンジニアの方たちは、仕様の話だけでなく軽いディスカッションもよくされていますね。また、自社の情報を伝えるためにイベントを開催されたり、実際に大企業とスタートアップの間でシナジーが生まれたこともあります」(岡島氏)
センサーデバイスを活用したスタートアップであるprimesap株式会社は、アスリートの怪我を未然に防ぐため、人間の動きをセンシングして負担がかかるパターンを分析する「Live Trac」を開発。そのプロトタイピングの過程では、2015年にDMM.make AKIBAとインテル社、そしてIoTファンドであるABBALabが共催するアクセラレータープログラムでの、インテル社からの技術やプロモーションの面でのサポートがありました。
「他にも、シャープさんがハードウェアスタートアップに向けてモノづくりの工程研修を行うなど、技術面・プロモーション面だけでなく、基本的な素養の部分でもコラボ体制が構築されつつありますね」(岡島氏)
単なる開発現場ではなく、新たなイノベーションが生まれる場所。それがコワーキングスペース・DMM.make AKIBAの強みなのです。
スタートアップをサポートするOPEN CHALLENGE
DMM.make AKIBAに限らず、モノづくりが次々に生まれ出ているDMM.make。モノづくり全体の現状と今後の展望について岡島氏に聞きました。
「いま、高速で試作するための技術がどんどん開発されています。例えば3Dプリンタは外装を試作するには非常に便利です。さらに、何も物理空間でプロトタイピングすることにこだわらなくとも、コンピュータ上で空気抵抗や強度をシミュレーションして分析する技術も発達しています」(岡島氏)
デジタルツール上での試作はヨーロッパを中心にどんどん実用化されており、日本が差をつけられている点だといいます。日本が古くから磨いて来た、実際に物を作って試して改善する「カイゼン」のマインドも、作る製品や産業分野によってはマッチしないケースも出てきているのです。
「大規模な衝突実験などが必要な自動車開発に代表される、時間・お金・人手のリソースは限られる分野はデジタル空間上でのプロトタイピングが重要となるでしょう。今、さまざまなラピッドプロトタイピング(高速に試作)の手法が生まれる中で、物理空間とデジタル空間での試作の使い分けがカギとなってくるように思います」(岡島氏)
さらにDMM.make AKIBAについての今後の展望を聞くと、「スタートアップへの積極的な働きかけ」と「モノづくりナレッジのシェア」という回答が返って来ました。
「今までは場所を提供するだけだったのですが、大きなことを考えているエンジニアをもっと世に出すために、僕らのほうから『一発ぶち上げませんか』と歩み寄っていくことが大切です。その施策の一環として、現在OPEN CHALLENGEをおこなっています」(岡島氏)
OPEN CHALLENGEとは、VAIO株式会社や富士通クラウドテクノロジー株式会社などテクノロジーに精通した会社が、3ヶ月限定でスタートアップの試作のブラッシュアップを共におこなう試み。スタートアップにとってのみならず、サポーター企業にとっても自社にないアイデアに触れたり、自社のアセットを生かしたコラボレーションのきっかけになったりとメリットがある試みです。
このような取り組みに加えて、DMM.makeがこれまでに蓄えて来た“モノづくりナレッジ”のシェアも目標のひとつだと岡島さんは語ります。
「製作初期でのスモールチームが突き当たるのは、製品づくり、チームビルディング、資金調達の大きく3つです。それらの問題に対して“正解”のようなものが見え始めていますので、そういった情報を発信して全体のレベルの底上げを図りたいですね」(岡島氏)
また岡島氏は、「まずやるべきこと」を学んでからDMM.make AKIBAを訪れるほうが、道筋も見えないうちに来るより何倍も成果がある、とアドバイスしてくれました。DMM.make AKIBAは、訪れるスタートアップだけでなく、モノづくり業界全体のレベルアップを見据えて、今後も活動を続けていくでしょう。
「働き方改革」は、本質的な仕事をするための手段
最後に岡島さんは、働き方改革は手段であり、目的は価値のある仕事をしてユーザーも自分自身も幸せになること、だと話してくれました。
「大きい会社では、プロダクトのクオリティ向上に直接は繋がらない稟議や調整などの業務による工数が増えがちです。しかし本来は、プロダクトの開発や品質向上という“本質的”な仕事にリソースを充てるほうが、組織だけでなく個人にとっても最終的な取れ高は大きくなるでしょう。ここでは誰もがプロダクトだけに向かい合っています。無駄な会議や調整をしている人は、ひとりもいません」(岡島氏)
大企業にしても、スタートアップにしても、人的資源は限られています。そのため、日々の雑務のアウトソーシングや柔軟な働き方を通じて不要なコストを削減することが求められるのです。そうして一人ひとりが「本質的な仕事」に全力を注げるようになることこそが、働き方改革のひとつのゴールかもしれません。
充実した機材が揃う作業スペース「Studio」の中をご紹介!
では最後に、DMM.make AKIBAの作業スペースであるStudioの設備を写真でご紹介します。
Studioは「PCBA」「Sewing」など用途に応じて15のフロアに分かれ、高速なプロトタイピングを可能とする最新設備が揃っています。
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(文章改修 2018年3月12日)