生産性

生産性を圧倒的に高める方法とは?働き方改革コンサルタント古川大輔氏に聞いた

生産性を圧倒的に高める方法とは?働き方改革コンサルタント古川大輔氏に聞いた

少子高齢化が進み、労働人口が減少してく日本。限られたリソースで競争力を維持していくためには、生産性の向上が欠かせません。昨今では国の呼びかけもあり、働き方改革を推進する企業も増えています。しかし、「何にどう取り組めばいいかわからない」という経営者や人事担当の方も多いのではないでしょうか。そこで今回、業務プロセス改善の専門家である古川大輔氏に企業が生産性を高める方法について教えていただきました。

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労働生産性向上の意義

政府は働き方改革実行計画の中で、働き方改革と経済構造改革により労働生産性を高め、その成果を労働者に分配して賃金を上昇させ、需要拡大を通じて経済成長を図るという方針を打ち立てています。しかしなぜ、労働生産性を高める必要があるのでしょうか。労働生産性の実現方法へと話を進める前に、まずはその意義を考えてみたいと思います。

18世紀から19世紀にかけての産業革命の時代、その中心地であるイギリスでは、経済発展、技術革新と知識の普及が進む一方で、格差と貧困、財政難という闇を抱えていました。仕事を見つけられる者と見つけられない者に二分され、経済発展の恩恵は上流層に限定されていました。そうした中、経済が豊かになり、人々の暮らしも豊かになる方法がないか、追及した学者がいます。アダム・スミスです。アダム・スミスは労働生産性を上げ、生産的労働の割合を上げることが国民を豊かにする一般原理であると主張しました。

彼は国富論の中で、猟師や漁夫からなる未開民族は、働くことのできる個人すべてが労働に従事し、誰もがよく働くが、極度に貧しいため、家族、種族を守ろうとしても守れないことがあるとしました。その上で、「文明化し反映している民族の間では、多数の人々は全然労働しないのに、働く人びとの大部分よりも十倍、しばしば百倍もの労働の生産物を消費する。しかし、その社会の労働全体の生産物はきわめて多いので、すべての人が十分な供給を受けるし、最低最貧の労働者ですら、倹約かつ勤勉であれば、未開人が獲得しうるよりも大きな割合の生活必需品や便益品を享受することができる。」と記しています(※1)。

労働生産性が高まって経済が豊かになるということは、労働者1人あたりの所得が増えて生活が豊かになることです。同時に、年齢や病気等の理由で働けない人にも富を分かち合えるということです。労働生産性を高めることは、自分を豊かにするのと同時に、周囲の人の生活も豊かにすることができるのです。

現代においても、労働生産性が高まれば企業が従業員に支払う給料が増え、従業員の家族の生活は豊かになります。また、企業の利益も増え、国全体も税収が増えます。政府は安定財源を確保して社会保障を充実させ、私たちの日々の生活も豊かになります。

生産性を圧倒的に高める方法とは?働き方改革コンサルタント古川大輔氏に聞いた_01

労働生産性向上の必要性

では、現在の日本の労働生産性と、今後の見込みはどのようになっているのでしょうか。
労働生産性の国際比較資料によると、2015年時点の日本の就業者1人当たりの労働生産性はOECD加盟35カ国中22位でした。日本は世界3位のGDPを誇る経済大国ですが、労働生産性という点では他国に遅れをとっています(※2)。

また、日本は今後労働人口が減少していくと見込まれています。2017年の「将来推計人口」をもとに算出すると、2016年から2065年までに労働力人口が4割減少する見通しです。1人あたりの労働生産性が変わらない場合、2065年には日本全体のGDPは4割減少します。そうなれば企業収益も下がり、国の税収も下がります。政府は今より社会保障を切り詰めることになり、富める者と貧しい者の格差は広がります。

日本のように就業者数の大幅な増加が期待できず、中長期的に就業率の低下が見込まれて国では、経済的な豊かさを持続するために、労働生産性を上げる必要があります。今の現役世代が労働生産性を高めることは、労働力減少下においても継続的な成長を実現する明るい未来を築き、次の世代に引き継ぐことにもなります。

労働生産性が上がらない理由

労働生産性の海外比較結果から、海外には日本より短い労働時間で、日本と同等か、それ以上の成果を生み出している企業が多く存在していると読み取れます。これは見方を変えれば、日本には労働生産性向上の余地が十分にあり、成長する力があるとも言えます。それでは、日本の労働生産性が低い状態を続けている理由はどこにあるのでしょうか。また、生産性を高めるには具体的に何をすればよいのでしょうか。ここでは産業構造といったマクロな話ではなく、企業活動に焦点を当てて考えていきたいと思います。

生産性向上の取り組みとしてはこれまで、様々な効率化手法が編み出され、企業も導入を進めてきました。そうした状況の下、さらなる労働生産性向上を求められた経営者、従業員それぞれから、次のような声が聞こえてきます。

経営者

✓ 1人あたりの売上を高めるには、営業員の生産活動に充てる時間を増やす必要がある
✓ 業績が伸びても管理コストを一定に維持し、利益を捻出する必要がある
✓ 売上向上・経費削減のためにシステム導入、業務手順の見直し、社内シェアードサービスセンターへの一括集約、外部企業へのアウトソーシングなど、既存の手段は既に検討し、効果が見込めるものは実施している

現場社員

✓ 限界まで業務量を担っているため、業務量が増えるなら人を増やしてほしい
✓ 本業を担当するのに忙しく、生産性向上について考え推進する時間は確保できない
✓ 労働量を増やしても給料が上がるとは限らない。会社の利益のために、身を粉にして働きたくない

共通して言えるのは、経営者も現場も努力はしてきているということです。しかし、経営者が進める施策はシステム費用、外注費、担当者の人件費など高額な先行投資が必要になるため、実施できる企業は業績好調で、体力のある企業に絞られます。現場社員の日々の改善活動に関しては、経営者から見て業績向上、経費削減に繋がっているのか把握しにくく、目に見えて残業時間が短縮された、成果が増えたという事実がない限り、給料に転嫁できるものではありません。

つまり、企業が既存の手段に取り組み尽くしているということ、システム投資余力の小さい企業に適した技術がないということ、現場社員に新しいことに取り組む時間がないということが労働生産性改善に向けた動きを阻害していると考えています。

そうした企業にいま私がお薦めしている生産性向上手法にRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)というものがあります。RPAは比較的に少額の投資で、大きな効果を見込める画期的な手法です。

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飛躍的に労働生産性を高めるRPAとは

RPAとは、人間がPC上で実行していた操作を専用ソフトウェアに記録し、登録した操作を複数組み合わせることで、PC操作を自動化する仕組みのことを言います。工場にある産業用ロボットが物理的な動作を代行するのに対し、RPAはマウス操作やキーボード入力など、PC上のあらゆる操作を代行します。

Webブラウザ上の検索作業、ExcelやWordの編集、メール自動送信、社内システム等の入力業務等を自動操作することが可能です。また、人間が繰り返しデータの転記作業をしていた作業も、RPAツールを使えば再生ボタン1つ押すだけで、あとは自動でデータ転記作業が実行されます。人間が担ってきた繰り返し作業は、今後RPAによりそのほとんどが自働化していくと考えられます。

RPAもシステム開発も、どちらも人間が繰り返し行う行動を自働化するという点において、使用する目的は同じですが、システム開発が開発言語を理解したエンジニアが開発するのに対し、RPAはプログラミング知識が不要で学習時間が短く、操作が簡単なためコードを書けない業務担当者でも利用できます。業務担当者自身が必要な時に自ら開発することができる点が画期的です。エンジニアに依頼する場合の説明の手間や、短期間で開発できる手軽さがシステム開発と大きく異なります。

また、注従来のシステム開発と比較して安価に導入できるのも大きな違いです。システム開発が1機能の開発で数百万円単位かかるのに対し、RPAツールは年間利用料(安価なものでは50~60万)で済みます。制作数に上限規制がなく料金も一律のサービスが多数あり、複数の業務を自動化することが可能です。

それでいて、次のような導入成果を迅速に出すことができます。

  • 人間の作業時間削減による人件費の抑制
  • 人為的ミスをなくすことによる作業結果の正確性向上
  • 業務スキルが属人化することの回避

RPAを活用した生産性向上の流れ

次に、現場でどのように業務自働化が進み、労働生産性が高まっていくのか、という点に触れておきたいと思います。

私が専門にしているのはビジネスプロセスマネジメントです。新規事業の業務フロー構築、生産性向上のための既存業務手順の改革をしてきました。その領域にRPAやAIを使った自動化の流れが生じていることから、専門性を磨くために技術を取り入れ、そして現在は、RPAツールを購入した企業の社内業務自動化プロジェクトを推進しています。

RPA導入は自働化対象の業務を複数リストアップする「業務一覧化」の後、対象となる1~2業務を選定する「診断」、トライアルで業務を自働化して導入先部門に効果を体感していただく「POC(プルーフオブコンセプト)」、全社に計画を立てて導入する「本格導入」と進めるのが一般的です。

企業は診断、POC、本格導入初期において外部のコンサルティング会社、RPAツールのプロバイダーに委託して進め方を確認し、その後社内で推進部門を立ち上げて自社で推進したいという要望をもっています。そうした企業に対し、自働化の対象となる業務の洗い出し、導入計画立案と初期導入をサポートするのが私の役割です。

RPAは手軽に作れるため、現場部署に評価され、現場要望により導入されています。Microsoft Officeソフトのような便利ツールとしてRPAを用い、システム投資の対象から漏れた小型の業務を自動化する際に役立っています。ただし、現場の把握していないところで基幹システムにアクセスするRPAツールが次々と作成されることは、基幹システムを管理するIT部署からすると脅威です。

その他、RPAツールを使用して自働化した箇所が機能しなくなった事態を考慮せず、担当者任せで自働化を進めることにはリスク管理および業務運営の観点から危険が伴います。こうした点を踏まえ、IT部門を中心としたRPA専門チームの設置し、IT部門と連携してRPAに関する利用方針を決定しています。現場担当者が手軽に業務を自働化できる利便性を損なわず、リスクも管理していくことが、自働化を推進し、効果を最大化する上でポイントになります。

もう1つ成果を出すために私が大切だと考えているのは、効率化の対象業務となった部署の管理者、および業務を担当している社員が積極的に関わってもらえるような目的を経営者や管理者が設定することです。現場にとって、「労働生産性を上げましょう」という言葉は、自分ごとになりにくいものです。具体的に何をすべきか、それをして自分に何か良いことがあるのか、明確に見えない限りは本気になれません。努力して業務自働化を進めた後、「組織の内の誰か1人は余剰になるので、他部署に異動してもらいます」、ということではさらに努力しないでしょう。業務を効率化して、仲間を減らすことに情熱を燃やす人はいません。事前に知らせず後から人員削減した場合は、経営者および管理者は社員の信頼を失うでしょう。

一方で、「残業時間をなくして大切な人と過ごす時間を増やしてほしい」、「残業時間をなくしても残業している時と同じ成果量を保てば、給料を補てんします」、「そのために必要な削減時間を計算し、業務効率化を進め、残業時間を減らしましょう」、ということであれば、社員は喜んで業務効率化を進めることでしょう。

業務自働化が進み、作業が効率化された結果、労働生産性が向上するかは、導入時の目的によるところが大きいと言えます。労働生産性の定義は「労働による成果÷労働投入量」です。RPA ツールが人間の仕事を代行するようになると、その分野に従事していた人が今まで行っていた作業時間は10分の1程度になり、1日の作業時間は減ります。しかし、それだけでは作業効率は上がっているだけで、成果は上がっていないので、労働生産性は変わっていません。むしろ、ツール利用時に支払った投下コスト分が負担として増えているだけです。

その状況で作業者が時間を持て余し、作業速度が落ち、今までと同じ成果を出すだけであれば、経営者は投下コストを回収するため、人員数削減により、労働生産性を向上するでしょう。就労者が同じ時間で生み出す成果量を増やすため、新しいことに取り組む時間を生み出すといことであれば経営者は成果量を求めますし、残業時間などの労働投入量を減らしつつも成果を落とさないということであれば、残業コスト削減と成果量維持が求められます。望むことは何なのか、私が担当するプロジェクトでは、管理者や作業者に、目的をよく考えてもらうようにしています。そして実際、その目的通りの成果が生まれることになります。

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業務自働化への想い

最後に、RPAやAIが実現する業務の自動化と、人間との共存について触れて終わりたいと思います。

私は最初にRPAの話を聞いた瞬間、人間で埋め尽くされているオフィスフロアを見回し、次に同じフロアにロボットがいる映像を思い浮かべました。産業革命前の製造業も今のオフィスのように人がたくさん働いていたはずです。しかし、今では機械が主で生産を担っています。同じことがホワイトカラー領域で起こるのだと感じました。と同時に、効率を重視したロボットと人間の分業的な業務プロセスが構築され、人から働く楽しさが失われる危険性があるとも感じました。

私には生産性向上施策が労働者にとっても意味のあるものにしたいという想いがあります。社員が働くことに楽しみを見出し、幸せだと感じられるようにするために、業務自働化を活用したいという気持ちがあります。そのために大切にしているのは、削減した時間を何に使うか、現場社員1人1人に考えてもらうことです。RPA導入の対象となった部署の社員には、「繰り返し作業や単純作業から解放されたら何をしますか」と投げかけるようにしています。何も考えずに明日も今日と同じ日が続くとのんびりしていれば、自分の立場を失う危険性があります。現場社員は、自働化後の自分の在り方をセットで検討していく必要があります。

RPA により代行される業務の担当者は、その業務を知り尽くしているので、RPA の構築やメンテナンスをする仕事に適任です。RPA は、プログラミング能力がなくても構築できるため、本人にその気があれば学習して新たな業務を引き受けることができます。失われていく仕事がある一方で、新たに生じる仕事もあります。そうした仕事に一番早く触れるのは今その仕事を担当している方です。これをチャンスと捉えることができれば次の世代で必要とされる人材になり、仕事も続けられることでしょう。そうした良い流れを生み出し、RPAを肯定的に捉える方が増えて自動化の流れが進むことで、企業の労働生産性が向上していくのだと考えています。

◆出典
※1
『アダム・スミス—「道徳感情論」と「国富論」の世界』(中公新書)堂目卓生(著)
※2
公益財団法人日本生産性本部 「労働生産性の国際比較 2016年版」 
http://www.jpc-net.jp/intl_comparison/intl_comparison_2016R2.pdf

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