日本では今、フリーランスとして働く人やフリーランスをうまく活用する企業が増えています。一方で、「フリーランスに発注できるような仕事がない」「信用力のないフリーランスとは取引できない」など、検討の俎上にのぼらない企業もまだまだ多いようです。
とはいえ、これから日本の労働力が減っていくことを考えると、フリーランスをうまく活用する力は企業にとって重要になるはず。今回はその理由と、企業のフリーランス活用のポイント、先行事例をご紹介します。
フリーランス活用企業は効果を実感している
ランサーズの調査によると、企業に勤めながら副業・兼業で、という人も含む日本のフリーランス人口は2018年2月時点で約1,119万人とのこと。これは労働人口の17%を占め、2015年の調査時の913万人から22.6%の伸び率です(※1)。
背景には、PCとネットがあればできる仕事の増加、個人で利用できるさまざまな仲介サービスの存在、政府の副業推進の動きなど様々な要因があり、先行する欧米の動きなどを見ても、日本でフリーランス増加の流れは続いていくでしょう。
そんな中、フリーランスに仕事を発注する企業が出てきています。経産省が公表した調査結果によれば、フリーランス人材を「活用中」と回答した企業は18.9%とまだ少ないものの、活用中企業の41.0%が「活用をさらに増やしていく予定」で、その9割以上は「期待した効果、または期待した以上の効果が得られた」を理由として挙げています(※2)。
なお、経済産業省が「企業が活用しているフリーランス等の外部人材の分野」について調査した結果、「各種コンサルタント」「IT・情報システム」「クリエイティブ・広告関連」「セミナー講師」など、専門性の高い業務が上位に挙がっています。
一方で、47.6%の企業は「今後の活用も検討していない」とのこと。すでにフリーランスを活用し、今後さらに活用の量や領域を広げていく企業と、手を出さない企業とで、差が開いていく可能性があります。
企業がフリーランスを活用すべき理由
企業がフリーランスを活用した方が良いのはなぜなのか? その理由は、以下のような環境変化にあります。
労働人口の減少
少子高齢化により、人手不足に悩む企業は今後ますます増えていくでしょう。従来のように正社員だけで必要な人材を賄う「自前主義」を貫くのは難しく、特定の業務を得意とするフリーランスに外注するなど、社外の人材を巻き込んで業務を回していくスタイルが一般的になっていくと予想されます。
働き方改革・休み方改革
働き方改革関連法の成立により、2019年からは残業時間の上限や有給休暇の最低取得日数の規制が始まり、違反者には罰則が課されるようになります。仕事が終わらなければ残業や休日出勤でやれば良い、というわけにはいかなくなるのです。社員がやるべき業務を絞り込み、それ以外は外注するという流れが加速するでしょう。後に挙げるようなメリットを鑑み、企業ではなくフリーランスに外注することも有力な選択肢になります。
VUCA/プロジェクト型組織の時代
今、企業が直面しているビジネス環境を表すキーワードが、Volatility(激動)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(不透明性)の頭文字をつなげた「VUCA」です。
「過去の成功パターンは通用しない」「激しく変化する状況を見極めながら常に新しいことに挑戦しなければいけない」そんな状況を社員の限られたスキルのみで切り抜けていくことは不可能です。そこで、様々なテーマを掲げ、そのために必要な人材を集めたプロジェクトを結成して仕事を進めていく「プロジェクト型組織」が増えていくはず。プロジェクトメンバーとして、異なる経験やスキルをもったフリーランスが召集されるようになるでしょう。
フリーランス活用企業が感じているメリット
先の経産省のデータ(※2)によれば、フリーランスを活用している企業が感じている効果として最も多いのが、「必要な技術・ノウハウや人材の補完」(43.6%)、それに、「従業員の業務量・業務負担の軽減」(38.5%)でした。 「売上高の増加」 (28.2%)、「必要な人材、体制を自前で確保するコストの削減」 (25.6%)が続いています。
このような調査結果や企業の事例等から、以下のようなメリットが考えられます。
メリット1:社内にないもの、社員にはできないことを補完
・自社にはないスキルやノウハウ
分業が進んだ大企業では事業の全体像を見る視点や新規事業をゼロから立ち上げる経験、逆に中小企業や新興企業では経営管理や人材採用、情報システムの導入ノウハウなど、どんな企業にも自社の社員だけでは足りないものがあります。足りない部分を埋めてくれるパートナーとして、フリーランス人材の活躍が期待できます。
・新しい発想
全く違う環境で仕事をしてきたフリーランスを迎え入れることにより、同じ会社のメンバー同士で議論しても生まれないような発想が得られることがあります。
・あえて忖度しない、空気を読まない意見
人事評価や出世を気にする必要がないフリーランスからは、専門的または客観的な視点から忌憚のない意見を期待できます。上司や同僚を説得したいときにあえて社外の人から言ってもらうことで、カドが立たず、説得力が増すという効果もあるでしょう。
メリット2:社員採用や企業間取引のデメリットを補完
・小さな案件も委託できる
自社にないスキルやノウハウを補完しようとしたとき、「新たに社員を雇うほどの業務量ではない」「雇いたくても適任者がすぐに見つからない」という場合があります。専門業者に委託するという選択肢もありますが、利益の少ない小さな案件は敬遠されることもあります。フリーランスは複数社から小さな案件を請け負うというタイプの人も多く、適任者が見つかりやすいでしょう。
・間接費や手続きが少なく低コスト、スピーディ
企業が相手だと、サービスの料金には営業や案件管理にかかるさまざまな間接費が含まれます。また、事務処理や承認手続きなどでサービスの提供までに時間がかかることもあります。フリーランスの場合も営業や管理の労力はかかっているものの、シンプルな体制で固定費も少ない分、コストパフォーマンスが良くスピーディに対応できる傾向があります。
・指名で依頼できる
企業に委託する場合、先方の都合で担当者の異動があったり、こちらが「ぜひあの人に」と希望してもそれが通らなかったりします。フリーランスの場合は人物本位で仕事を依頼することができ、取引関係が続いた結果、発注側企業の担当者以上にその業務に詳しいフリーランスがいるというケースも珍しくありません。
・ビジョンやゴールを共有できる
企業がサービスを提供する場合は、どうしてもビジネスライクな関係になりがちですが、フリーランスは報酬などの条件だけでなく、仕事の面白さや発注者のビジョンやゴールにどれだけ共感できるか、といったやりがいをベースに仕事を選ぶ人も多くいます。プロジェクトのメンバーや業務のパートナーとして社員と一緒に働いてもらうようなケースでは、そのような「思い」が成果につながることも多いでしょう。
メリット3:社内のノウハウ蓄積、人材育成
フリーランスの存在が刺激となって、社内の人材育成が促されることもあります。経験の浅い社員にとっては、フリーランスからノウハウだけでなく、異なる文化やプロフェッショナリズムを学ぶ機会にもなるでしょう。
マネージャー層にとっては、多様な人材を巻き込んで事業を進めていくプロジェクト型組織のマネジメント力を向上させるチャンスです。それは、リモートワークや短時間勤務の部下をマネジメントする際にも、役立つスキルになるはずです。
企業がフリーランスに仕事を依頼するときのポイント
実際に企業がフリーランスに仕事を依頼する際のポイントを紹介します。
ポイント1:リスクに備える
・まずは小さな案件から試してみる
フリーランス人材は玉石混交です。かつて企業に所属して素晴らしい業績を上げた人でも、スケジュール管理が苦手でフリーランスとして自律的に仕事を進めていくのには向いていない、というタイプもいます。仕事内容や発注者との相性もありますので、期待した成果が得られそうかどうか、まずは小さな案件で試してみて、問題ないようであれば発注内容を増やしたり期間を伸ばしたりするのが良いでしょう。
・代わりはいないことを認識しておく
企業のサービスであれば、担当者に何かあっても組織でカバーしますが、フリーランスの場合は本人やその近親者に病気や怪我などのアクシデントがあると、どうしても事前に約束した通りの成果を収められない可能性があります。そこはリスクとして見込んで、アクシデントがあったときには納期を伸ばしたり別の人に頼んだり、といった対応が取れるようにしておく必要があります。
・情報漏洩やセキュリティ対策
社外の人に自社の業務の一部をやってもらう場合、使用する機器や情報のアクセス権限等を整備しておく必要があります。また、契約書上の取り決めやガイドラインの提示、研修などで情報セキュリティに対する認識を高めてもらう、といった対策もしておきましょう。
・金銭的な補償の範囲や手段を考えておく
業務の遂行に際してトラブルがあったとき、フリーランスに対して企業と同じように損害賠償を求めるのは現実的ではないケースがあります。リスクの程度を見極めて発注内容を決めましょう。どうしても必要な場合には、フリーランス向けの損害賠償補償付きの保険への加入を検討してもらう、といった方法もあります。
・事前にきちんと契約書を交わす
「こんなはずではなかった」というトラブルや、相手に不信感が生じるのを避けるためにも、依頼内容や発注条件、期間、報酬などを明記した契約書をあらかじめ交わすようにしましょう。特に報酬は、稼働時間に対してなのか成果に対してなのかといった支払いの対象と、時間単位なら時間の測り方や報告の仕方、成果ベースなら納品物の検収方法などを明確にしておくことが大事です。
ポイント2:フリーランスの力を最大限引き出す
・依頼する業務と求める成果を明確にする
せっかく専門スキルを持ったフリーランスに仕事を頼んでも、発注の仕方や関わり方によっては力を発揮してもらえないこともあります。ポイントは、依頼する業務内容をきちんと定義するとともに、期待する成果を伝えることです。
会社の文化をよく知っていて最新の情報も把握しやすい社員と異なり、フリーランス人材はやってほしい業務内容だけを伝えても、「何のためにそれが必要なのか」「どういった方向を目指せば良いのか」がわかりません。逆に、その業務をやってもらうことでどんな結果になることをセットで伝えれば、フリーランスの側からより良い方法を提案してもらえることもあります。
・業務遂行中のコミュニケーションと委任のバランス
業務のプロセスにどれだけ関与すべきかは、個人によって異なります。まだ取引を始めて日が浅いうちは頻繁にチェックをし、方向性が食い違っていないかどうか確認した方が良いでしょう。しかし、細かく口を出されない方がやりやすいというフリーランスも多いものです。そのような場合、方向性やゴールが共有できたら途中段階はなるべく口を出さずに任せるのが良いでしょう。いずれにせよ、「どの段階、タイミングでチェックをする」といったことをあらかじめ合意しておくとやりとりがスムーズになります。
・フィードバックを行う
相手はプロなのだから、求める成果を上げるのが当然だと、フリーランスの仕事に対して特にフィードバックを行わない企業も多いでしょう。フリーランスの側もそういうものだと認識はしていますが、もし継続的に取引を続けていくなら、良い面も悪い面も率直にフィードバックすることをお勧めします。良いフィードバックはフリーランスの成長やコミットメントを促し、その後さらに良い結果を出してくれる可能性が高まります。
・情報共有を忘れずに
特にプロジェクトのメンバーや、社員のパートナー的な存在としてフリーランスに参加してもらう場合、社員との情報格差が仕事のやりにくさにつながりがちです。社内の情報がなるべく多く伝わるよう、例えばプロジェクト用のチャットやSNSを用意し、なるべくその上でコミュニケーションする、議事録等をきちんと残す、といった工夫をしましょう。
企業によるフリーランス活用の事例
すでにフリーランスを活用している企業は、どんな業務を委託し、どのような効果を得ているのでしょうか? ここでは、経済産業省が公開した「企業におけるフリーランス活用事例集」(※3)に掲載されている企業事例の概要と、特に参考にしていただきたい取り組みをピックアップして紹介します。
事例1:株式会社ベネフィット・ワン
企業の福利厚生代行を行うベネフィット・ワンは、労働市場や雇用のあり方が近年大きく変化しているという経営トップの認識の下、会社の強みを活かした人材確保を行なうための方策としてフリーランスなどの外部人材活用をスタートさせています。将来的には、業務の7割程度を外部の個人に委託することを視野に入れているそうです。
トップダウンで全社的な業務の見直しを断行したというドラスティックな動きと共に注目したいのが、業務を委託するフリーランス人材の見つけ方です。
リスク回避とノウハウ蓄積のため、現在はOB/OGや社員の親族・知人などが中心で、 大々的な求人は行なわず、社員や稼働中のフリーランスのクチコミで人材を集めているそうです。フリーランスの適任者を見つける方法は、社員の採用やパート・アルバイトの募集とは大きく異なるものです。クラウドソーシングのプラットフォームや会社の公式SNS等で広く募集する他、ベネフィット・ワンのように社員のネットワークを活用するのは良い方法でしょう。
事例2:大手広告業A社
広告業界や出版業界などのクリエイティブ系の職種においては、企業で経験を積んだ後に独立する人も多く、以前からフリーランスの活用が盛んです。
この会社では、必要としている広告業界特有のスキルのニーズに答えられる外注先企業がないため、OB等の個人に依頼をするケースも増えてきているとのことです。
企業のOB・OGというのはその企業の仕事の進め方や文化をよく知っているため、背景や手順の説明に時間がかからず、成果イメージのすり合わせもしやすいものです。クリエイティブ業界に限らず、OB・OGにフリーランスとして仕事をしてもらうことの利点は非常に大きいのではないでしょうか。
事例3:パイオニア株式会社
新規事業の開発において不足している領域に、フリーランスの力を活用しているのがパイオニアの例です。具体的には、女性をターゲットとした新商品の開発を進める中で、社内にはいなかったデザイン思考等の経験がある女性フリーランスを起用したそうです。
注目すべきは、まずは1日限りの業務委託契約を締結し、プロジェクトメンバーとフリーランスとで事前合宿をしたということです。合宿での議論を通じ、会社の持つ課題と、フリーランスがどんな貢献ができそうかについて、認識のすり合せができたそうです。
プロジェクト型の仕事においては、プロジェクトのメンバーが社員と社外人材という立場を超えて信頼や協力関係を作ることが重要になります。合宿というのは、そのような関係を醸成するのに良い手段でしょう。
まずは小さな案件から、フリーランスと仕事をする経験を
企業がフリーランスを活用することの可能性や、様々な事例をお伝えしました。これが会社の課題を解決するひとつの方法になりそうだと感じたら、ぜひリスクの少ない小さな案件から試してみてください。そこから徐々に活用の量や幅を広げ、フリーランスと仕事をする経験知を蓄積していかれることをお勧めします。
<参考>
※1 2018年度版_フリーランス実態調査(ランサーズ株式会社)
※2 「雇用関係によらない働き方」に関する研究会 報告書(経済産業省)
※3 企業におけるフリーランス 活用事例集(経済産業省)