1997 年から株式会社資⽣堂で男⼥共同参画、⼥性管理職登⽤と男⼥とも仕事と⽣活の両⽴の実現など⼥性活躍を推進してきた⼭極清⼦⽒。現在は、株式会社 wiwiw の社⻑執⾏役員、昭和⼥⼦⼤学客員教授として、⾏政や⺠間の委員会に参画。⼭極⽒は、20年間、⼀貫して全国各地で⼥性活躍・ダイバーシティ経営の実現に向けた取り組み、いち早く「⼥性活躍とダイバーシティ経営こそ企業の競争⼒を⽣み出す」と提唱してきました。働き⽅改⾰が叫ばれるいま、⼭極⽒へのインタビューを2回にわたって、お届けします。
山極清子氏 株式会社wiwiw(ウィウィ)社長執行役員、昭和⼥⼦⼤学客員教授、経営管理学博⼠(⽴教⼤学)。 資⽣堂⻑岡販売会社に⼊社、資⽣堂アメリカ(Shiseido Cosmetics America Ltd, New York)を経て本社に異動。1995年財団法⼈21世紀職業財団に出向し、両⽴⽀援部事業課課⻑に就いたのを機に資⽣堂の⼥性活躍の礎を築く資⽣堂初の⼥性⼈事課⻑に就任。経営改⾰室次⻑、CSR部次⻑・男⼥共同参画推進リーダーなど⼀貫して⼥性活躍、仕事と育児・介護との両⽴⽀援などのワーク・ライフ・バランス推進、働き⽅改⾰に取り組んできた。1,000社のネットワークを財産に企業にとって最も有効なダイバーシティ経営、働き⽅改⾰を提案している。厚⽣労働省労働政策審議会「職業安定分科会」専⾨委員、安倍総理主催「若者・⼥性活躍推進フォーラム」委員、経済産業省「企業活⼒とダイバーシティ推進に関する研究会」委員など歴任。現在、東京都⼈事委員会委員、経済同友会会員など。著書に『⼥性活躍の推進―資⽣堂が実践するダイバーシティ経営と働き⽅改⾰』、NHKクローズアップ現代「⼥性が⽇本を救う?」はじめテレビ出演および講演多数、寄稿も多くある。 |
なぜ、いま働き方改革なのか?
なぜいま働き⽅改⾰が求められているのでしょうか?⻑時間労働による悲惨な事態が続いたことで急に浮上した印象がありますが、従来の働き⽅が機能しなくなって、このままでは企業の競争⼒も企業価値も低下してしまうという危機感を感じているからでしょうか。働き⽅改⾰を進める背景は何でしょう。
「現在、欧⽶に限らずフィリピンや中国など世界の企業で働いている⼥性は男性同様役員や管理職に就いて責任ある仕事をし、育児も男性とともに担っているのです。ところが、⽇本の⼥性管理職⽐率は1割を超えた程度で、上場企業の役員に占める⼥性⽐率に⾄っては3.4%と、先進国では最低です(※1)。
加えて、男⼥共同参画⽩書(平成 28 年度版)によると、⽇本では⼀⼈⽬の⼦どもの出産をきっかけとして、約6割の⼥性が仕事を辞めてしまう現状が未だ解消されていないんです。⼥性たちが専ら家事と育児をしていることには変わりなく、他⽅で、男性たちも⻑時間に及ぶ仕事を続けています。
その結果として、「労働⽣産性の国際⽐較」では⽇本の時間当たり労働⽣産性(2015年)は、OECD加盟35カ国中19位と低位です。
このような背景から働き⽅改⾰を推し進め、“男⼥ともにキャリアと育児、介護の両⽴ができる、いわゆる社員のワーク・ライフ・バランスの実現”と“企業の持続的発展、競争⼒・価値の向上”を⽬指そうとしているのです」(⼭極⽒、以下敬称略)
「働き⽅改⾰の最重要課題は、⻑時間労働の削減ですが、これを達成するにはダイバーシティ・マネジメントも⾞の両輪として推進することです。ダイバーシティには⼥性や⾼齢者、障がい者、外国⼈、最近では LGBT も含まれます。こういった多様な⼈材が能⼒を発揮し、企業のパフォーマンスにつなげるための⼈事・経営戦略がダイバーシティ・マネジメントです。⼥性の活躍は、多様性社会を拓く⼊り⼝であり、試⾦⽯といえる点で、特に重要です。ワーク・ライフ・バランスとダイバーシティ・マネジメントとが同時に推進することで働き⽅改⾰と⼥性活躍とは相乗効果を発揮することになるのです」(⼭極)
介護と育児のダブルケアの時代に突⼊。⼥性を⽀援することが、男性にとってのメリットに
⼈⼝オーナス期に⼊った⽇本は、⽣産労働⼈⼝の減少ばかりでなく、介護や育児にも⼤きな問題を抱え込みます。
「40代の働き盛りの世代の8割が5年以内に介護をする時代になります(※1)。その⼈たちが退職するようになったら、会社が成り⽴たなくなります。育児も同様のことが考えられます。晩婚化により 30〜40代で介護と育児のダブルケアを⾏う⼈が増えてくるからです。
仕事と育児・介護の両⽴を含め、働き⽅改⾰、ダイバーシティ経営の推進は、⼥性のためだけではないのです。⼥性の活躍を後押しすることは、男性の仕事と⽣活にとっても有益なことであり、会社全体の⽣産性の向上をもたらす取り組みと⾔えるんです」(⼭極)
ワークライフバランスとダイバーシティを同時に取り組む。
冒頭の⼭極⽒の発⾔にもありましたが、この 2 つは⾞の両輪の如き関係と⾔えます。ワークライフバランスを整えることで、ワークとライフの負担を男⼥が均等に分担し、⽣産性・効率を上げていく。
しかし、まだ⽇本社会では以前よりその必要性が指摘されながらも、浸透していない現状があります。⼀体どういった障壁が存在するのか。⼭極⽒の発⾔をもとに詳しく⾒ていきます。
⾼度成⻑期は良かった⽇本的雇⽤慣⾏。いまは⼥性活躍・ダイバーシティ経営を阻害している現実
⼥性活躍、ダイバーシティ経営の必要性を感じながらも浸透しない例として、上場企業の⼥性役員⽐率をあげることができます。⽇本は先進国でもっとも低い3.4%(※2)。依然として⼥性活躍の⼟台ができていないと⾔えます。この背景には、⽇本に根ざした雇⽤慣⾏にあると⼭極⽒は指摘します。
「新卒⼀括採⽤、終⾝雇⽤・年功賃⾦のシステムは、⾼度経済成⻑期には有効でした。欧⽶では1年ごとに雇⽤契約がなされる年俸制が主で、仕事の成果や実績によって⽀給されますから、何時間仕事をしたかということは問われません。労働契約が切れると来年どうなるか、という不安もあるため、社員は必死で成果をあげようとします。⼀⽅で⽇本は終⾝雇⽤で年功賃⾦が約束されてことから会社への忠誠⼼は⾼く、作れば売れる時代にあった⾼度成⻑期には⻑く会社にいて働き続けることによって⽬標を達成してきました。また、⼈事評価の軸が成果よりも働く時間に置かれていたために、⻑時間労働をする慣習が沁みついてしまったのです」(⼭極)
⻑時間労働の影響は、職場だけではなく家庭にも顕著です。つまり男性は家庭を顧みることがなくなり、⾃然と家事・育児は⼥性の役割となるのです。⼥性がキャリア形成をしたいと願っても、仕事と家庭の両⽴は難しく、そのうえ評価も成果主義が根ざしていないため、時短勤務ではキャリアアップできないのが実情です。
「均等法施⾏以前は結婚や出産を機に⼥性は退職するのが当たり前のように考えられていました。そのため⼥性は辞めるから、という固定観念があり、企業も⼥性を登⽤の対象にしていませんでした。また、コース別雇⽤管理も⼤きな問題でした。いわゆる総合職と⼀般職でカテゴライズされますが、総合職は圧倒的に男性が多く、⼀般職に括られる事務職は⼥性が多い。⼀般職は、ルーチンワークが主な業務ですからどんなに仕事の量をこなし、できる⼈であっても出世コースからは最初から外れていたのです」(⼭極)
⾼度経済成⻑期に形成された男性=仕事、⼥性=家庭という固定的性別役割分担意識は、市場が細分化し、商品を差別化しないではモノが売れない時代には成り⽴たなくなっています。⼥性活躍・ダイバーシティの必要性を別の視点からも⼭極⽒は強調します。
女性が購入決定権を持つ家庭が7割以上。女性のニーズを把握するには女性社員の活躍が必須
国内外の市場環境が変化しています。商品の成熟化し、少⼦⾼齢化が進む国内では異なる業種・業態の企業がひとつの市場を取り合う「ボーダレス化」現象があらゆる市場で⾒られます。他⽅、経済がグローバル化し、IT 時代の到来とともに世界がマーケットになっています。現在、企業はこれまでにない新たな価値ある商品・サービスを開発しなくては内外の競争に負けてしまいます。⼭極⽒は株式会社資⽣堂(以下、資⽣堂)に在籍していた頃のエピ
ソードをあげながら、⼥性活躍・ダイバーシティの必要性をこのように話します。
「1997 年当時、⼥性社員が8割。お客さまも9割以上が⼥性ですよ。でも、管理職の9割強が男性なんです。おかしいでしょ?化粧品を使ったことない⼈が新商品の決定権を持っているんですよ(笑)。新商品を企画して、実際に肌で試して安全性を確認、使⽤感やオシャレ感をもって販売に当たるのが⼥性社員なのに決定権を持っているのが男性。今から考えると、お客さまにも失礼ですよね」(⼭極)
化粧品を⽇常的に使わない男性が新商品決定に⼤きな権限を持っている――化粧品に限らずともこういった事例は多く存在するでしょう。近年、⽇本の⼀般家庭における家計管理の主体はどの世代においても7割以上が妻(※3)。財布の紐を握るのは⼥性なのです。⼭極⽒は、それを裏付けるデータとして ROA(総資本利益率)と⼥性管理職数の分析を⾏っています。
「ROA と上位 50 社グループの⽅が下位 50 社グループより⼥性管理職が多いという結果が出ました(※4)。これは当然で、⼥性活躍は経営パフォーマンスの向上に必要不可⽋です。管理職が男性⼀⾊で同じ価値観の⼈で占められた場合、たとえ⼥性たちの意⾒が適確であってもマイノリティでは意⾒は通りません。多様化する社会では致命的と⾔えるでしょう」(⼭極)
女性活躍・ダイバーシティ経営を実現するための施策とは?
改めて整理をすると、女性活躍・ダイバーシティ経営が求められる背景には、以下の日本社会の構造があります。
- 市場の成熟化
- ⽣産労働⼈⼝減少
- 少⼦⾼齢化
- 経済のグローバル化
女性の地位向上が実現することで、上記の問題をクリアし、企業の競争力を高められることは先述した通りですが、まだまだ障壁が多いことにも触れました。
では、現実的にはどのような対策をすることで、女性活躍・ダイバーシティ経営の舞台を整えることができるのでしょうか?
後編では、山極氏が資生堂で行った取り組みやコンサルティング経験を紹介しながら、企業が取るべき施策に触れていきます。
出典
※1東大WLB推進・研究PJ 『従業員の介護ニーズに企業はどう対応すべきか:従業員の介護ニーズに関する調査報告書』2012年
※2東洋経済新報社「役員四季報」(2017年版)
※3(株)三菱総合研究所・生活者市場予測システム(MIF)
※4単独ベースROA(総資本利益率)は、金融保険業、欠損企業、女性管理職101名超の企業を除外し、305社をサンプルとした