働き方

⼥性活躍・ダイバーシティ経営が競争⼒を⾼める。元資⽣堂の⼭極清⼦⽒が語る、本当の働き⽅改⾰について(後編)

元資生堂の山極清子氏が女性活躍・ダイバーシティ経営に基づく働き方改革を推進する理由(後編)

株式会社wiwiwの社長執行役員、昭和女子大学客員教授として、日本全国で女性活躍・ダイバーシティ経営の実現に向けた取り組みを行っている山際清子氏のインタビュー後編。
前編では、女性活躍・ダイバーシティ経営がいま求められている背景と実現しない障壁について紹介しました。後編では、山極氏にどのように社内に取り入れていくか?について、スキームと具体策をお聞きしました。

⼥性活躍・ダイバーシティ経営が競争⼒を⾼める。元資⽣堂の⼭極清⼦⽒が語る、本当の働き⽅改⾰について(前編)

山極清子氏

株式会社wiwiw(ウィウィ)社長執行役員。
昭和女子大学客員教授 経営管理学博士。

1995年に株式会社資生堂から21世紀職業財団両立支援部事業課長として派遣され、1997年に株式会社資生堂に復職。2007年まで資生堂本社人事部、経営改革室、CSR部の各次長などに就き、女性活躍支援、男女共同参画の推進、仕事と育児・介護との両立支援及び働き方改革などのワークライフバランスに取り組む。現在、約1,000社にダイバーシティ・マネジメント等を提案している他、様々な行政や民間の委員会にも参画。

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企業風土の醸成が生産性の向上へ繋げる第一歩

もし⾃分が当事者として仕事と育児を両⽴するとしたら。想像してみてください。起床後、朝⾷を作り、保育園に送って、出社。仕事が終わると、保育園に迎えに⾏き、⼣⾷の買い物をして、帰宅。⼣⾷を作り、後かたづけ、その合間、合間で⼦どもの世話をする。洗濯も掃除も。これが毎⽇です。ここに介護や他の事情が重なるとどうなるでしょう。このような⽇本の現状について、⼭極⽒は次のように⾔います。

「毎⽇このようにワンオペ家事・育児が続くと疲労し、軸⾜は家庭に置かれるためキャリア形成をあきらめる⼥性が多いです。両⽴することが困難になって退職する⽅もいます。でも、当社がお付き合いしている企業は両⽴が当たり前になっています」(⼭極⽒。以下敬称略)

現在は、⼥性の多くは産休や育児休業制度を取得していますが、それだけでは不⼗分だと⼭極⽒は指摘します。
「育児休業は、育児のためだけにあるのではなくキャリアと両⽴させるために法制化されたものです。育児休業期間にパートナー(夫)を巻き込み両⽴体制をつくらないと戦⼒として職場復帰はできません。

そこで、当社は、⼥性にとって⼤きなターニングポイントである出産・育児期を強⼒にサポートし、キャリアと育児を両⽴するマインドとスキルと⾏動⼒を育て、管理職候補育成を後押しする“wiwiw キャリアと育児の両⽴⽀援プログラム”を開発したのです。このプログラムには次のような特徴があります。

1, 育児休業者が⾃宅にいながらにして必要な仕事と育児の両⽴情報が⼊⼿できる。
2, 職場復帰に向けたビジネススキル向上のための講座が受講できる。
3, 掲⽰板の設置により同じ会社内で、育児休業を取っている⼈たちと育児や復帰に向けた相談と情報交換ができる。
4, 育児休業者と職場の上司とが1ヵ⽉に1回定期的に情報交換でき、コミュニケーションが図れる。
5, パートナー(夫)の育児参画を促進する講座などを整備しているため、男⼥ともに仕事と育児との両⽴が実現できるようになる。

このように、インターネットを介して育児休業者がそれぞれの⽬的を実現できる機能を備えているだけに、このプログラムは、育児休業者だけではなく、企業側にとっても⼈材育成や離職防⽌による⼈材の⻑期確保など⼤きなメリットがあります」(⼭極)

『⼥性活躍とダイバーシティ、ワーク・ライフ・バランス』は三位⼀体

「⽇本では“⽣産性=ワーク”のみだとされてきました。しかし、海外の研究では『ワークがうまくいくとライフもうまくいく。ライフに問題があるとワークにも影響が出る』という相互作⽤があることがわかっています。⼥性活躍とダイバーシティ、ワーク・ライフ・バランスに取り組む働き⽅改⾰は、三位⼀体の視点で推進しないと成果に結びつかないのです」(⼭極)

働き⽅改⾰によって⼥性が活躍する⼟壌ができると、より多様なイノベーション・価値観を創造することができます。

また、⼥性躍進に成功した企業は、外国⼈・障がい者・LGBT・⾼齢社員などに対する働き⽅も推進しやすくなるはずです。ダイバーシティ経営によって、企業⾵⼟が醸成する。そして、相乗効果を⽣み出す様々な好循環が⽣まれ、⽣産性の向上が⾒込まれるようになります。

「⼥性活躍推進法」で企業の取り組みと実態を⾒える化。官⺠が連携して改⾰推進のスピードアップを図る

「⼥性活躍推進法」で企業の取り組みと実態を⾒える化。官⺠が連携して改⾰推進のスピードアップを図る

⼭極⽒が考える三位⼀体の改⾰が徐々に定着する⼀⽅で、企業努⼒だけでは改⾰に限界があることも事実です。こうした課題に⼭極⽒は⾏政や他企業にも働きかけて改⾰を進めていったそうです。

「企業ごとに改⾰の必要性を説いてまわっても、影響⼒に限界があり、時間もかかります。結局、国が法律をつくらないと変わらないんです。そこで、随分前から⼥性活躍の法制化を政府の会合等で提案してきました。それが実現したのが、2015年に施⾏された『⼥性活躍推進法』(正式名称:⼥性の職業⽣活における活躍の推進に関する法律)です」(⼭極)

企業内で働き⽅改⾰を推進する際、経営トップの強い意志を⽰すコミットメントは、従業員の意識改⾰を図り、⼈事評価を変えていく上で⼤きなポイントになります。⽇本社会という⼤きな受け⽫にスピード感を持って影響を与える⼿段として、⼭極⽒は官⺠の連携を実践したのです。

「⼥性活躍推進法によって従業員301⼈以上の企業は、⼥性登⽤の数値⽬標、⼥性活躍推進の施策・⽀援・制度を厚⽣労働省の出先機関(労働局)に提出しないといけません。しかも、その内容は公表が義務付けられています。2017年3⽉の時点で該当企業の 99.9%が提出しています。また該当しない300名以下の企業も⾃主的に2,789社が提出しており、今後社会全体を巻き込んだ⼤きなムーブメントとなることが期待されます」(⼭極)

2017年3⽉の時点で、1万8613社が対象となっている⼥性活躍推進法。各企業の取り組みは厚⽣労働省が運営する「⼥性の活躍推進企業データベース」で閲覧することが可能です。

「⼥性活躍推進法」で企業の取り組みと実態を⾒える化。官 ⺠が連携して改⾰推進のスピードアップを図る
⼥性の活躍推進企業データベース

⼥性活躍推進法は企業と従業員、両者にメリットがある

⼥性活躍推進法は企業と従業員、両者にメリットがある

「⽇本の企業は同業他社の動きに⼤変敏感です」と⼭極⽒が指摘するように、⼥性活躍推進法に関する取り組みデータを提出・公表することに抵抗を感じる経営者や⼈事の⽅が⼀定数いる反⾯、⾜並みを揃えた結果、99%の企業が⾏動計画を策定し提出したのです。では、この制度は企業側・就労者ないしは就労希望者にどのようなメリットがあるのでしょうか?

「⼥性活躍推進で優良だと認定された企業には、『えるぼし』というマークが貰えます。⼀つ星から三ツ星まであり、現在 421 社が認定されています(※1)。働く環境を同業種のなかで⽐較されて、良い企業には必然的に男⼥とも優秀な⼈材が集まるようになります。データベースでは、【男⼥の育児休暇取得率】【男⼥別の勤続年数】【有給消化率】【平均残業時間】など様々な項⽬を確認できますので、⼥性に限らず男性も⽐較材料として有益なことなんです。各企業のページの⼀番下の項⽬には、今後の⾏動⽬標が記載されていますので、企業の取り組みの本気度もチェックできます」(⼭極)

労働⼒が豊富だった時代は、企業側に採⽤の選択のボールがありましたが、⼈⼝オーナス期になると優秀な⼈材は待っていてもやって来ません。中堅企業こそ独⾃の優位性を⽰せるチャンスがあり、⼤企業より規模が⼩さい分改⾰もしやすいと⾔えるでしょう。また情報をオープンにすることで、ミスマッチを防ぐこともできます。

企業側のメリット

  • 女性活躍を推進する土壌を築くことで人材確保につながる
  • 労働力減少・多様化の時代に対応し、生産性向上が期待できる
  • ミスマッチを防ぎ、定着率を上昇できる

など

就労者のメリット

  • 検討項目が増えることで、職業選択の幅が広がる
  • 自身の価値観にフィットした企業を選択できる
  • ライフステージによって、多様な働き方を選択できる

など

「『⼥性の活躍推進企業データベース』では、都道府県別、業種別など様々な観点から企業の取り組みを検索できます。だから⼈材確保に苦戦している業界にとっては、⼥性にとって働きがいがある、制度を活⽤している社員が多数いるなどのアピールをする場としても機能すると思います。いまは⼥性活躍を推進していのですが、それは、今後、男性⽀援にもつながるし、最終的には⼥性活躍推進が⽇本社会全体に良い影響を及ぼすものと確信しています」(⼭極)

多様な価値観を受け入れる風土づくりが求められている

⼈⼝オーナス期に⼊った⽇本社会では、⽣産労働⼈⼝が減少します。同時に働き⼿の多くは、育児・介護などの問題を抱えることになり、男⼥問わず時間制約のある社員が増えてくると、企業は従来型の働き⽅を続けていては⽣き残れません。

今⽇、⽇本的雇⽤慣⾏は⾜かせになっているのです。いわば、終⾝雇⽤・年功序列の男性社会であり、⼥性は家事・育児を⾏うというステレオタイプのモデルでは、⼥性は⾃分たちの能⼒を⼗分に発揮できないのです。
国内市場でのニーズの多様化、経済のグローバル化が進⾏する中、企業が⽣き残るためには多様性を受け⼊れる⾵⼟を醸成する必要があります。ダイバーシティ経営のカテゴリには、⼥性・障がい者・⾼齢者員・外国⼈材・LGBT など多く存在しますが、まずは⼥性活躍を推進する⼟壌を早急につくる必要があるのです。

「国内では標的市場を定め、お客さんの多様化するニーズに応えなければなりません。また、量産品は、⽇本のマーケットだけを対象にしていても限界がありますよね。⼤企業だけではなく中⼩企業も世界をマーケットにしなくてはいけない。どちらにしても画⼀的な価値観では⽣き残れません。多様な⼈材をインクルージョンして、組織を活性化していく。そして、ニーズに応えて、新しいイノベーションを⽣み出す。これがダイバーシティ経営です」(⼭極)

「働き⽅改⾰というのは、⻑時間労働の削減も⽋かせないが、それだけではないんです。今回、インタビューを受けたのもね、働き⽅改⾰には「三位⼀体の視点が⽋かせない」との緊急のメッセージを発信できればと思ったの(笑)。正しい情報があれば乗り越えられることもあるじゃない?だからね、これを読んでいる読者の⽅もね、ぜひ⼀緒に働き⽅改⾰に取り組んでいきましょう!」(⼭極)

取材後記

山極先生は、エネルギッシュでユーモアもある魅力的な女性でした。「女性活躍推進」を一部分だけ切り取ると、どうしても男尊女卑の是正や女性差別的な視点で捉えてしまいがちです。しかし、山極先生がおっしゃっているように日本社会の未来をロジカルに考察をしてみると、女性活躍は必須項目だと言うことが理解できるのではないでしょうか。女性活躍や働き方改革の推進に課題を感じている方は、ぜひ山極先生の提言を参考にしてみてください。

※1女性活躍推進法に係る認定状況(厚生労働省)/平成29年9月30日現在

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いよいよ働き方改革は”法律”

2019年4月より「働き方改革関連法」が順次施行されています。
ここ数年、世間では「業務効率化」「生産性向上」「デジタル化」などと叫ばれてきた一方で6割以上の企業が働き方改革に対して、未対応となっています。
なぜ働き方改革が必要なのか?またどのように進めていけばいいのか?
改めて今後の「働き方改革」に迫っていきます。

  • いよいよ働き方改革は”法律”
  • ”2025年の崖”とは
  • 2025年までに迎える代表的なDX
  • 中小企業はデジタル化が遅れている
  • 育児や介護をしながら働ける現場つくり

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一方で6割以上の企業が働き方改革に対して、未対応となっています。
なぜ働き方改革が必要なのか?またどのように進めていけばいいのか?
改めて今後の「働き方改革」に迫っていきます。

主な内容

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