生まれたときからPCやインターネットに慣れ親しんできたデジタルネイティブ世代は、ITリテラシーが高いと思われがちです。たしかに、デジタルネイティブ世代はスマートフォンやタブレットを自由自在に操作し、友だちとソーシャルメディアを通じて交流し、ほしい情報をインターネットで検索し見つけるといった行動を毎日自然と行っています。しかし、そのようなITリテラシーが、必ずしも企業が必要としているものとは限りません。こうした若手の知識不足を解消するためには、情報システム部門と人事、総務が連携して、現場で必要とされるITリテラシーを若手社員に教育していく必要があるでしょう。本稿ではそんなデジタルネイティブながら、ビジネスで必要なITリテラシーを持たない若手社員を育成する方法をご紹介します。
企業にとって必要なITリテラシーの低い若手社員たち
世の中にはITリテラシーに自信を持っている若手社員が男女問わず数多く存在します。過信とも言えるそのような姿勢は、ときに企業を困らせることがあります。企業が一番困るのは、セキュリティ面です。たとえば、会社の重要な秘密情報のドキュメントを大学のサークル活動のドキュメントのように平気でグーグルアプリケーションで共有することがあります。本人たちはそれに対して危機感を持たず、注意されたら不思議に思うことも珍しくありません。
自分たちがわからないものを「情報システム担当者が助けて当然」という態度をとる若手もいるようです。そのような甘えを許容してしまうと、情報システム担当者の負担が大きくなり、本来集中すべき重要な仕事に配分できる時間が短くなり、残業が増えるばかりです。
そのような事態を防ぐには、企業にとって必要なITリテラシーを若手社員に身につけてもらう必要があります。では具体的にどうすればいいのでしょうか。次に述べたいと思います。
ITリテラシーのない若手社員を育成する3つの方法
育成方法1.十分なIT研修を行う
創業まもないベンチャー企業でもない限り、ほとんどの若手社員の入社時に、会社ITインフラが既に確立している状態です。彼ら彼女たちが最初にやるべきことは、そのインフラを理解し、素早く使えるようになることです。
「デジタルネイティブだし、ITのことはある程度わかっているだろうから大丈夫でしょ」と、本人任せでは、社内インフラへの理解や活用能力にばらつきが生じてしまいます。その状態で若手社員の業務が増えてしまえば、ITインフラを理解する余裕がなくなり、そのしわ寄せは最終的に情報システム部にくるでしょう。
そのような事態を防ぐために、新入社員が入社したタイミングで徹底したITオリエンテーションを実施しましょう。単なるインフラの説明で終わらせるのではなく、e-LearningやOJTなどを通じて、重要なポイントが浸透するまで教育を継続していくことが大切です。
具体的なオリエンの内容については次のようなものが考えられます。
- PC、ネットワークのセットアップ
- プリンター・プロジェクターの接続
- Eメール設定
- PCファイル操作
- ネット会議システムの操作
- Microsoft Officeの基本操作
- ERP、CRM、CMS等、社内システムの基本操作
- ソフトウェアライセンス等デジタル著作権管理
- 情報セキュリティの基本
- ソーシャルメディア方針
- その他ITコンプライアンスに関するルール
このような内容で3ヶ月ほどオリエンを行えば、若手社員といえども業務に必要なITリテラシーの基礎を身につけることができるでしょう。
育成方法2.ナレッジシェアリングを積極的に行う
十分なオリエンを実施しても、ITトラブルに直面するリスクをゼロにすることはできません。デジタルネイティブはトラブルに直面すると、対処法を探すためにネット検索を行います。探している回答が見つからない場合、ソーシャルメディアなどを通じて友人や知人に尋ねることも彼ら彼女らの習慣です。ビジネスチャット、メーリングリストや社内SNS、グループウェアなどを活用して知識を共有するナレッジシェアリングはそんなデジタルネイティブの習慣に適したコミュニケーション方法と言えるでしょう。
蓄積されたトラブル情報をベースにナレッジデータベースを構築する他に、そこに書かれていないトラブルへの対処法として、社内ソーシャルメディアやユーザーフォーラムを構築すれば、若手社員はストレスのない方法でトラブルに対処できます。
育成方法3.中長期ビジネス戦略に適したIT研修を実施する
技術戦略が企業にとって必要不可欠となっている昨今、従業員は常にITスキルを磨く必要があります。そうしなければ、技術革新に適合できず、せっかく導入した新技術を最大限活用することは難しいでしょう。リソースを無駄にするだけでなく、採用した人材は会社にとって不要となり、従業員自身のキャリアにも傷がついてしまいます。
従業員の育成は、会社の成長に不可欠であり、大きな投資でもあります。研修に使う時間、研修にかける費用などの投資を無駄にしてはいけません。
そのためには、会社の中長期ビジネス戦略に適したIT研修プログラムの導入をお勧めします。高度なITノウハウを持っている情報システム部門こそ、人事部と協力しながら、このようなプログラムを設計し、実行する力を持っています。以下ではそのような研修プログラムを導入するための7つのステップをご紹介します。
▼ステップ1
会社の中長期ビジネスゴールに沿った従業員のITスキルを設定する
▼ステップ2
若手社員のITスキルレベルとステップ1で設定したITスキルとのギャップを洗い出す
▼ステップ3
トレーニング目標と期間を決め、従業員のラーニングスタイルに合った手法やカリキュラム案を作成する
▼ステップ4
マネージャーの承認を得る
▼ステップ5
トレーニングを実施する
▼ステップ6
トレーニングを評価する
▼ステップ7
必須スキルが従業員に定着するまでトレーニングを繰り返し、必要に応じて新しいプログラムを作る
中長期ビジネス戦略に適したIT研修の内容を決める上で重要となるのは、世の中のITトレンド、会社の取り組み、そして個人のキャリアプランです。それらに応じて細かくカスタマイズされたプログラムの設計も可能ですが、多くの分野で応用できるより高度な共通ITリテラシーも存在しています。次に、その発展的なITリテラシーについて述べたいと思います。
これから求められるITリテラシーとは
技術革新が目まぐるしい昨今においては、若手社員のキャリア形成には、発展的なITリテラシーの醸成が欠かせません。IT部門の若手社員の場合、従来と同様、プログラミング、ネットワーク、システムアーキテクチャ、メンテナンスやプロジェクトマネジメントの能力が求められています。当然ビジネスユーザーであっても、昨今はそれらに近しいITノウハウを身につけているに越したことはありません。とくに以下領域でのITリテラシーが求められていくでしょう。
- クラウドコンピューティング(ビジネスアプリケーション、アーキテクチャ、セキュリティ)
- モバイルテクノロジー
- ビジネスインテリジェンス(ビッグデータ、アナラティックス)
- AI(人工知能)
ビジネスユーザーは、これらのテクノロジーを自ら開発することは求められていませんが、導入されたツールを活用するスキルは求められていくでしょう。
既に導入されたツールの活用にとどまらず、これらのテクノロジーがどのようなことを可能とするかを理解し、そのノウハウを会社のビジネスプランニングに活かせるようになれば、その人材は高度なITリテラシーを持ったプロフェッショナルとして評価されるでしょう。
まとめ
デジタルネイティブ世代の若手社員が、情報システム部門に対して