長年使ってきた社内パソコン。買い換えを決断したらまず決めるべきは「どのパソコンに買い換えるか?」そして「今のパソコンをどうするのか?」です。パソコンは通常のゴミのようにゴミ捨て場に廃棄したり、粗大ゴミとして処分することはできません。正しい方法で捨てなければ法律に抵触するばかりか、企業のセキュリティ面のトラブルにもつながります。以下では法人としてパソコンを処分する場合の3つの選択肢と、処分する際の注意点について解説します。
PCは「産業廃棄物」扱いで処分する
法人のパソコンは「産業廃棄物」として処分しなくてはなりません。
これは平成13年(2001年)4月1日に施行された「資源有効利用促進法」に基づいて定められました。この法律ではパソコンの他にリチウムイオン電池やニッケル水素電池などの小型二次電池が「指定再資源化製品」とされ、メーカーが回収してリサイクルすることが義務付けられています。企業や法人が廃棄する事業系パソコンは、この法律に基づいて回収・リサイクルが行われています。
パソコンの回収・リサイクルを依頼する先は大きく3つあります。第一に廃棄するパソコンを製造したメーカー、第二にパソコンを産業廃棄物として回収して中間処分業者・最終処分業者を挟んでリサイクルする産業廃棄物処理業者、第三に自社でリユース・リサイクル等を行う買取・リサイクル業者です。以下ではそれぞれの特徴と料金の目安を解説していきます。
なおリサイクルの対象となるパソコンは、デスクトップパソコン本体とディスプレイ、そしてノートPCのみとなっています。したがってキーボードやマウスといった周辺機器については、通常の燃えないゴミや使用済小型家電回収ボックスなどに捨てることもできます。パソコン本体と一緒にメーカーや業者に回収してもらえる場合もあるため、見積もりの際に相談しておきましょう。
パソコンメーカーでの処分は3,000円〜
パソコンメーカーでの処分には処分費用として一般的に「再資源化処理費」が必要となります。デスクトップパソコン本体、ノートブックパソコン、液晶ディスプレイ、液晶ディスプレイ一体型のパソコンは一台につき税抜3,000円(税込3,240円)がかかります。一方ブラウン管ディスプレイ及びブラウン管ディスプレイ一体型のパソコンは一台につき税抜4,000円(税込4,320円)がかかります。ただしメーカーによっては別途回収費用等がかかる場合があるため、まずは該当するメーカーの窓口に連絡をして、見積もりを出してもらう必要があります。
回収・リサイクルを行っているメーカーの窓口は、資源有効利用促進法に基づいて設立された一般社団法人パソコン3R推進協会のホームページに掲載されています。ホームページに掲載されていないメーカーのパソコンについては、パソコン3R推進協会が回収・リサイクルを行っています。
見積もりに問題なければ契約を結び、メーカーやパソコン3R推進協会から送られてくる輸送伝票を使って手続きを進めます。全ての手続き、およびリサイクル処理終了後にメーカーやパソコン3R推進協会から送られてくる「資産滅却報告書(廃棄処理証明書)」は、決算時に必要な書類となるため大切に保管しましょう。
ちなみに、平成15年(2003年)10月以降に販売された家庭向けパソコンには「PCリサイクルマーク」が貼付されており、個人がこのマークのついたパソコンを廃棄する際は再資源化処理費はかかりません。しかし企業や法人が廃棄するパソコンに関しては、たとえPCリサイクルマークがついていても再資源化処理費が必要となりますので注意しましょう。
またメーカーの中にはVAIOのように自社製品への買い替えを前提として、他社製パソコンを含めて買取もしくは廃棄を行って、買い換え時のコストを抑えてくれるところもあります。買い替えるメーカーが決まっている場合は、そのようなサービスがないかについても窓口で確認してみましょう。
産業廃棄物処理業者での処分は1,000円〜
産業廃棄物処理業者に依頼する場合の処分費用は業者によって変わりますが、一台につき1,000円〜3,500円が相場のようです。ここに回収費用等を上乗せした金額が最終的な処分費用となります。産業廃棄物処理業者に依頼する際に注意したいのは「業者の選定」「産業廃棄委託契約書の内容と取り扱い」「マニフェストの作成・発行」の3点です。
第一に産業廃棄物処理業者の中には、格安で回収する代わりに処分費用を浮かせようと不法投棄をする業者もいます。このような業者と取引をしてしまうと、廃棄されたパソコンからの情報漏えいなど企業にもあらぬ火の粉がふりかかる可能性があります。そのためかならず「産業廃棄物処理業許可証」によって、相手が都道府県知事の許可と委託する産業廃棄物(パソコン)の取り扱いの許可を受けており、処理基準を満たしているかを確認しなければなりません。もし基準に満たない業者に廃棄を委託してしまうと、委託した企業や法人が罰を受けることになるので注意しましょう。
第二に契約時に交わす「産業廃棄委託契約書」は、契約終了日から5年間の保存が義務付けられています。大切に保管するようにしましょう。また契約時には廃棄物の種類、量、処理内容などを産業廃棄委託契約書に明記したうえで、取引先の業者との契約を結びます。必要な項目や書類が揃っていなければ効力がありませんので、事前の確認が必要です。
第三にマニフェスト(産業廃棄物管理表)も正しく作成・交付されなくてはなりません。マニフェストとは不適切な廃棄物処理による環境汚染等を防ぐために設けられたもので、廃棄物を捨てる事業者自身が収集運搬業者や処分業者に交付し、管理する必要があります。複写式紙タイプのものは各都道府県の産業廃棄物協会で販売しており、電子タイプのものは公益財団法人日本産業廃棄物処理振興センターのホームページから入手できます。なおパソコンメーカーに処分を依頼する場合は、このマニフェストは不要となります。
買取・リサイクル業者に依頼すると0円〜
買取・リサイクル業者に依頼すると、多くの場合持ち込みは0円から請け負ってくれるところが大半となっています。回収を依頼するとその場合は別途料金がかかるほか、資産が自社から業者に移動したことの証明となる「資産移動証明書」などの各種証明書の発行に別途料金を設けている業者もあります。
ほとんどの部品をゴミとして処分するパソコンメーカーや産業廃棄物処理業者とは違い、買取・リサイクル業者の目的は引き取ったパソコンをできるだけ利益に変えることです。そのため費用面ではどの選択肢よりも安上がりに済ませられます。また高性能のパソコンや製造年が新しいパソコンの場合は買取扱いになる場合もあるので、パソコンの処分によって逆に利益が出る可能性もあります。
加えて買取・リサイクル業者は産業廃棄物としてパソコンを引き取るわけではないので、マニフェストの発行も不要です。
パソコンを処分する際に絶対忘れてはいけないこと
最後にパソコンを処分する際に絶対に忘れてはいけないこと、すなわち「ハードディスクからのデータ抹消」について解説します。パソコンのハードディスクには企業の機密情報がぎっしりつまっています。これを何も考えずに捨ててしまえば、簡単に情報が漏えいしてしまうでしょう。
基本的にパソコンを処分する場合のデータの取り扱いは自己責任。業者に依頼することもできますが、別途料金が発生したり「本当に任せて大丈夫か?」という不安が残ったりするのであれば、自社で処理する必要があります。データを抹消する方法は大きく2つ。ひとつは「データ消去ソフト」、もうひとつは「物理的な破壊」です。
データ消去ソフトはパソコンメーカーなどがリリースしており、フリー版やパッケージ版、ライセンス版などがあります。企業や法人レベルの使用が許可されているフリー版は少ないため、結果的にデータ消去ソフトを利用するとさらに処分費用がかさむことになります。また消去に時間がかかる、起動しないなどパソコンが故障している場合には利用できないなどのデメリットもあります。
一方でパソコンを分解する必要もなく、中古パソコンとして再利用が可能という点は、この方法のメリットです。
パソコンを分解・破壊するための機械や工具、そして知識がある人材が社内にいるのであれば、もうひとつの方法「物理的な破壊」も選択肢に入ります。この方法なら目の前で記録媒体の破壊を確認できるため、セキュリティ面での安心感があります。またパソコンが動かなくても消去できるので、扱いに困ったパソコンも処理できます。
あるいはデータを消去せず、ハードディスクだけを取り外して社内に保管するという方法もあります。確実に情報漏えいが防げるほか、過去のデータを再び利用できるというメリットもあります。
あらゆるコストを検討して最善の選択をしよう
どの方法でパソコンを処分するにせよ、どの方法でデータを消去(もしくは保管)するにせよ、相応の労力(業務、人材コスト)と費用(金銭コスト)がかかります。あとあと悔やむようなことがないように、どの選択肢が最善なのかを慎重に検討するようにしましょう。