働き方

【テレワーク成功事例】規模が小さいからこそ改革は進む! その成功の秘訣と効果とは?

総務省が発表した2017年の「テレワーク先駆者百選」に唯一北陸地方から選ばれたのは、従業員たった5名の株式会社北陸人材ネットでした。

テレワークの導入率は、企業規模が大きいほど高い傾向にあります。同社は現在、国外のフルリモートワークも実現するなど多様な働き方を次々と進めています。どのようなきっかけでテレワークを導入し、成功に導いたのでしょうか? そこには従業員から親しみを込めて「良い意味で空気が読めない人」と言われている代表取締役社長である山本 均さんの経営方針がありました。

山本さんは、大企業の人事を約20年間経験した後に、同社を2007年に創業。人事時代には“自分が採用した人間が辛い思いをする”ことを何度も経験し、性悪説が根本となる企業体質に長年疑問を感じていたそうです。

「規模が小さいほどテレワークの導入はもちろん、働き方改革は進めやすい」

同社が進めてきた働き方の背景とその効果について、山本さんにお聞きしました。

ライフステージに変化があっても働きつづけられる会社を

――北陸人材ネットは、有料職業紹介事業をメイン事業とされています。事業を始めたきっかけは?

山本「私は生まれも育ちも石川県で、地元の金沢大学を卒業しました。スキーが大好きで、当時はスキーバブルでもあり、実はプロスキーヤーを目指していました。でも、食べていくことができないと周囲に諭されて、最初に入社したのがナナオ(現EIZO)でした。『スーパーマリオブラザーズ』が流行っていた時期で、ナナオもゲーム開発に携わっていました(編注:当時傘下にアイレム株式会社(現アイレムソフトウェアエンジニアリング)があり、人気ゲーム作品を多く発売)。ゲーム開発に携われる! と思って入社したら、配属されたのは人事でした(笑)。ナナオで9年、そのあとにアイ・オー・データ機器に転職して6年。その後、東京に出て沖電気工業でも5年半ずっと人事畑でやってきました。東京に出てきても、いずれは金沢には戻るつもりだったんですが、2007年に知人の経営する人材紹介会社の金沢支店を買わないか、と誘われたのが、北陸人材ネットを始めたきっかけです。人事をやっていたので、自分のキャリアも活かせるな、と思い、その金沢支店を買うという形で創業しました」

――ずっと人事だったのですね。現在でこそ多様的な働き方を推進されていますが、創業当時はどうでしたか?

山本「人事の経験でもっとも嫌なのは、採用した人間が不幸になることです。それだけは耐えられない。『若いときは勉強だから残業なんてつけるなんてとんでもない!』『俺が若い頃はそうだった!』と言う頭の固い人はやはりどの組織にもいます。そういう人と何度も大ゲンカしていました。自分が創業するにあたって、そういうのは絶対に嫌でした。特にオーナー企業にありがちなのが、自分の会社は自分のもの、だから従業員は俺に従うべき、俺が絶対だという感じでやっているところも結構あって、そういうのは見るに堪えない!」

――その点を踏まえて、具体的に創業時の経営にどのような設計やモットーがありましたか?

山本「まずひとつは法令順守。これはマストですね。あとは会社員をやっていると休みがとりにくい。あとは、なぜこっちに帰ってきて起業しようかと思ったことと関係しているのだが、“NO SKI NO LIFE”(笑)。正直言って冬場は仕事しません、と。自分自身が好きにやるのに、従業員は別なんて口が裂けても言えない。だから、僕は自分の人生を充実させるためにワークライフバランスを重視する会社にしたんです」

――当時にそこまで思い切った会社経営を打ち出すのはすごいですね。テレワークを導入しようと思ったきっかけは?

山本「いまは私と家内の他の従業員は女性3名で全員既婚者。当然、出産や育児のステージがあります。小さい会社なので倒産したらおしまいという共通認識があるので、会社をどのように継続していくということがすごく大事になります。テレワークを始めたのは、ある従業員が結婚したタイミングでした。石川県の七尾市という金沢から60キロくらい離れた場所に生活の拠点を移すことになったので、毎日通うのは無理。しかし、収入が彼女らの生活の基盤になっていた。結婚を理由に退職する必要はない。ですので、テレワークにしようということになりました。仲間として会社を持続させるために、できることはみんなで工夫してやっていこうと。実は沖電気工業に在籍していたとき、重度の身体障がい者の方が40人ほど在宅勤務している特定子会社のOKIワークウェルの立ち上げに関わってので、その経験が活きましたね」


<OKIワークウェルとの共同ワークショップでインターン学生がプレゼンをする様子>

――OKIワークウェルとは、テレワークや障がい者の支援のワークショップなども共同開催されていますね。

山本「いまでも交流があります。OKIの在職時は、非常勤取締役として月に1回くらいいろんな話したり、半年に1回は全国から集まって、お酒を飲んだり。そういう場で、車いすで来ている方たちがとても楽しそうにしている何度も見てきました。だからテレワークに関しても、抵抗もなくすぐに導入に踏み切ることができました」

――テレワークを導入するにあたってルールなどの整備はどうしましたか?

山本「私は当時、金沢大学の就職支援室長を兼務していたので、ルール作成は大学生のインターンシップに協力してもらったんです。テレワークをテーマに募集したら学生が2人参加してくれて、とても優秀だった。その時に古巣の沖電気工業にも見学に行ってもらったり、色々と自分たちで考えてもらったりしたのですが、提出してもらったプランがとても現実的なものでした。面白かったのは、チャットや電話だと用事があるときにしか話ができずコミュニケーションが減るので、『オフィスに来ている間は雑談OKにしないとダメだ』と」

――テレワークやリモートワークの課題はやはりコミュニケーションでしょうか?

山本「そうですね。我々がオフィスで直接話して決めたことなどが、彼女にどこまで伝わっていて、どこからが伝わっていないかという点がどうしても抜けてしまうことがある。どんなに細かい情報でも、最初からわかっているという認識だと相手のことを理解できなくなってしまうので、できるだけこまめにチャットに入れるとか、確認をすることをお互い気を付けるようにしていますね」

――さらに国外テレワークも視野に入れていると聞いています

山本「そうなんです。従業員の旦那さんがマレーシアに転職してしまったのです。彼女から『マレーシアに行くことになったんです』と告げられたとき、我々も辞めてほしくなかったし、彼女もできれば辞めたくないと思っていました。なら、フルリモートで。さらにマレーシアとは時差もあるのでフルフレックスでいいんじゃないかって」

「人が人を管理すると無理が生じる」最終ゴールはティール組織

――細かいルールは設定していないけど、コミュニケーションには注意を払っている、というイメージで問題ないですか?

山本「そうですね。ただ実際はほとんど出社していますね(笑)。ただ、業務上、面談などが夜の20時以降になるケースも多々あるので、そういった場合は遅めに出社したり、家庭の事情がある場合はテレワークしたり。フルフレックス、フルリモートで、3カ月単位で20時間分の残業代混みで月額お支払いしています。有給も時間単位で取得できるようにしているので、3カ月単位で自由に働いてもらえるルールにしています」

――ケースバイケースでそれぞれが効率の良い働き方を選択できるようになっているんですね。とは言え、経営者はなかなか思い切った決断ができないのが実情です。

山本「フルフレックス、フルリモートでまったく仕事しなかったらどうするのか? とよく聞かれます。人事の仕事をしているとよく理解できるのですが、日本の企業は基本的に性悪説。『人間はチェック&コントロールしないと働かない』という前提で人事の仕組みができている」

――その企業カルチャーはいまだ根強いです。

山本「だから、性善説ということに尽きると思う。うちのメンバーはマインド的にも自律的に動いてくれる方々ばかりなので、僕は会社で何かを決めない。何か決めないといけないときは、みんなに投げかけるようにしている。あなたはどう思う?って。一方で、チェック&コントロールされることに慣れている人は、丸投げされているように感じる。この社長は責任放棄していると思われてしまう。ティール組織を意識していますが、実態ではグリーンとティールの間くらい。給料とかの情報は公開しているが、売上目標だけは僕が決めているという感じ」

――ティール組織を意識したきっかけはなんでしょうか。

山本「なぜGAFA(編注:Google、Amazon、Facebook、Appleの4社)が成長し続けるんだろう、と興味を持ったのがきっかけです。調べているとティール組織に近いマネジメントをしていることが分かってきた。マネージャーは“管理してはいけない”というルールがあったりする。上司がどれだけ部下のことをよくわかっていても、性悪説が前提だと管理せざるを得なくなるんですよね。相性や好き嫌いもあるし、結局は人が人を評価できるのかという話に行きついてしまう。評価や管理をしなくても会社が回る仕組みを作ったほうが良いのではと思うようになりました」

――なるほど。北陸人材ネットがテレワークを導入した背景には、従業員の結婚、引っ越し、出産などの事情もありましたが、もともと山本社長の経営思想もあったのですね。

山本「我々は小さい会社なので、リテンションを考えたときに、他社にはない何かを提供しないといけないのですが、お金には限界がある。お金以外のところで、この会社で働くことにポジティブになってもらうために何ができるか、を考え続けなければいけない。実質的なメリットをどこまで受け止めてもらえるかわからないですが、フルフレックス、フルリモート、有給休暇も時間単位で取得できる。つまり好きなときに会社に来てもいいし、会社に来なくても良いよ、というだけでも、周りから驚かれる」


<2018年に参議院議員山田総務政務官が北陸人材ネットに視察した様子>

――企業のブランディングや従業員満足度の観点からも有効だった。

山本「“この会社じゃないと”というブランドみたいなものにこだわっている。そういう会社で在りつづけること、そういう会社で働くということの喜びを色々な形で感じてもらうことが、従業員の働きがいの創出になりますし、パフォーマンスを発揮できる。その結果、会社としても成長に直結する。従業員の会社に対する愛着が増えたと思っています」

――テレワーク導入後、業績は伸びましたか? また生産性は向上しましたか?

山本「明確な数字は提示できませんが、業績は伸びました。しかし、生産性に関しては、目に見えにくい。売上が伸びているということは、少なくともネガティブには作用していないと思うし、具体的には会議や議論の内容がよくなりましたね。必要なことを皆でディスカッションして最適解を見つけていく過程で、僕自身も気づかされることが多い。互いの気づきや学びの場になっている印象があります」

――テレワークだとデスクトップではなくノートPCにしたり、インターネット環境の整備やセキュリティも考慮しなくてはいけません。

山本「ビジネスチャットなどのコミュニケーションツールとノートPC、ルーターに加えて、セキュリティ対策も必要。外部から会社のサーバーに接続できるようにしましたが、データベースをクラウド化したことで、サーバーにアクセスする機会が減りました。最終的にはセキュリティはVPNを使用せずに、サーバーのゲートをパスワードがないと入れないという形にしました。端末はスマホとVAIOのノートPC。LTE内蔵だとPCを開いてすぐに使えるので、すごく楽です」


<スキーを楽しむ山本社長>

――会社の最終的な目標やゴールを教えて下さい

山本「やはりティール組織。この規模だからこそ自律的に、セルフマネジメントでやれるように。組織としてこれだけの数字がないと経営が厳しくなることが共有できているからこそ、達成するためにそれぞれが何をすればよいのかを考えて行動する。それで会社が持続できればみんなを幸せに生活できるんじゃないかと。あとは実現できてしまっているが、僕は暑いのが嫌なので、夏場は1~2カ月北海道に行きたい(笑)。実際に今年は10日くらい北海道の旅行先でリモートワークをさせてもらった。僕以外もそういう働き方ができる会社になるともっと楽しいなと思う。そういうノマド的な働き方にシフトしていきたいですね」

働き方改革最新事情

いよいよ働き方改革は”法律”

2019年4月より「働き方改革関連法」が順次施行されています。
ここ数年、世間では「業務効率化」「生産性向上」「デジタル化」などと叫ばれてきた一方で6割以上の企業が働き方改革に対して、未対応となっています。
なぜ働き方改革が必要なのか?またどのように進めていけばいいのか?
改めて今後の「働き方改革」に迫っていきます。

  • いよいよ働き方改革は”法律”
  • ”2025年の崖”とは
  • 2025年までに迎える代表的なDX
  • 中小企業はデジタル化が遅れている
  • 育児や介護をしながら働ける現場つくり

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一方で6割以上の企業が働き方改革に対して、未対応となっています。
なぜ働き方改革が必要なのか?またどのように進めていけばいいのか?
改めて今後の「働き方改革」に迫っていきます。

主な内容

  • いよいよ働き方改革は”法律”
  • ”2025年の崖”とは
  • 2025年までに迎える代表的なDX
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