目次クリックで該当箇所に移動します
働き方改革、ワークスタイル変革が進行していく過程で、テレワークやフレックスタイム制、フリーアドレスなどの制度が普及しています。同時に、多くの企業は各種デジタルツールの導入で業務効率化を図っています。
その一方で、ワークスタイル変革や業務効率化が、組織の目標達成と連動しなくては経営課題を解決できませんし、従業員のモチベーションにも悪影響を及ぼします。働き方の変化に伴い、目標設定や達成への道筋も最適化していかなくてはいけません。日本で多くの企業が導入している目標管理にMBOがありますが、GoogleやFacebookが採用したことで脚光を浴びた目標管理のフレームワークである「OKR」をご存知でしょうか?
今回は、日本でも成長企業の多くが採用しているOKRについて解説します。組織運営に課題がある方は、ぜひ参考にしてみてください。
OKRの概要や目的について
OKRは、「Objectives and Key Results」の略で、組織の目標(Objectives)を達成するために必要な部署やチーム、個人の主要な成果(Key Results)を紐付けて設定していく手法です。OKRは、上図のように“トップ→部署→チーム→個人”とリンクするため、組織の目標と個人の目標にズレがなくなります。
OKRとKPIの違い
OKRと似た概念として、KPI(Key Performance Indicator=重要業績指標)があります。KPIは、“KGI(Key Goal Indicator=経営目標達成指標)に達成するために必要な経過目標”です。随時、経過目標が達成されているかを確認し、PDCAサイクルを適切に回すことにメリットがあり、最終目標から分解して経過目標を設定する手法は、OKRと似ています。ただし、KPIは目標達成のために順調に進捗しているかどうかを客観的に計測するための指標であることが大きな特徴です。
OKRとMBOの違い
MBO(Management by Objectives=目標管理)とOKRとの違いも説明します。MBOは、経営学者であるピーター・ドラッカーが提唱したマネジメント手法です。組織と個人の目標をリンクさせる点はOKRと同様ですが、MBOはセルフマネジメントが前提となっているため、個人がモチベーションやスキルの向上、人事考課にメリットがあります。日本企業の多くが採用している手法です。
目標は「SMART」で決める
ObjectiveもKey Resultsも目標設定のフレームワークで知られる「SMARTモデル」に則ると良いでしょう。上図にもありますが、「SMARTモデル」は目標設定に必要な要素をまとめたものです。基本的に目標は、この5つの要素すべてを満たすように設定する必要があります。
OKRの導入ステップ
次にOKRを導入する際のステップを紹介します。
①企業(組織)の経営目標(Obejectives)の設定
まずはSMARTに則った企業のObjectivesを設定します。年度、ないしは半期、四半期と期限を設けますが、よりスピーディなサイクルとすることで、より早い成長促進を期待できます。限界を少し超えた高い目標にすることがポイントです。目安としては、100達成ではなく、全社で工夫をして取り組んでようやく達成率が70%となる高さが理想的です。
②部署・チームのKey Resultsの設定
つづいて、Objectivesに関連したKey Resultsを設定します。ここでもSMARTに則り、達成可能かつ測定可能な指標にします。また容易に達成できる難易度では組織のストレッチが効かないため、Objectivesと同様に70%の達成率を目安とするとよいでしょう。
③個人のKey Resultsの設定
部署・チームのKey Resultsを分解して、個人の目標を設定します。難易度の設定に関しては、①②と同様にSMARTをもとに、上長とメンバーが話し合い、双方が納得でき、成長を促進できる指標にする必要があります。
④全社にOKRを共有する
設定した経営目標、部署・チーム、個人のOKRは、誰もがいつでも確認できるようにします。共有する目的は、組織としての目標に向かって、各部署、各メンバーがどのような役割を持つのかを明確にすることで、連帯感や各メンバーの責任感、達成意欲を創出することです。
⑤定期的な振り返りとミーティングの実施
Key Resultsを達成するためには、定期的な振り返りやミーティングが欠かせません。進捗状況や阻害要因・課題などを上長が各メンバーと1on1ミーティングを行い、ヒアリングするのがよいでしょう。毎週、隔週など定期的に開催し、達成できるように導くのが上長の役目となります。もし、Key Resultsの指標が適当でなかった場合も、振り返りで適宜修正を加えることが重要です。
⑥測定と評価
当初に定めたOKRの一定期間を終えると、測定と評価をします。目標達成率を数値化し、上長が部下にフィードバックをしますが、このときに大切なのは達成率よりもプロセスを評価することです。Key Resultsを達成するために、どのような取り組み、創意工夫を行ったのか評価し、課題は次回に解決できるように反映します。このサイクルを繰り返すことで、組織・個人の成長をスピーディに促進できます。またOKRの測定と評価は、人事評価とは関連付けないのが一般的です。
OKRを導入するメリット
OKRの概要や導入ステップを解説しましたが、実践することで組織にどのようなメリットがあるのでしょうか。
- 従業員のモチベーションの向上
- 組織と個人の目標の一致(一体感の創出)
- 目標設定時間の短縮
- 短期間での成長サイクル
- コミュニケーションの円滑化 など
OKRにより、組織と部署・チーム、個人の目標が関連付けられるため、組織としての目標を可視化でき、役割も明確になります。その結果、組織としての一体感が生まれ、従業員も企業への貢献を把握でき、モチベーションの向上につながります。
経営目標と連動しているため、各メンバーの目標設定も慣れてくると、短時間で設定ができるようになります。
さらにOKRは、短期間での目標サイクルで動き、達成困難な目標への達成を目指すため、各メンバーの成長をスピーディに促進できます。上長から部下への目標達成サポートで、コミュニケーションも円滑になるでしょう。
OKRの導入事例と最新ツール
OKRは、Googleが採用したことで日本での認知が拡大しましたが、その始まりはアメリカのインテル(Intel)と言われています。経営不振に陥っていた同社はOKRを導入したことで、業績をV字回復させることに成功しました。
その後、Google、Facebookなどシリコンバレーの巨大ベンチャー企業の多くが取り入れたことで、変化に即座に対応できる目標達成のフレームワークとして、日本でも広く浸透しています。株式会社メルカリ、SanSan株式会社などの成長企業を中心に積極的に採用されるようになり、導入事例は数多く存在します。
今回、解説したOKRの概要やステップはあくまで一般的な方法論です。大きく成長している企業は、OKRのフレームワークに自社の理念やビジョンの軸を融合させるなど、企業の価値観に沿うようにアレンジをしています。企業によってはOKRがフィットしない場合もありますので、導入の際には目的や課題を明確にする必要があります。しかし、経営目標からブレイクダウンする手法は非常に有効であるため、KPIやMBOと組み合わせるなどの考え方も効果的です。
現在、OKRは浸透してきているため、HRテックでも可視化・一元管理できるサービスが増えてきています。制度を導入しても、うまく運用できなければ意味がないので、OKRを導入したものの成果が上がらないといったケースでは、ツールの導入も検討してみるといいでしょう。
まとめ
常に変化が必要とされる現代においては、各従業員自身が中長期と短期の目標を定めておかなくては、組織の変化も難しくなります。また組織の目標と従業員の目標もリンクしていない場合、全社として同じ目線で活動できません。そのためOKRの手法は、汎用性が高く、効果的です。
しかし運用にあたっては、旧来型の価値観を持った組織では、定着までに時間がかかるかもしれません。例えば、上司は部下にノルマを課すのではなく、部下が目標を達成するためのサポートをしなくてはいけません。よって、部下の成長を実現できる上長が評価されます。とは言え、浸透・運用が難しいのはOKRに限りません。
目標達成意識が低いなどの課題がある場合、まずは導入してみることをおすすめします。