労働人口が減少し続ける日本。働き手が少なくなるにも関わらず、日本の労働生産性はG7の中で最も低く、国際競争力も低下しています。こうした国内外の経済環境が逼迫される背景もあってか、国内では労働環境が悪化。長時間労働の問題が深刻化しています。
労働環境や生産性悪化の課題を解決するために、2016年8月に発足した内閣改造では国家戦略として「働き方改革」を打ち出し、企業の競争力と価値、生産性を高める政策が話題となっています。その流れを受け、昨今では在宅でも仕事ができるテレワークや副業・兼業を認める企業も増えてきました。
働きやすい環境づくりを進める企業が増える一方で、働き方改革の推進に課題を抱えている企業も多いようです。そこで今回は、ワークスタイル変革を推進する目的とその課題、そしてその解決策についてご紹介したいと思います。
そもそも「働き方改革」とは?その目的について
「一億総活躍社会」の実現に向けて、安倍内閣は2016年9月に、内閣官房に「働き方改革実現推進室」を設置。同月27日に開催した第1回「働き方改革実現会議」では、以下9つの項目を検討することを表明しています。
- 同一労働同一賃金などの非正規雇用の処遇改善
- 賃金引き上げと労働生産性の向上
- 時間外労働の上限規制のあり方など長時間労働の是正
- 雇用吸収力の高い産業への転職・再就職支援、人材育成、格差を固定させない教育の問題
- テレワーク、副業・兼業といった柔軟な働き方
- 働き方に中立的な社会保険制度・税制など女性・若者が活躍しやすい環境整備
- 高齢者の就業促進
- 病気の治療、子育て・介護と仕事の両立
- 外国人材の受け入れ問題
この中でも特に政府が注力しているのが、「長時間労働の是正」と「正規・非正規間の労働格差の是正」。これらを実現するためには、
- 出生率を高め労働人口を増やす
- 女性・高齢者の就職を推進し、働き手の幅を広げる
- 一人ひとりの労働生産性を向上させる
上記3つの施策が不可欠となります。
政府のこうした取り組みを受け、在宅ワークなど社外で働くテレワーク、社内の席を固定しないフリーアドレスなどを導入する企業が増えてきました。しかし、こうした改革には課題も多く、現実にはワークスタイル変革が進んでいない企業も多いようです。
なぜワークスタイル変革が進まないのか?対策は?
では、企業がワークスタイル変革を推進するにあたってどんな課題があるのでしょうか。解決策とあわせて例をご紹介します。
課題1:経営層が昔の価値観を引きずっている
企業のワークスタイル変革を阻む一番の壁が、経営層の意識変革がされていないことです。経営者によっては、「ワークスタイル変革を推進することで、利益が減ってしまうのでは」と反発してしまう人も多いようです。
「俺が若い頃は寝る間も惜しんで働いたんだ」
「今の若い連中は根性が足りない」
「眠らずに働くのがかっこいい」
こうした価値観を未だに引きずった経営者がいる会社は、ワークスタイル変革が推進しづらい傾向にあるようです。結果、成果を出している人よりも、長時間働いている人が評価されるような風土が醸成されてしまい、帰りづらい雰囲気が社内に蔓延してしまいます。
<解決策>
トップの意識を変えるために、長時間労働の是正が会社にとってどんなメリットがあるのか、長時間労働が会社にどんなデメリットをもたらすのか、ロジカルに説明する必要があるでしょう。たとえば、IoTやシステムの導入によって生産性を高めたい場合は、そのツールが自分たちの事業やビジネスにどう貢献するのか、ROI(投資利益率)はどうなのか、ということをしっかりと説明できるよう準備してから、経営者を説得しましょう。
課題2:従業員が残業代をあてにしている
残業代をあてに定時を過ぎても会社に残っている人が世の中には一定数いるようです。当然、仕事が終わらずに残業している人が大半でしょうが、なかには「残業代が出ないと、生活が厳しくなる」という理由で、積極的に残業をする人も。こうした従業員に「早く帰るように」と呼びかけるだけでは、根本的な解決にはならないでしょう。
<解決策>
こうした雰囲気が蔓延している会社に共通しているのは、働き方改革を推進する部署がないことや、生産性の高い社員を評価する制度がないこと。責任を持ってワークスタイル変革を推進するセクションの設置を促したり、生産性の高い社員を評価したりする人事制度の導入が必要です。
たとえば、ITベンダー大手企業のSCSK株式会社が実施した人事制度の改定では、全正社員に残業時間の有無に関わらず、34時間または20時間の残業手当相当額を従来の月給に一律上乗せして支給しています。こうした制度を導入することで、残業手当のカットを気にすることなく、効率的な働き方を従業員は追求できるでしょう。
課題3:昔ながらの慣習やルールが多い
- 目的のないダラダラとした会議
- 長すぎる雑談
- 無駄な資料づくり
- 「上司や周りが帰らないから」という理由でする残業
- デジタル化できることをアナログで行う
など、「何のためにこの作業をしているのだろう」「何の役に立つのだろう」ということを「昔からの慣習だから」という理由で続けている職場も多いことでしょう。こうした文化はワークスタイル変革を妨げる原因となるため、改善が必要です。
<解決策>
たとえば、会議時間を圧縮するのであれば、事前に目的、所要時間、共有する情報、会議までに考えてきてほしいことを共有しましょう。事前準備をすることによって、会議時間は大幅に圧縮されます。そして、こうした業務改善や生産性を向上させる施策を、経営陣と共にルール化することが重要です。ただ単にルールを決めるだけでなく、PDCAサイクルを回し、日報などで日々の進捗を報告するなどして、社内に改革意識を浸透させていくとよいでしょう。
一律のワークスタイル変革ではなく、多様な価値観に対応することが大切
ここまで読むと「ワークスタイル変革=残業時間圧縮」と思われるかもしれません。しかし、「残業削減だけ」を目指すことがワークスタイル変革の本質ではありません。たとえば、「プレミアムフライデーは15時以降の残業禁止」というルールを社内で徹底したとしましょう。しかし、結局のところ社員みんなが近くのカフェや自宅に仕事を持ち帰って作業をしていたら、プレミアムフライデーの意味がありません。BuzzFeed Japan Newsが報じた『「働き方改革が楽しくない」サイボウズが「お詫び広告」を出した理由』でも、画一的なイクメン、女性活用、ノー残業といった右向け右的な働き方改革に疑問を投げかけるサイボウズのコメントが紹介されています。
NIKKEI STYLEの『「落ち着け!経営者」その働き方改革、間違ってます』で特集された白河桃子氏とサイボウズ青野社長の対談の中でも、働き方改革とは均一的に、ITを導入することやただ残業時間を削減するだけでなく、「多様な価値観にシフトしていくことが重要」と語られています。意欲的にバリバリ働きたい人は労働時間を気にせずバリバリ働く。時短で働きたい方は、労働時間を短くする。一律で労働時間を短くするのではなく、働く人一人ひとりの価値観や都合に合わせた多様性を踏まえた改革が、今求められているのかもしれません。