ITの開発投資や運用にかかる、ITコスト。多くの情シス担当者が、年々膨れ上がるそのコストの削減に追われていることでしょう。
ただひとくちに「ITコスト」と言っても、その範囲は膨大。PCの買い替えにかかる費用からソフトウェア開発をベンダーに依頼する予算、月々の保守運用にかかるコストまでさまざま。
一体、どこから手をつけたらいいのか……。そう思うのも無理はありません。 そこでこの記事では、経営者の要望を受けてITコスト削減に乗り出した担当者のために、まず取り組むべき7つの方法をご紹介します。
リーダーシップを発揮できるよう、仕組みを整える
まず情シス担当者がコスト削減のために取り組むべきは、ITに対しての投資とその運用について、すべて情シスで管理できるようにすることです。つまり、他部門が行う戦略なきIT投資や運用を防ぐところから始まります。
なぜなら、部門毎のニーズによるその場しのぎの対応や投資が繰り返されてきたことによって、その投資費用とそれを運用するための費用として無駄なITコストとなってしまうからです。もちろん、それぞれの部門にとっては必要な投資だったかもしれませんが、戦略性がなく社内で統一されていないIT投資は、企業のグロースに必ずしも貢献しません。
そこで必要とされるのは、情報シス担当者がリーダーシップを取り、トップダウンで改革を進めることなのです。この段階においては、情シスは、他部門からの要望をときにははねつけ、強いリーダーシップで投資判断を行わなければなりません。
その際、単にコストを削減したいからといって、一律に全部門の予算を削ってはなりません。全社の中長期のIT戦略に沿った重要度・緊急度を示し、削減を進めることが大切です。IT投資をする際のフローとルールを策定し、それに従い、厳正に改善策を実行していくことが求められるのです。
このように、ITに関わるすべてのことに情シス部門が強い権限を持つことで、IT戦略に他部門の思惑が入ることを防ぎ、迅速にコストカットを進めていく仕組みが整うはずです。
ITコストを可視化する
実際にかかっているITコストを可視化することは、非常に重要です。ITコストを可視化しなければ、「かかりすぎているから減らしてほしい」という経営者の要望に対して、その必要性を議論することもできません。そもそも、現状でのITコストは、「この業種、この規模の企業で、本当に多すぎるのか?」という検討から始めなくてはなりません。
このときに意識する必要があるのは、ITコストにおける「有効性」と「効率性」です。「有効性」とは、ITにおける投資がどの程度効果をあげているものかを表す指標です。IT投資の目的は、システムの導入だけとなってしまいがちですが、導入したシステムによって実際にどのように改善されたのかを「有効性」によって測定します。この「有効性」のチェックがなければ、とっくに不要になっているシステムの保守運用に多大なコストをかけていても気付くことができません。
一方の「効率性」とは、必要以上のコストを戦略目標実現のためにかけすぎていないか測る指標です。ITコスト削減のためには、システムを導入した中で効率性の悪い部分から削らなくてはなりません。これは前章で述べた、「IT戦略に則ったコスト削減」という考え方と同じです。「効率性」に基づいて優先順位を決めなければ、企業の生産性自体、ITコストが減る以上に減退する可能性もあるのです。
ノンコア業務をアウトソースする
近年、多くの大手企業がイニシャルコスト削減や業務効率化を目的に導入しているBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)。自社業務の一部または全てを外部に任せることで、委託側は注力すべき業務に専念でき、業務の効率化や高品質化、コスト削減などを実現できます。
アウトソースできる業務はITシステムの運用・開発、顧客対応、人事・経理・総務業務など幅広いため、マルチタスクでコア業務に専念できない情シス担当の方はBPOの活用を検討するといいかもしれません。以下、アウトソースできる業務例をご紹介します。
サービス例
■サービスサポート
トラブル対応、業務問い合わせ対応、運用サポートデスク、Q/A対応など
■セキュリティ
メールセキュリティ、Webセキュリティ、サーバセキュリティ、セキュリティポリシーの策定、セキュリティ監視など
■アプリケーション
情報・業務系アプリケーション開発、保守、パッケージ提供など
■ホスティング
機器提供、ミドルウェアなどの一部ソフトウェアの提供、サーバOSなどのソフトウェア提供、運用監視など
■データ入力業務
名簿入力、名刺入力、アンケート入力など
■その他
事務処理、DM発送、事務局運営代行、ECサイト運営代行など
サーバーをクラウド化する
サーバーをクラウドサービスでの運用に切り替えれば、自社にサーバー機器を置く必要がなく、信頼性と堅牢性が高い外部のデータセンターに自社データを保管できます。初期費用は格安で、月額費用も数千から数万円なので、サーバーにかかる保守運用費用の削減にも有効です。ただし、情シス担当者は、導入にあたってサービスの仕組みやサービスレベルがIT戦略に沿っているかを分析し、最適な選択をする必要があります。サービスの選択によっては、情報漏洩などのセキュリティリスクが高まるケースもあるので、自社に合わせた運用サービスレベルの細かいカスタマイズも視野に入れて慎重に導入を検討した方がいいでしょう。
リースを活用する
情シス担当者が策定したIT戦略の方針によっては、初期費用を抑えるために、PCなどのIT機器をリースでまかなうという選択肢もあります。リースは長期的にはコストがかかりますが、組織や事業の急な変化にも対応できますし、アウトソーシングと同様、常に最新の機種を活用することも容易というメリットがあります。
さらに、リースには、必要なときに必要な分だけ契約できることと、アップグレード(あるいはダウングレード)が簡単なこと、そして何よりイニシャルコストを削減できたり、会計上の節税ができたりするメリットもあります。
アウトソーシングにかけているコストを見直す
情シス担当者は、アウトソーシングにかけているコストの見直しについても忘れてはいけません。たとえば、システム開発を丸ごと外注してしまうと、上流工程の費用も見積もられてしまうため、結果的に割高になってしまうこともあります。要件定義など上流工程は自社でまかない、タスクを単純化した上でアウトソースした方が、ディレクション費などを抑え、外注コストを抑えることができます。
また、アウトソーシングでコスト削減するためには、受託事業者向けにシステム開発に必要な要件をあらかじめまとめた「RFP(提案依頼書)」を作成することも有効です。RFPを作成することで、受託事業者に対して、自社がシステムを通じて達成したい経営戦略の目的を明確にして妥当な予算と納期を提示して、外注コスト及び低品質や納品遅れなどのリスクを最小限にしましょう。
システムの統合・集約・標準化を検討する
情シス担当者がリーダーシップを発揮することができれば、社内でバラバラになっている類似システムを統合することも可能です。自社内だけでなく関連会社も巻き込めれば、大きなコスト削減ができます。ただし、範囲が広がる分だけ、その推進は困難になります。
なぜなら、これまで部分最適で進んでいたシステムを全体最適にするため、どうしても関係者間の摩擦は生まれるからです。そこでの摩擦を最小限にするためには、すでに説明したように、事前にIT戦略と目標達成の指標を示したうえで、IT投資(及び削減)のルールを明確化することです。
ルールが明確であれば、スムーズに関係者間の調整を進めることができますし、同時にシステムの統合・集約・標準化の検討も低コストで推進することが可能になるでしょう。
また、システムの統合はIT機器購買の場面でも有効です。部門レベル、担当者レベルでまちまちだった契約を一括化し、RFPの要件に盛り込んでコンペを経て、受託事業者を決められれば、集中購買のメリットも享受できるでしょう。
まずはできることから取り組んでみよう
ここまで7つのコスト削減案をご紹介しました。このほかにも、社員へのコスト意識の徹底やIT活用におけるQC活動や教育・トレーニングによるノウハウ共有によるコスト削減などさまざまな方策がありますが、まずはできることから取り組み、コスト削減を目指してください。情シスが変われば、会社が変わる。それぐらい重要な役割を担うポジションだけに、やりがいも大きいはず。守りに入るのではなく、攻めに転じて、存在感をアピールしてください。