インターネットを活用するために必要なWebブラウザ。最近でこそ、Google発のChrome(クローム)やMozilla提供のFirefox、Apple製Safariなど、さまざまなブラウザが提供されていますが、10年前を振り返ってみると、日本では多くの方がMicrosoft提供のInternet Explorer(以下、IE)を利用していました。2021年6月現在においても、IEは国内ブラウザシェアトップ5に入っています。
Source: StatCounter Global Stats – Browser Market Share
そのIEですが、2021年5月19日に、サポート終了する旨とその具体的なスケジュールが発表されました。具体的には、Windows10におけるInternet Explorer 11(以下、IE11)のサポートが2022年6月15日に終了します。また、Microsoft 365および他アプリでのIEサポート終了については、2021年8月17日となっています。一方で、後述するMicrosoft EdgeのIEモードは、2029年までサポート継続する予定です。
本記事では、IEサポート終了の理由や具体的なスケジュール、対象OSの整理、各企業で求められる対応などについてお伝えします。
Internet Explorer(IE)サポート終了の理由
まずはIEが提供終了となった理由について見ていきましょう。
Microsoft Edge(IEモード)の存在
基本的にマイクロソフトは、IE11の後継Webブラウザである「Microsoft Edge」(以下、Edge)の利用を推奨しています。Edgeは2015年7月から提供開始されたWebブラウザで、Windows版以外にも、iOS版やmacOS版、Android版、Linux版など、マルチプラットフォーム・ソフトウェアとして配布されています。
Edgeには「IEモード」という、いわゆるIE11との互換モードが存在します。これは、既存Webサイトとの下位互換のためにIE11が必要なユーザー向けに提供されているブラウザモードです。
IEがなくても、EdgeのIEモードを使えるからこそ、マイクロソフトはIE11サポート終了への舵を大胆に切ることとなりました。
Microsoft Edgeのセキュリティレベルの高さ
Edgeの特徴としてあげられるのが、セキュリティレベルの高さです。
マイクロソフトによると世界では毎秒約579件のパスワード攻撃が仕掛けられており、これに対応できるブラウザとして、Edgeではフィッシングとマルウェアを最高水準で防御できるMicrosoft Defender SmartScreenを提供しています。NSS Labが実施した独自調査(英語)によると、Edgeに組み込まれたSmartScreenは、ChromeのSafe Browsingよりも多くのフィッシングとマルウェアをブロックしたと報告しています。
https://query.prod.cms.rt.microsoft.com/cms/api/am/binary/RWASN1
またEdgeには、ダークウェブをスキャンして個人情報の漏洩を検知する「パスワードモニター機能」も搭載していることから、高い安全性を担保したWebブラウザだといえます。
Microsoft Edge利用による生産性の向上
さらに、Edgeを活用することで生産性の向上が期待できます。
Edgeでは、タブを複数開きパソコン動作が遅くなった際に、「スリーピングタブ」を利用してリソースを解放することができます。また、そもそもタブを開きすぎて視認性が下がっている場合は、画面横の垂直タブに移動でき、「お気に入り」機能の応用として、Web情報を簡単に収集・整理できる「コレクション」機能も搭載されています。
さらに、複数のプロファイルを設定できるので、仕事用とプライベート用でアカウントを切り替えてブラウザを使い分けることもできるでしょう。
今後、Internet Explorer (IE)を使用するリスクは?
一方でIEを手放したくても、IEを前提にしたWebシステムを使うなどして、まだIEを使い続けざるを得ないケースもあるのではないでしょうか。ここでは、IEを使い続けることのリスクについて見ていきます。
情報漏洩の危険性
最も致命的なリスクは、使用し続けることで情報漏洩の危険性が増大する点です。サポートが終了してもIE11自体は使用できますが、セキュリティ面で何か問題が発覚したとしても、公式のサポート・修正対応がなされません。よって、セキュリティホールが残り続け、その分情報漏洩の危険性も高まることになります。
新しい技術に対応できない
もう一つ、サポートが終了するということは新機能の開発もなくなることを意味します。その分ブラウザとしての陳腐化は加速し、最新技術に対応できなくなります。よって、利用企業としては様々なシステム施策に遅れをとってしまうことになるでしょう
Internet Explorer (IE)サポート終了までの具体的なスケジュール
ここで改めて、2029年のIE完全終了までのスケジュールについて説明します。OSとの関係によってサポート終了時期が異なるので、注意が必要です。
デスクトップアプリは2022年6月15日に終了
まずは先述のとおり、2021年8月17日にMicrosoft 365および他アプリでのIEサポートが終了します。この時点では、SAC(半期チャネル、半期に一回新バージョンが適用されるもの)で配信されるIE11 デスクトップ アプリケーションとして、Windows 10 デスクトップ SKU(20H2 以降)およびWindows 10 IoT Enterprise(20H2 以降)におけるIE11がサポート終了することになります。詳細については、こちらのマイクロソフト社の公式ブログをご参照ください。
なお、Windows 10に搭載されているIEについては、サポート終了後はMicrosoft Edgeにリダイレクトされる予定です。その上で、IEでしか見られないWebサイトについては、Edgeの下位互換となる「IEモード」で閲覧可能となります。
2029年までは完全に無くなるわけではない
IEを使い続けなければいけない企業に向けた「IEモード」の提供は、2029年まで続くと発表されています。現在、一般提供されているOSバージョンの具体的なWindowsサービス終了日は以下のとおりで、これに伴ってIEモードの提供も終了する予定です。
プラットフォーム | Windowsのリリース バージョン | サポート終了日 |
---|---|---|
Windows クライアント | Windows 10 Enterprise バージョン 20H2 | 2023年5月9日 |
Windows 10 Enterprise バージョン 2004 | 2021年12月14日 | |
Windows 10 2019 LTSC | 2029年1月9日 | |
Windows 8.1 | 2023年1月10日 | |
Windows 7 (要 ESU) | 2023年1月10日 | |
Windows Server | Windows Server 20H2 (SAC) | 2022年5月10日 |
Windows Server 2004 (SAC) | 2021年12月14日 | |
Windows Server 2019 (LTSC) | 2029年1月9日 | |
Windows 10 IoT | Windows 10 IoT Enterprise バージョン 20H2 | 2023年5月9日 |
Windows 10 IoT Enterprise バージョン 2004 | 2021年12月14日 | |
Windows 10 IoT 2019 LTSC | 2029年1月9日 | |
Windows Server IoT 2019 | 2029年1月9日 |
なお、上記のサポート終了以降にOSセキュリティ更新プログラムを受け取るには、ESU(延長セキュリティ更新プログラム)のライセンスが必要になる場合があるので、併せて注意が必要です。
参考:https://blogs.windows.com/japan/2021/05/19/internet-explorer-11-desktop-app-retirement-faq/
Internet Explorer (IE)サポート終了により企業に求められる対処
IEのサポート終了は、以前よりマイクロソフトから発表されており、計画的に進んでいます。具体的には、Edgeが発表された2015年から、後継ブラウザである旨と併せてIEサポート終了の予告もなされていました。よって、その発表に合わせる形で対応を進めてきた企業も多い状況です。
逆に捉えると、IE使用を前提とした古い業務アプリケーションを使い続けている企業であっても、今回のサポート終了に対して具体的な対策を講じる必要があります。ここで対応を怠ると、先述したようなセキュリティリスクや、最新技術に対応できないといった事態が起こりうることになります。
IEモードへの移行と影響範囲の洗い出し
基本的には、使用するWebブラウザをIE11からEdgeのIEモードに移行することを前提に考えて、その影響範囲を見積もるようにしましょう。どのWebシステムがIE11使用の前提となっているのか、それはEdgeのIEモードでも動作するのか、一部しか動作しないのであればどの部分が動作しないのか、等を情報システム部門と現場部門が一体になって調査を進める必要があります。
影響範囲の洗い出しと対応方針が固まったら、具体的に移行手順を進めます。各パソコンに入っているIE11のアンインストールを行い、Edgeをインストールして、必要な設定を進めます。もちろん、このタイミングでEdge以外の、ChromeやSafariといった別ブラウザを選択することもあるでしょう。
マイクロソフトからのサポートも活用しよう
IE11からEdgeへの移行を進める際に、日本マイクロソフトからの支援を受けることができます。企業向け「FastTrack」と呼ばれる、Windows 10 Enterpriseを150シード以上展開しているユーザー向けに提供されるサービスを利用すると、追加料金不要で移行サポートが受けられます。
特に、FastTrackの中でもアプリ互換性サポートを追加費用なしで利用できる「App Assure」においては、IE11で動いているものをEdgeでも機能することが約束されており、何かしらの互換性の問題が発生した際には、展開準備ガイドを追加料金なしで受けられます。ただし、IEモードではない状態でEdgeにて機能するようなコード変更を行う場合は支援対象外なので、注意しましょう。
まだ未対応の企業は、早急に着手すべき
今回は、2021年5月19日に発表されたIE11のサポート終了にまつわる公式情報と、企業が進めるべき対応内容について説明しました。
1995年にリリースされたWindows95から、今年で26年。規定ブラウザとして標準搭載されたIEのサポート終了に伴って、マイクロソフトでは次世代ブラウザであるEdgeへの移行啓発を積極化しており、各企業の対応も進んでいる状況です。
まだ具体的な対応ができていない企業は、早急に着手しましょう。