日本マイクロソフト株式会社は、働き方の改革が重要視されるようになる前から、積極的に働き方改革を実践し、テレワークを取り入れてきた企業です。すでに「いつでも、どこでも」という働き方は当たり前となっており、2017年7月からは、「働き方改革第二章」として、さらなる効率化と働きがいを追求しています。今回はその働き方改革への取り組みを日本マイクロソフト株式会社 コーポレートコミュニケーション本部 本部長 岡部 一志氏に伺いました。前編と後編に分けてお届けします。
働き方改革の実施は2011年。今では経営の「ど真ん中」に
今や働き方改革の牽引役として知られる日本マイクロソフト。2016年には800以上の法人を巻き込んだ「働き方改革週間」を開催するなど、外部への働きかけも盛んに行っています。その土台にあるのは、自社の取り組みと、その重要性の認識。
「我々が全社的な働き方改革に着手したのは2011年。現在の品川本社に移転したことが大きなきっかけでした。働き方改革が今ほど注目されていない頃でした。社員の働き方をフレキシブルにし、多様性を受け入れることで社員の業務効率が向上します。これは結果として、企業の成長につながるでしょう。社員がワクワクしながら働き、『この会社は働き甲斐を感じる』と思うことができれば、社員にとっても会社にとってもプラスになるはずです。」(岡部本部長 以下同)
現在、働き方改革はこれまで以上に重要視されるようになっているそうです。経営上「もっとも、ど真ん中の重要テーマである」という認識です。
責任を果たせるのであれば、働く場所は関係ない
日本マイクロソフトでは、「テレワークを取り入れていない人の方が圧倒的に少ない」と言い切れるほど、社外でも仕事をするスタイルが浸透しています。週に少なくとも1、2回は、テレワークをしている人が多いとのこと。岡部氏自身も、週に1日は会社に来ない日を作るように心掛けており、同じように本部内でも毎週水曜日は在宅でテレワークをするメンバーもいるとのことです。
「2016年5月の就業規則変更までは、在宅勤務を毎週行うためには、2週間前までに手続きを行い、決まった制限の中で、実施していましたが、現在は申告や承認といった特別なプロセスはいっさいありません。場所や、日数、頻度などにも制限はありません。」
極端に言えば、週5日間まったく出社しないことも可能、そしてそれだけで「怠けている」と判断されることはない━━。何らかの事情がある社員もいますが、本人がその働き方を選んでいるというケースもあり、実際にこの制度を利用し、地方に移住してリモートワークを実行している社員も存在するといいます。オフィスに出社する必要があるときは、逆出張のようにして東京に来れば、何の支障もないのです。
「新たな制度は、業務の責任を果たせるのであれば場所は関係ないというもの。出社ではなく、あくまで成果が重要だという考えです。これを自由と表現すると、ただ楽をしたいだけという印象になりがちですが、そうではありません。フレキシブル、という言葉を使うのが良いと思います。」
フレキシブルな働き方を推奨する背景には、「社員全員が会社に来る、会議は会議室で行うと、本当によいパフォーマンスを発揮できるのか?」という疑問、問題意識があるといいます。
「フェイス トゥ フェイスのコミュニケーションに勝るものはない、というのは揺るぎありません。ただ単に顔を合わせれば良いというわけではない、とも考えています。ワークとライフという観点で考えると、家で仕事をする方が気分的に楽と感じる人もいます。しかし、我々は楽をしてもらうためにテレワークを導入しているわけではありません。会社は、個人の業務の効率を上げることで生産性を上げ、成長に繋げなくてはいけない。そのためのフレキシブルな働き方です。」
裏を返せば、在宅で仕事をする日だからと言って、同僚や上司が気を遣うことはない、ということです。上司が出社する必要があると判断すれば、会社での業務に変更となることもあると言います。個々人の裁量で行うフレキシブルな働き方と同時に、「仕事である以上、責任を果たすのは当然」との認識が広がってこそ、正しい働き方改革が進められる、ということでしょう。このため、リモートワークをする自由を堅持するために、どこで仕事をしても責任を果たすためのスキルアップが求められます。
「私の場合は、オフィスに来ないときは、来ない方がより生産性の高い仕事ができるはずであると考えています。例えば、本社に提案する議題を考えたり、戦略的なこと、社長への提案、チームで取り組む新しい業務について集中して考えたりするには、会社よりも自宅の方が集中できます。より生産性を高めるのに適した働き方や場所が、同じようなことは、どの社員にもあるでしょう。」
マインド変革で、日本人的感覚をリセットする
リモートワークは、時間の有効活用を自主的に行うことが必要となります。しかし、日本人の感覚では、時間より気配りを重視すべきと考え、顔を合せることに重きを置く傾向があります。この感覚、あるいは商習慣の問題は、いったいどのようにして解決したのでしょうか。
「日本人は、時間通りに行き、目の前で丁寧に説明するのが当たり前という感覚を持っています。そこで、社外にいる場合、会議のために会社に戻るのは時間の無駄という考え方へシフトさせました。会議の参加の仕方が変わってきたのです。今では、社長に説明や提案をする会議の際でも、オンラインで参加することがあります。」
時間の無駄を重視する感覚が身に付けば、会議のスタイルもおのずと変わる。今では、フェイス トゥ フェイスの会議の開催の際に、同時にオンライン会議も設定することが基本になっているとのこと。会議室に来るのかオンラインで参加するかの判断は、本人が業務効率を勘案して決定することになっています。
「以前の会議は、参加者のスケジュールを調整して、さらに会議室の空き状況を確認してセットしていました。すると、本当は明日にも話をして、すぐに取り決めたい案件でも、スケジュール調整ができないために5日後になるということもありました。これは実に無駄なことです。今は、とにかく最短距離でコミュニケーションして、最短距離でつながって、最短距離でディシジョンするという考え方になっています。」
業務の効率を高めるためには、個人が無駄を省くだけでなく、組織全体が意識改革を起こし、それを実践することが重要であると言えるでしょう。
働き方の選択肢が広がれば、将来の不安も払しょくできる
すでにさまざまな働き方を実践している日本マイクロソフトですが、働き方の改革により、その選択肢がより広がっていると言います。
「事情があって、“9時から18時迄”という働き方ができない人もいます。例えば、子供を保育園に預けているために、17時には迎えにいかなくてはならないケースです。この場合でも、16時に仕事を終わりたいわけではなく、たまたま17時に迎えに行く必要があるから16時に一回仕事を終える必要があるだけかもしれません。保育園に迎えに行って、夕食を食べて、再び20時からは働けることもあるでしょう。本人の意思で、フレキシブルに働けるということは、こういった事情に配慮した働き方ができるようになる、ということです。」
社員を対象に行ったアンケートでは、「将来、この仕事を続けられるのか」といった不安を抱えている人が、78%もいたと言います。その理由は、介護。この問題に関しても、フレキシブルな働き方をする素地があれば、新たな働き方を模索することができます。実家に帰って、介護をしながら仕事をするのも選択肢の一つ。10割の仕事ができなくても7割の仕事ならできる場合、仕事を辞めるという選択をする必要はないのです。「安心感をもって業務に携われるということは大きい」
リモートワークなどを活用したフレキシブルな働き方は、働く人と企業、双方に有益に作用すると言えるでしょう。
◆
後編では、リモートワークが当たり前になったことで起こっている問題と、さらなる効率化を目指すための取り組みを紹介します。
【後編】日本マイクロソフトが推進する働き方改革の最前線-テクノロジーと商習慣のバランスが取れる、新しいハードワーカーとは
お話をお伺いした方
日本マイクロソフト株式会社
コーポレートコミュニケーション本部 本部長 岡部 一志氏
プロフィール
1968年 愛媛県今治市生まれ
1987年 慶應義塾大学入学で上京
1991年4月 横河・ヒューレット・パッカード株式会社(現 日本ヒューレット・パッカード)入社 広報室 配属
1999年11月 マイクロソフト株式会社(現 日本マイクロソフト)入社 広報グループ 配属
2000年7月 広報グループ長
2005年7月 広報部長
2010年7月 コーポレートコミュニケーション部長
2016年9月 コーポレートコミュニケーション本部長