情報の共有化に注力することで、働き方改革を推し進めてきた株式会社ecbeing。ナレッジの属人化による弊害を回避するための取り組みに端を発し、4~5年に渡ってさまざまなITツールの活用を行ってきました。「思った以上の成果があった」と評価するに至った取り組み内容と、その成果を前後編の2回にわたって紹介します。
お話をお伺いした方
森 英一氏
株式会社ecbeing
企画制作本部 ディレクション第2部 部長
ノマドワークを可能にするパソコンの使い分け
株式会社ecbeing(以下、ecbeing)は、国内通販サイト構築実績9年連続No.1の企業です。単にECサイトを構築するだけでなく、集客や接客インターフェイスの最適化、リテンションマーケティングなど、ECサイト運営に必要なノウハウをワンストップで提供しています。その最前線となるのが、今回話を伺った企画制作本部。現在80名が所属する部署で、働き方改革を積極的に推進しています。
客先に出向く人材には、デスクトップパソコンとノートパソコンの2台を支給し、用途に合わせて使い分けています。社外に出るときにはノートパソコンを持ち出し、VPN接続することでセキュアな環境でアクセスできるインフラを整えているのです。
「外出が多ければ、いちいち会社に戻らず、ノマドワークできる場所で仕事をするケースが増えています。お客様の管理画面にアクセスする以外のことは、おおよそ社外でできるようになっています。」(森、以下敬称略)
「データはローカルな環境に置かず、共有サーバーに保存することで、万が一紛失や盗難が起こった場合でもセキュリティインシデントを極力防ぐ利用ルールを徹底しています。」(森)
”ナレッジの属人化”改善に繋がった情報管理方法
実は、この「データを共有サーバーに置く」というルールは、セキュリティー面への貢献だけでなく、ecbeingの働き方改革を支える大きな軸となっています。
「企画制作本部は、元々は少人数の部署でしたが、4~5年前からどんどん人が増えていき、今では80名の規模です。案件が少ないときは、クライアントとのやり取りを自分たちのスキルでやっていたのですが、人数が増えナレッジの属人化という問題が出てきました。そこで、各自が持つ情報をできるだけ共有していくために、サーバー内に共有フォルダを置き、そこにデータを保存するようになったのです。」(森)
ナレッジの属人化は、多くの企業が抱える問題のひとつではないでしょうか。担当者が病欠した場合の対応も難しいですが、退職してしまえば、新たな担当者はイチからキャッチアップしなければなりません。企業の武器となるはずのノウハウが蓄積されないのは大きな問題と言えます。
共有サーバー内には「プロジェクト管理」や「提案書」といった共有フォルダを作成し、関連ファイルを整理して保存するようにしました。これなら、誰でも簡単にファイルを確認することができます。同時に個人フォルダも用意し、ローカル環境にデータを置くことを禁じました。
「最初は、どのようなルールにすべきか分からないまま進めていました。『ローカルにデータを置いておく方が楽』という意見も多く、なかなか推進せずに苦労した時期もありました。」(森)
慣れ親しんだ手法を変えるのは簡単なことではありません。新しいツールを使い始めるにはエネルギーが必要であり、特に変更の必要性を感じていない人にとっては、「面倒なことを強制されている」としか思えないからです。
それでも、データを共有したいのに保存場所が分からず共有できないなど、トラブルが発生するたびに重要性を伝え、徐々に社内に浸透させていきました。これにより、今では共有フォルダと個人フォルダの活用が定着しています。部署の拡大によりプロパーが増えたことも要因の一つだと言います。
「新入社員は入社時の社員教育の中で、データの共有についても教わります。それもあって、今はしっかり社内に根付いています。データ共有に関するルールは多いと思うのですが、特に問題なく対応できています。」(森)
一方で、新たな課題も出てきました。共有サーバー内に使用しないファイルが数多く残ってしまうことです。
「サーバー容量は無限ではないので、棚卸整理を行っています。この先、案件化しないものや、とりあえず作成したものなどは期限を決めて呼びかけをし、削除しています。」(森)
さらにデータが膨大になりがちな個人フォルダに関しても、定期的に不要なファイルを削除するよう声掛けをし、情報を整理しているそうです。
案件管理からリソース管理までBacklogで効率化を図る
他にも、業務拡大をする中で案件管理を効率よく行うために、プロジェクト管理ツール「Backlog」を活用しています。
「以前は業務範囲が限定されていたこともあり、WEBディレクターが各自の裁量で案件のハンドリングを行っていました。ところが、集客やリテンションマーケティングも行うようになると、より多くの人がひとつの案件に関わってきます。そのステータス管理を効率よく行うために、Backlogを活用することになりました。」(森)
デザイナーやコーダーといった制作チームは、複数の案件に関わることが多く、新規構築のほかに、スポットの仕事も発生します。ecbeingでは、そういったリソースの管理にもBacklogを活用しています。これにより、個人のリソース状況を見える化したわけです。今では、ディレクターがBacklog上でデザイナーやコーダーのリソースを確認し、アサインすることで業務効率を上げています。
また、この取り組みにより、残業時間を減らすことにも成功しています。ecbeingでは、残業時間が多い場合、アラートが上がるシステムになっており、その際もBacklogを確認することで、たまたま残業が多かっただけなのか、案件を抱えすぎているのかの判断ができるため、業務の分散もしやすいそうです。
Backlogの活用が定着した今、その活用をより確実なものにするため、新たなルール作りが進められています。
「案件の中には、すでに受注できたものもあれば、『多分受注できます』という段階のものなど、確度にバラつきがあります。確度が低い段階でアサインすると、リソース不足になるケースもあるため、今は確度にABCといったランクを付けています。そのうえで、確度Cの案件に関しては、アサインしないといったルールを決めて運用しています。」(森)
精度の高いツールを活用する上で、常に求められるのは運用面での工夫です。ツールを導入して安心するのではなく、トライアンドエラーを繰り返し、実際に使っていく中で起きる不都合を改善していくことこそ、働き方改革に重要なステップなのではないでしょうか。
スケジュールの共有管理やペーパーレスの徹底
さらに、いくつかのITツールを活用することで、無駄を省き、業務効率を上げています。そのひとつが、スケジュール管理です。
「スケジュール管理は、サイボウズの『ガルーン』を使用しています。客先で次の打ち合わせ日程を決めるとき、参加させたいメンバーのスケジュールがその場でわかるので非常に便利です。」(森)
これまでは、次回の予定を決めるために会社に戻り、メンバーのスケジュールを確認する必要がありました。また、社内でスケジュールを調整しても、クライアントの都合が悪ければ、再調整が必要となってしまいます。その点、次回の予定をその場で決められることは、双方にとって便利な仕組みと言えます。
その他にも、以前からペーパーレスを徹底しています。「社内のミーティング用に資料を印刷することはありません。また、社内の申請関係は、同じソフトクリエイトホールディングスのグループであるエイトレッドの『X-point(エクスポイント)』を活用しています。稟議書等の書類関連はすべてペーパーレスです。」(森)
このX-point(エクスポイント)の活用は、会社にいなくても、すべての仕事ができるという現状に欠かせないツールです。単にペーパーレスによる紙資源の無駄を省くだけでなく、承認をもらうために書類を持ちまわる時間の削減にもつながっているからです。ペーパーレスと業務改善は、多くの企業の大きなテーマですが、その両方を叶えることができるメリットは大きいでしょう。
改めて整理すると、ecbeingは働き方改革を推進するために、主に以下の取り組みを行っています。
- パソコン2台の支給による使い分け
- 共有サーバーを活用したファイル管理
- 「Backlog」による案件・リソース管理
- 「ガルーン」によるスケジュールの共有化
- 「X-point(エクスポイント)」によるペーパーレス化
これらの取り組みにより、必要な情報を「いつでも、誰でも」確認することができるようになりました。仕事の進め方が大きく変化し、「仕事改革は想像していた以上に進んでいる」と言います。後半では、その効果を具体的に紹介しながら、働き方改革を推進する上で欠かせないマインド変革のコツにも触れていきます。