ビジネスPCに保存しているデータのバックアップは必須です。とはいえ、普段から適切にバックアップできていると断言できる人はとても少ないのではないでしょうか。
一つ一つはそれほど重要でなくても、資料や報告書などのWordやExcel、PowerPointファイル、画像、動画など、長年蓄積したデータの価値は計り知れません。パソコン(以下PC)が壊れたり、操作ミスで貴重なデータを失ってしまっては、後悔先に立たず。取り返しがつきません。
現在、データの保護を目的に法人向けのクラウドバックアップサービスを利用する企業も多くなってきました。そこで今回は、最適なバックアップ方法についてAOSデータ株式会社 代表取締役社長である春山洋氏にお話を伺いました。
100%バックアップを実現するには手軽で安いサービスが必要
AOSデータ株式会社は、1995年に創業したAOSテクノロジーズの100%子会社として設立。2000年より「ファイナルデータ」というデータ復元ソフトの販売や、企業がデータを紛失したり破損した時に、HDDやメモリーカードなどを解析し、データを復元するサービスを提供している老舗企業です。
知的財産の保護から世の中を騒がせるような事件が起きたときに、証拠品の携帯電話やPCからデータを復旧させる依頼を受けることもあるそうです。他にも、PCから他のPCへデータを移行するツールなどを手がけており、メーカー製PCにプリインストールされることもあります。
世間のデジタルリテラシーはこの20年でずいぶん向上したので、バックアップの重要性は常識となっています。外付けHDDも安くなっていますし、皆がバックアップをしていれば、データ復元事業のマーケットは縮小するはずです。PCの出荷台数も減少しているのですからなおさらです。しかし、マーケット規模は縮小していないそうです。なぜでしょうか?
「皆さん、新しいPCを手に入れると、最初はバックアップをするんです。しかし、PCに外付けHDDをUSBケーブルで接続して能動的にバックアップし続けるのはなかなかつづかないのです。その結果、三日坊主になったり、HDDの容量がいっぱいになったタイミングでバックアップを挫折したりすることが多いのです」(春山氏)
心当たりがある方やギクッとした方も多いのではないでしょうか。しかし、バックアップは必ず行う必要があります。その重要性を理解し、設備も手に入れられるのに、結局は面倒になってしまうのが、バックアップをつづけられない理由です。そして、いつかどこかでデータを紛失・破損し、AOSデータに相談が来るというわけです。そのようなニーズの高まりもあり、AOSデータはバックアップサービスも扱うようになりました。
法人向けに大容量で高速かつ低価格でのバックアップを提供
「PCはだいたい3〜4年くらいで壊れたり、OSがバージョンアップしたりしますが、その時までバックアップを続けている人はほとんどいません。どうしたら、100%バックアップしてくれるのだろうか、と考えて出てきたのが、クラウドにデータをバックアップするサービスです」(春山氏)
クラウドにバックアップする、というのは色々なメリットがあります。例えば、東日本大震災で認知度が広まったのは、PCと同じ場所にバックアップデータを保存しておくと、事故や災害により両方とも失ってしまう可能性が高くなるということです。
その点、ユーザーがハードウェアを用意する必要がないネット上に保存すれば安心です。しかし、以前はいくつかの問題点がありました。まず一つ目が、通信スピードが遅く、大量のデータを送受信するには時間がかかってしまうということ。二つ目は、サーバーの利用料が高額になってしまうことでした。
「6年前に、AWS(Amazon Web Services)上でシステムを組むことで、この速度と価格の問題をクリアできるのがわかり、『AOSBOX」を開発しました。こだわったのは、自動でバックアップして手間を省くというところと、安価にするというところです」(春山氏)
なんと、個人向けの「AOSBOX Cool」は容量無制限で月額500円(税抜)、法人向けの「AOSBOX Business」はプランによりますが、例えば容量1TB/ユーザー数100名のコールドストレージプランで月額5833円(税抜)と確かにお手頃価格です。AOSBOXシリーズのユーザーは30万人を超えており、「AOSBOX Business」も1000社以上の企業が採用しているそうです。
2種類のAmazonストレージを目的とコストに合わせて使い分ける
「AOSBOX」はPCにソフトをインストールし、バックアップするドライブやフォルダを指定すれば、後は自動的にクラウドバックアップにアップロードされます。
初回は、全データを転送するので時間がかかりますが、その後のバックアップは差分のみを転送するので短時間で済みます。完全自動でバックアップされるので、ユーザーは何も操作する必要はありません。指定した間隔で、データのバックアップがクラウドに保存されるのです。そのタイミングにインターネットにつながっていない場合は、次に接続したタイミングで自動的にバックアップが再開されます。接続が途切れたからといって、最初からやり直しにならないのはありがたいところです。
「『AOSBOX』は指定した間隔でバックアップするごとで、“世代バックアップ”を取れるのが特徴です。バックアップ容量はその分必要になりますが、ウィルスに感染した場合などに、感染前の環境に戻せることができるようになります」(春山氏)
このように簡単に使えて安心できるバックアップサービスを安価に提供できるのは、採用しているAWSのサービスを使い分けているからです。
「AWSには、Amazon S3とAmazon Glacierという異なるサービスがあります。S3は常にアクセスしてファイルをやりとりする一般的なストレージです。一方、 Glacierはファイルを圧縮して格納します。Glacierにバックアップしたファイルを復旧させるには、たとえ1ファイルでも4〜5時間かかります。その代わり、S3と比べて利用料が格段に安いので、サービスとしての利用料金も抑えることができるのです」(春山氏)
「AOSBOX Business」のコールドストレージプランや個人向けの「AOSBOX Cool」はこの安いGlacierのサーバーを利用しています。バックアップとしてアーカイブするデータは、トラブルが起きない限りアクセスしないのが普通です。ファイルの読み出しに4〜5時間かかるデメリットもそれほど気になりません。その分格安なのはありがたいところです。
もし、リアルタイムにクラウドバックアップとして利用したいなら、通常ストレージプランを利用できます。コールドストレージプランよりは割高になりますが、S3サーバーを利用しているので、高速なやりとりが可能です。
「資料の動画ファイルやスキャンした領収書の画像などは、コールドストレージに保存するような使い方が多いです。稼働中のプロジェクトで利用しているファイルは通常ストレージプランを利用し、終了したらコールドストレージに移動させるという、併用も可能です」(春山氏)
AIを利用した認識機能とAPI連携でバックアップデータを活用する
「AOSBOXを6年間運用し、膨大なデータがバックアップされるようになりました。そこで、有事の際にデータを復旧するだけでなく、別の活用法はないか、と検討を始めたのです」(春山氏)
そして2017年8月にリリースされたのが、「AOSBOX AIプラス ビジネス」です。「AOSBOX」に保存している画像をAIで分析して内容を表すタグを自動的に付けたり、人の顔を判別したり、OCR処理で画像やPDFファイルからテキストを抽出できるようになりました。
ブラウザから「AOSBOX」のページにログインすると、ユーザーがバックアップしたデータを検索できます。例えば、飛行機と入力すると、飛行機が写った写真が一覧表示されます。ユーザーがタグを指定していないのに、該当する画像が出てくるのは革新的です。
人の顔も判別が可能ですので、顔の画像で抽出することもできます。しかも一人で映っているものだけでなく、複数の人と映っていても判別ができます。例えば、多数のタレントが所属している事務所などで、膨大な写真から指定したタレントが映っているものだけをリストアップしたい、といったときに活用できます。
「動画をコールドストレージに保存する場合、中身を確認するたびに4〜5時間待つのは現実的ではありません。そこで、圧縮してコンパクトにした動画をS3サーバーに置いて利用できるようにしています。この場合、コールドストレージプランでご契約いただいたプランの容量の中でS3サーバーも利用でき、追加で料金が発生することはありません」(春山氏)
今後は、上位プランである「AOSBOX AIプラス ビジネス」を販売しつつ、APIの連携も進めるとのことです。
「AIがデータに意味づけしていくと、API(Application Program Interface)を介して新しいビジネスを展開できるようになります。例えば、テレビ制作の映像編集システムなどで作業したデータをユーザーが意識しなくても自動的にAOSBOXにバックアップされるようになります。コンシューマーでもビジネスでもデータをバックアップすることにより、ようやくビッグデータを活用できる時代に入ってきたのです」(春山氏)
API連携については、2018年今夏に発表される予定とのことですので、クラウドバックアップの今後がさらに楽しみです。
法人向けのバックアップサービスも日々進化し、ユーザビリティも高く、業態によって多様に使い分ける時代に突入しています。企業の資産価値であるデータのバックアップは、クラウドに保存するのは当然のことですが、できるだけ人的リソースを使用しない自動処理のサービスを導入することで、多くの障害を乗り越えることができそうです。
ITリテラシーの低い社員がいたとしても、「AOSBOX」なら意識せずに常時バックアップを取ることができますし、価格も安いため、今後もユーザーを増やしていくことは間違いありません。クラウドでのバックアップソリューションを検討する際は、有力候補となるのではないでしょうか。