デジタル技術の進歩によって、場所を選ばない働き方とインターネットによる情報の共有が定着しつつあります。そんな中で注目されているのが「ギグエコノミー」という働き方。
ギグエコノミーとはインターネットを通して単発での仕事を請け負う働き方です。なぜギグエコノミーが現在注目を集めているのでしょうか? また企業・労働者にもたらすメリットや課題とはなんなのでしょうか。
この記事では混同されがちなシェアリングエコノミーとの違いや、ギグエコノミーの普及によって生まれる新たな貧困問題について紹介します。
ちょっと小話〜ギグエコノミーの「ギグ(GIG)」とは?〜
ギグ(GIG)とは、小規模のライブやクラブなどでジャズ・ロックミュージシャンが一晩の単発契約で演奏することを指すスラングです。単発での業務契約「ギグ」で形成される働き方や経済形態を総じてギグエコノミーと呼んでいます。
ギグエコノミーとは? 拡大する背景を紹介
企業に属さず、インターネットを通じて単発の仕事を請け負う働き方や経済形態を「ギグエコノミー」といいます。近年、日本でもよく見かけるようになったフードデリバリーサービス「Uber Eats」はギグエコノミーの好例といえます。ギグエコノミーを活用する働き手はギグワーカーと呼ばれます。
では、フリーランスやアルバイトとの違いはなんでしょう。大きく異なる点は「雇用形態と業務時間」にあります。フリーランスは企業と雇用契約を結ばずに単発の仕事を請け負う成果報酬型。アルバイトは企業と雇用契約を結び、一定期間働く時間報酬型の働き方です。一見、単発の仕事を請け負うという点で、ギグワーカーはフリーランスと似ていますが、ギグエコノミーはUber Eatsといった事業者と雇用契約・業務委託契約を結びます。またフリーランスは請け負った仕事の完遂が求められますが、ギグワーカーは自身の裁量によって仕事内容を選択し、空いている隙間時間を利用して仕事ができるのです。
ギグエコノミーのメリット【企業・労働者】
ギグエコノミーの普及で生まれる、企業側・労働者側のメリットを紹介します。
低予算での人材確保【企業】
昨今、少子高齢化による労働力不足が叫ばれています。今後さらに深刻化が予測される中、企業はギグワーカーの活用で、必要なときだけ人材を確保できるようになります。また、ギグワーカーは正規採用ではないため、正社員にかかる賃金や福利厚生などの費用を抑えられるのです。
スキルの活用と柔軟な働き方【労働者】
労働者は自身の都合で働く場所・時間を選択できるため、ワークライフバランスを実現しながらの柔軟な働き方が可能になります。また、ギグワーカーは個々の企業との直接的なやりとりをせずとも、案件の受発注を行うプラットフォームを活用することで、自身のスキルを最大限に活かした仕事を受けられるのです。また近年、日本でも兼業・副業を認める企業が増えています。ギグワーカーは、会社員でありながら、収入を増やしたり、キャリアの幅を広げるのに好相性です。
つまり、ギグエコノミーはフリーランスやアルバイトよりも、労働者の都合を優先して仕事ができる、自由度の高い働き方といえます。では、ギグエコノミーが注目を集め、拡大している背景にはどんな要因があるのか、見ていきましょう。
ギグエコノミーの拡大を後押しする背景
ギグエコノミーがもたらす新しい働き方の背景には、デジタル技術の進歩と、企業・労働者の課題やニーズがあります。
デジタル技術の進歩と価値観・働き方の多様性
インターネットやSNSによる情報共有、デジタル技術の進歩は、企業に多くの恩恵をもたらしました。IoTやビッグデータ、AIなどのデジタルトランスフォーメーションは、新たなビジネスの創出はもちろん、「所有から共有」「モノからコト」へと価値観を変化させました。そのなかで働き方も多様化しています。
特別なツールや機器を必要とせず、スマートフォン1台でインターネットを通じて、仕事の依頼・請負が可能となったことがギグエコノミーの働き方を後押ししています。
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深刻化する働き手の確保
少子高齢化が進み労働人口の減少が課題となる我が国では、働き方の多様化と同時に新卒一括採用、終身雇用、年功序列などの旧来型の枠組みは崩壊しつつあります。「仕事は企業に属して行うもの」という概念さえも徐々に変化しています。つまりスキルや経験、能力も属している企業の“所有”ではなく、社会で“共有”するという風潮です。その先進的な事例が人材の効率的な活用であるギグエコノミーです。多くの人が自身の都合のいい時間に仕事ができれば、「仕事=社内の人間が行う」必要性もなくなるため、社外の個人を有効活用した労働力の向上が望めるのです。
ギグエコノミーはミレニアル世代の「働き方」
ミレニアル世代とは、主に1981年〜1996年に生まれた人を指します。特徴として、ミレニアル世代はインターネットがすでに普及した環境で育ったため、情報リテラシーが高く、人間関係はリアルよりもインターネットやSNS上でのコミュニケーションで構築されるといわれています。また仕事への価値観も「給与の高さ」や「社会的地位」よりも、「面白いこと」や「生産効率」を重視する傾向にあります。そのため自身の裁量で好きな時間に働ける、柔軟で自由度の高いギグエコノミーはミレニアル世代のニーズに合った働き方といえます。
ギクエコノミーとシェアリングエコノミーの違い
ギグエコノミーと混同される言葉に、シェアリングエコノミーがあります。ギグエコノミーは、個人が単発の仕事をさまざまな企業から請け負うのに対し、シェアリングエコノミーは「モノのシェア」によって成り立つビジネスです。
例えば2008年に設立されたAirbnb(エアビーアンドビー)は、個人が所有する宿泊施設や民宿を貸し出すサービスであり、シェアリングエコノミーの代表格です。近年は日本でも普及し始め、自転車や傘など、多くのシェアリングエコノミーサービス誕生の火付け役となりました。
ギグエコノミーとシェアリングエコノミーは、インターネットを活用した経済形態という点では同じですが、「シェア」する対象が異なります。ギグエコノミーは複数の企業が1人のギグワーカーに仕事を依頼する「ヒトのシェア」といえますが、シェアリングエコノミーは特定の「モノ」を複数人でシェアします。
ギグエコノミーが新たな働き方として期待される一方、シェアリングエコノミーは企業や個人に足りないモノをシェアすることで、資産の有効活用につながり、さらなる消費活動の促進が期待されています。
ギグエコノミーがもたらす新たな貧困問題とは?
企業の労働力を補い、労働者にもメリットがあるギグエコノミーですが、ギグエコノミーの普及によって「新たな貧困問題」が生まれるといわれています。また、ギグワーカーは単発の仕事を業務委託契約で結ぶことが多く、トラブル時の「責任の所在」が不明確になる場合があるのです。
新たな貧困問題
ギグワーカーが増える一方で、企業からの仕事量が比例して増えなければ、供給過多になってしまいます。その場合、一人当たりの賃金は低下し、企業で正社員として働く労働者とギグワーカーの間には大きな貧富の差が生じてしまうのです。またギグワーカーは社会保障や退職金の対象にならないため、自身の将来について自衛する必要があります。企業にとってのギグワーカーが、労働力不足を単発の低賃金で雇える「使い捨て」という認識がなくならない限り、ギグワーカーの柔軟な働き方や普及は困難でしょう。しかし正規社員と同等の報酬や補償を用意するには企業への負担が多いため、近年施行された「同一労働同一賃金」など、国としてギグエコノミーを推進する必要があるといえます。
責任の所在はどこに
ギグワーカーと企業との間に生じる問題として、「責任の所在」が挙げられます。業務委託契約という形で企業と契約を結んだ場合、ギグワーカーは個人事業主として、万が一の案件上のトラブル時には責任が問われます。しかし近年話題に上がっているUber Eatsでのトラブルは、責任の所在がどこにあるかが不明確です。2019年10月5日には、Uber Eatsに登録している配達員が、ユーザーの受取拒否に対し配達物を投げ捨て去ったことから、責任の所在が話題となりました。ユーザーがUber Eatsのサポートセンターに問い合わせたところ、「配達員が個人事業主だから、関与は出来ない」と一方通行に断られたそうです。ギグワーカーのモラルにも問題がありますが、サービス提供をしている企業からの責任転嫁など、ギグエコノミーにはまだまだ整備すべき問題が多くあります。
まとめ
働き方改革の推進、デジタル技術の進歩によって、私たちの働き方には多くの選択肢が広がりました。今回紹介したギグエコノミーのように、企業に属さずとも個人が活躍できる世界が現実になりつつあります。社会保障や責任問題など、いまだ課題は残されてはいますが、企業は減少し続ける労働力に対しての解決策として、ギグワーカーなど個人事業主をうまく活用することが求められるでしょう。