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多くの業種業界でDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組む企業が増えています。DXに欠かせない施策の1つがクラウドの活用です。新規に構築するシステムはもちろん、既存のシステムをオンプレミスからクラウドに移行し、運用の効率化を図る企業も少なくありません。
一方でオンプレミスからクラウドへの移行には注意すべき点もあります。クラウドのメリットとデメリットを理解せず、「とにかくクラウド化を」と進めた結果、新たな課題が発生してしまうケースがあるのです。
クラウドの恩恵を享受し、デメリットは回避する――そうした“良いとこ取り”を実現する手法として昨今、注目を集めているのが「ハイブリッドクラウド」です。ハイブリッドクラウドとは、パブリッククラウドとプライベートクラウドを組み合わせ最適なITインフラを構築する考え方、運用方法をいいます。
本記事ではハイブリッドクラウドの概要について説明すると共に、導入のメリットとデメリットについても解説します。
クラウド実装モデルは主に2種類
ハイブリッドクラウドとは、パブリッククラウドとプライベートクラウド等を組み合わせることでデメリットを補完していこうという考え方、運用方法です。まずは各環境における、クラウド実装のモデルとその特徴を解説します。
複数の企業で共有使用「パブリッククラウド」
パブリッククラウドは業者が提供するサーバを複数の企業で共有するクラウドコンピューティングの環境・またそのサービスです。パブリッククラウドを活用したサービスの例には「AWS(Amazon Web Services)」や「Office 365」、「GCP(Google Cloud Platform)」などが挙げられます。サーバの一部または全てを専有するオンプレミス型プライベートクラウドに比べて運用コストを抑えられるメリットがあります。
自社で一から環境を用意するわけではないためすぐに利用を開始でき、メンテナンスも自社で行う必要がありません。運用担当者の負担は減り、ビジネスのスピードを加速できるでしょう。
デメリットはメリットの裏返しです。メンテナンスしなくていいことはメリットですが、逆にいえば何か障害が発生した場合、自社内で対応できることには限りがあります。
自社専用のクラウド環境「プライベートクラウド」
プライベートクラウドは、一般的に企業が自社システム内でのみ利用するクラウド環境をいいます。さらに、プライベートクラウドは大きく「オンプレミス型」と「ホスティング型」の2種類に分類できます。
それぞれの違いを見ていきましょう。
・オンプレミス型プライベートクラウド
オンプレミスとは、サーバや回線といった情報システムのハードウェアを自社施設内に構築し運用することです。オンプレミス型プライベートクラウドは、そうした従来のオンプレミスとは異なり、サーバ環境を仮想化したクラウド環境下で自社運用します。
導入から構築まで自社で行うため、初期費用・管理費用が高額になりがちですが、自社のセキュリティポリシーに則った運用が可能で、カスタマイズ性に優れていると言えます。また、クラウド環境ではユーザーの使用した分だけコストが発生する仕組みにできるため、コスト管理も容易です。
・ホスティング型プライベートクラウド
ホスティング型プライベートクラウドは、ホスティング業者が提供するクラウド環境の一部を借り受け、社外からのアクセスを遮断した自社専用のクラウド環境を用意します。ホスティング業者の用意するクラウド環境を不特定多数のユーザーがインターネットを共有して利用するパブリッククラウドに比べ、自社専用のクラウド環境を用意するホスティング型プライベートクラウドの方が、セキュリティが高いと言えます。
一方、障害発生時の対応はホスティング事業者に一任しているため、復旧までの時間は把握できない場合があります。
自社でシステムを用意し運用するオンプレミス型プライベートクラウドに比べ、導入コストや運用コストを抑えられるのが特長です。
パブリッククラウドとプライベートクラウドの違い
パブリッククラウド、ホスティング型プライベートクラウドは、ホスティング業者が一定のパッケージにてクラウド環境・サービスを提供するため、システム初期構築段階でのカスタマイズ性の面でオンプレミス型プライベートクラウドに劣ります。
一方で、ホスティング型は費用や運用面でオンプレミス型よりも優れていると言えます。
クラウド移行の課題、DXを進めるには
システムをクラウドへ移行することで、さまざまな恩恵が受けられます。オンプレミスと違いメンテナンスが不要なため担当者の負担を軽減できますし、開発のスピードも上がります。インフラ導入の初期投資を抑えられるのでコストの削減も期待できます。
しかし、クラウドへの理解が浅いまま移行を進めてしまうと、メリットを受けられないばかりか思わぬ課題に直面することも考えられます
むしろコストが増大してしまう!?
先ほどクラウドのメリットとしてコスト削減を挙げましたが、それはクラウドでシステムを運用するためにきちんと最適化できている場合です。これまでオンプレミスで運用していたシステムをそのままクラウドに移行しただけでは、むしろ管理コストや運用コストが余分にかかってしまいコストの増大を招くリスクがあります。
運用の仕方がオンプレミスとは異なる
クラウドとオンプレミスでは運用の仕方が大きく異なります。たとえばクラウドはメンテナンスが不要ですが、一方で障害発生時などに自社で対応できることが限られます。そのような特性をしっかり把握しなければ、いざトラブルが発生した際に多大な運用コストがかかってしまうことになりかねません。
このような事態を避けるためには、クラウドとオンプレミスの環境の特性をしっかりと理解することが大切なのです。
クラウド環境のいいとこ取り「ハイブリッドクラウド」
パブリッククラウド、プライベートクラウド(オンプレミス型・ホスティング型)は、それぞれ違う特性を持った環境であり、異なるメリットとデメリットを持っています。各環境を組み合わせて利用するハイブリッドクラウドの特徴を見ていきましょう。
ハイブリッドクラウドのメリット
ハイブリッドクラウドは、各環境のメリットを同時に享受できます。特定の環境にこだわると相反する要素のどちらかを捨てる必要がありますが、ハイブリッドクラウドであれば両者の“良いとこ取り”ができるのです。もう少し詳しく見てみましょう。
①要件に合わせた柔軟な組み合わせと利便性
オンプレミス型プライベートクラウドは、比較的カスタマイズ性に優れてはいますが、使用できるデータの容量を増加しにくいデメリットがあります。ハイブリッドクラウドであれば、容量の増加を柔軟に対応できるパブリッククラウドと組み合わせて利用できるため、要件・状況に合わせた対応が可能になります。
②リスク分散
例えば、繁忙期にアクセスが集中して一時的にサーバを増強する場合、オンプレミス型プライベートクラウドでは管理・維持にかかるコストが大きくなります。容量の増減などにフレキシブルに対応できるパブリッククラウドを併用することでコストを抑えながらサーバへの負荷を分散できるのです。
また、データを分散して物理的に異なる場所にて保存することで、マルウェアといったサーバ攻撃のリスク分散になる他、予期せぬ災害からの早急な復旧・BCP対策が可能になります。
③コストの最適化
ここまで説明してきたように、各種クラウド環境は一長一短です。利便性やリスク分散の面にて、互いのメリットを活用しつつ、デメリットを保管し合うハイブリッドクラウドにおいて、コストの最適化は特に重要なポイント。誤った導入・運用がなされると、むしろコストがかかってしまうため注意しましょう。
例えば、機密性が高い情報や長期にわたり使用するシステムはプライベートクラウドにて扱い、機密性が高くないデータや短期的に使用するシステムはパブリッククラウドで扱うようにすれば、それぞれのメリットを生かしながらコストを抑えて運用できます。
ハイブリッドクラウド導入の注意点
異なる環境を組み合わせている分、管理や運用に手間がかかります。パブリッククラウドだけならなにかトラブルが起きてもサーバを提供する業者が対応しますが、オンプレミス型の場合は自社で対応しなければいけません。複数の環境を組み合わせて利用するハイブリッドクラウドの場合は、利用する全ての環境の知識を持つ人材が不可欠です。
また、ハイブリッドクラウドのメリットにコスト削減を挙げましたが、この点についても注意が必要です。コストを削減できるのは、あくまで各環境を適切に使い分けたときです。自社のシステムに適した運用ができなければ、コストの肥大につながる危険性があります。
まとめ
DXを推進するなら真っ先に取り組むべきはシステムのクラウド移行によるコスト削減と運用の効率化です。しかし、クラウド移行そのものが目的化してしまうと、結果的にコストや労力の増大につながってしまうリスクもあります。
パブリッククラウド・プライベートクラウドといった各種クラウド環境の特性を理解し、ハイブリッドクラウドの導入も視野に入れてみてはいかがでしょうか。